7話 都会生活スタート
『
王族の! 支払いで! 買った! というだけで最高なのですが、実際にいじってみた『
逆にこれがない暮らしをちょっと想像できません。
きっと世界中で広がり、持っていない人などほとんどいないことでしょう。
だって今日も『
私は女騎士さんとツーショットで自撮りなどしつつ、『
なんていうか、学園です。
アルスル陛下が即位してから世の中には『義務教育』というシステムができました。
私もこれの恩恵を受けている立場ではありますが、私の地元で『義務教育』と言えば、基礎教養校を指します。
基礎教養校というのは十歳から三年ほどかけて文字の読み書きや計算、この社会の歴史などを習う場所となっています。
なにぶん田舎なものですから狩猟や農耕などの家業を手伝っている、というか重要な労働力の一人となっている子供も多いもので、この基礎教養校は週七日のうち三日だけ通えばいいという決まりになっていました。
ところがこれから私が通うらしい学園は、全寮制で、週七日のうち五日間も授業があり、なにより六年間も勉学に励むうえ、学ぶ内容も基礎教養のみではないのでした。
『聖剣学部』『魔導学部』『奇跡学部』と呼ばれる三つの学部があって、それぞれの学部で次代の英雄を育てていくのです。
聖剣学部ではアルスル陛下の後継を、魔導学部ではシナツ様の後継を、奇跡学部ではエリザベート様の後継を、というようにわかれており、世界中から選ばれた千人が『次代の英雄』を目指してひしめきあっているようでした。
そんな意識の高そうなところに放り込まれた私の悲哀が、想像できるでしょうか?
たとえ想像できると言う者があっても、その人はなにもわかっていないに違いありません。
私の心は私にしかわからないのです。この、少しでも怠ければ矢のような勢いで糾弾されそうな意識高そうな空間に放り込まれた私の気持ちなど……
「グレン様には一般生徒に混じって過ごしていただくことになります。その中で、次代の英雄として『これは』と思う者を選び、導いていただきたいというのが、陛下はじめ三英雄の方々のご意思です」
祖母が言うには、私は祖父のとっていたパークにくわえ、『神のご加護』とかいうのを取得しているらしいです。
だから能力的にはもはや祖父そのもの、いえ、それ以上と言っても過言ではないのですが、どうにも、転生した祖父に求められているのは人格、性格面であるようでした。
「私も聖剣学部の出身ですので、そちらの方面でなにかあれば、気軽にメッセージなど送ってください。……あそこはね、本当に気持ちのいい連中が集まっているのですよ。グレン様であればすぐに打ち解けられると思います」
つまり私とは相性が悪そうな予感がします。
「グレン様の肉体は今、十歳ということですでに義務教育を始められているかもしれませんが、年齢を一つ少なくし、来年度より一年生として入学していただくことになります。そのぐらいの年齢の子は一年で本当にぐんぐん大きくなりますが……グレン様の今の肉体であれば、年下に混じっても違和感がないかと思われます」
遠回しに発育不全をディスられました。
私の家系の女性はみな小柄で、大人になっても子供みたいなのが特徴なのです。
体が小さいと不便なもので、私は田舎のほうにおりましたから、田舎の子供というのは本当に体格やら家の経済状況やらで容赦なく人を馬鹿にしますので、小さいことは、私にとって、損失なのでした。
幸いにも私には味方になってくれる大人が大勢おりましたので、私を馬鹿にした子はもれなく二度と逆らえないようにすることができました。
しかしここは都会です。
私ほどの美少女はそうそういないかもしれませんが、それでも田舎よりはかわいらしい子も多く、私がもの言いたげな顔をしつつ涙を一筋こぼした程度で親身になってくれる大人の数は、だいぶ減っているように思われました。
しかも私はおじさんなのです。
中身も外見も女の子なのに、今の私は中身がおじさんぶって生きていかねばならないのでした。
面倒くさい。やめたい。
しかしもう完全にあとには退けない感じです。
せっかく買ってもらった『
ところで寮の部屋を見て気になることがあるので、私は『昔の男』を維持しながら女騎士さんにたずねました。
「……ところで、ここは二人部屋のようだが……」
「ああ、はい。もう二週間もすればルームメイトが来ると思います。ここは女子寮なので女の子が来ますが……グレン様の奥様への愛情はなみなみならぬものがあると陛下がおっしゃっておりましたので、大丈夫ですよね?」
「……ああ。問題はねぇよ」
やった! 女の子だ!
『お前中身が男だからルームメイト男ね』とか言われたら、耐えきれないところでした。
中身が男ということにしてはいるのですが、私の中身は女の子なのです。
男の子とルームメイトなど、相手をどうにかして部屋から出て行かせるよう画策する未来しか見えず、それはとても面倒に思えてなりませんでした。
「グレン様、あなたに用いた『反魂の法』は、各国でも首脳か、それに近しい者しか知らない秘法です。その存在が世に知られれば、大きな問題が起こることは想像にかたくないでしょう。とくに、セリエ教旧説派からの突き上げは、厳しいものになるかと思われます」
セリエ教には新説派と旧説派があって、たとえば三英雄のエリザベート様が属しているのが新説派にあたります。
旧説と新説でなにが違うかと言えば、それは女神セリエの教えの解釈です。
ざっくり言えば旧説派は『人は死んだら純粋なエネルギーになって大地に還るので、転生や復活は絶対ダメ』という解釈をしています。
一方で新説派は『人は死んだら魂とエネルギーにわかれて、エネルギーは大地に還るが魂はセリエのもとに行き、再び生まれるまで休むので、転生や復活もありうる』という解釈なのだそうです。
「……そういうわけですので、あなたには、この学園で十歳の女の子としてふるまっていただきます。無理があるように思いますが……陛下のご意向なので、私からは、どうにも、こうにも」
「……」
「しかし『
やけにメッセージを求められている気がします。
女騎士さんはひょっとしたら友達がいないのかもしれません。
「それでは、卒業生がいつまでも寮にいるのも不自然ですので、私は学園外の騎士団宿舎で休みます」
なにかあればメッセージを送ってください。
最後にもう一度そう言って、女騎士さんは寮を出て行きました。
なんか、学園生活を送ることになってしまいました。
この意識高そうな子らの集う学園で、私は果たして無事に生きていけるのでしょうか?
なんだか面倒な予感がしたので、私はとりあえず考えるのをやめて、眠ることにしました。
お金がかかっているのでしょう、寮のベッドはふかふかで、私が眠りに落ちるまで、多くの時間はかかりませんでした。
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