第35話 猛獣美女の大暴れ 12
三年前、セントラル星系第九惑星エステリが長年の交渉の末、ようやくエミリオン連合に加盟することになった。
エステリはエミリオン連合のやり方に異を唱え、ずっと連合加盟を拒否してきた国家だった。
本来なら力ずくで従わせるところだが、エステリの科学力と軍事力は非常に高く、エミリオン連合軍を投入したところで相当な犠牲が出ると言われていた。
何とか戦いを回避して連合加盟をさせたいと願っていたエミリオン連合首脳部は、ようやく前向きな回答を得られてほっとしていたという。
これでセントラル星系に存在する全ての惑星がエミリオン連合に加盟したことになる、と喜んだ。
宇宙に大きな影響を持つエミリオン連合が、同一星系にある惑星一つ従えられずそのままになっている、というのは外聞上大変よろしくない。
これで他の加盟国に対する示しも付くというものだ。
しかしそれこそがエステリの罠だった。
連合の加盟手続きの為に、連合首脳部のトップである議長と、その側近達がエステリに降りた。
その護衛を務めたのが当時のエミリオン連合軍第八艦隊、グレアスが指揮する部隊だった。
第八艦隊の旗艦はグレアスと共に軌道上からの監視を行い、レヴィやオッド達は地上へ降りて会場の護衛任務に就いていた。
戦闘の可能性は低かったので、何事もなく終わると思われていた。
しかしそこで悲劇が起こる。
エステリ首脳部は自らを餌にして連合首脳部を招き入れ、そして殺害した。
レヴィ達が止める間もなくそれは行われた。
エステリの首相と当時の連合議長が握手を交わした瞬間、狙撃されたのだ。
護衛が探知出来ないほどの超長距離狙撃だった。
最初に議長、そして側近も次々と狙撃され、残ったのはエステリの首脳部と護衛のレヴィ達だけだった。
レヴィ達は必死で抵抗したが、敵陣の真っ只中であり、援軍は軌道上にしか存在しない。
エミリオン本国からの援軍も期待出来ない。
議長とその側近が殺された以上、一時的な指揮系統の混乱は避けられない。
そんな中でもレヴィとオッド、そして仲間達は辛うじて生き残っていた。
ほんの十数人の生き残りをまとめて、レヴィは軌道上のファルコンへと通信を行った。
命令を仰ごうと思ったのだ。
しかしそこで待っていたのは、議長が罠に嵌まって殺されたという事実を揉み消す為に、エステリの首都ごと壊滅させる、という最悪の手段だった。
軌道上からミサイルを撃ち込んで皆殺しにする、という極めて物騒な手段ではあるが、この上なく有効な手段でもあった。
エミリオン連合としてはエステリの罠にかかって議長と側近が殺されたという事実を残す訳にはいかなかったのだ。
そんなことになればエミリオン連合の結束に亀裂が入り、今後の外交に大きな影響を与えてしまう。
議長と側近達はエステリに向かう途中、宇宙船の事故で死亡、という事実が後から発表された。
後任は一ヶ月後に選ばれ、エミリオン連合首脳部は何事もなかったかのように機能していた。
その後、首脳部を失ったエステリは、国家としての姿を失った。
高い技術力も軍事力も首都に集中していたので、その時の事件でほとんどの戦力を失ってしまったのだ。
連合全体のことを考えるなら、確かにあれが最善手だったのかもしれない。
罠に嵌めたという事実を当事者ごと消し去ったのだから。
死人に口なしである。
だからと言って、保身の為に巻き添えで殺されたレヴィ達が納得出来る訳がない。
任務中における敵方の攻撃で犠牲になった、というのなら理解出来る。
それは軍人として覚悟するべき死に方であり、その状況ならば嫌々軍人になったレヴィでさえ納得しただろう。
しかし都合の悪い事実を揉み消す為だけに殺されたというのは、到底納得出来ることではない。
連合も、それを実行したグレアスのことも決して許せるものではない。
あの時レヴィが生き残ったのは運が良かっただけだった。
重傷のオッドを助けることが出来たのもたまたまだ。
しかし生き残ったのはレヴィとオッドの二人のみ。
他は全員死んだ。
目の前で、悲鳴を上げながら、絶望しながら、呪いながら死んでいったのだ。
それからは亡霊として、偽の身分で生きてきたレヴィとオッドである。
今の人生が悪いとは言わない。
それなりに楽しく、充実した日々だと思う。
それでも、忘れられない傷は存在するのだ。
許せない過去は存在するのだ。
だから殺す。
過去を清算する為に。
死んでいった仲間の為などとは言わない。
自分の為だ。
復讐は、自分がすっきりして、納得して、そして未練をなくす為に行うことなのだから。
「でも、だからこそ諦めきれないよな」
自分の為だからこそ、エゴを貫く為だからこそ、ここで見逃すことは出来ないのだ。
「さてと。マーシャがどんな手段であいつらを潰すのか、お手並み拝見といきますか」
恐らくは天弓システムによる集中攻撃だろうが、他の船をどうやって牽制するのか、ちょっとした見物だった。
楽しみですらある。
そしてその予想は、いい意味で外れた。
いや、度肝を抜かれたという方が正しいのかもしれない。
「……常識ブレイカーにもほどがあるぜ」
レヴィはそんな風に呆れ混じりの呟きを漏らす。
それほどまでに、マーシャの取った行動は宇宙船の、そして操縦者の常識を破壊するようなものだった。
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