ホントは転生してないんですけど!?
稲荷竜
一章 『影の英雄』グレン、二十年後の世界で復活する?(しない)
1話 『影の英雄』復活?
「目覚めたかい、グレン」
私が目を開けると、そうそうたる顔ぶれが私の顔をのぞきこんでいました。
真っ赤な髪を真後ろになでつけた大柄な男性は、誰あろう我が国『エイヴァロン・ヒューマンラウンズ』の国王陛下、アルスル様でした。
「ん。……二十年ぶり、になるのかな」
声からも顔立ちからもクールさを感じさせる、髪の先っぽがタコの触手のようになっているお方は、『海上にたゆたう中つ国』の主席魔女であらせられるシナツ様です。
「お久しぶりですねグレンさん。私たちが大人になっているので、おどろかれましたか?」
慈愛を感じさせるほほえみを浮かべながら優しく語りかけてくださるのは、大陸最大宗教エイラ教、新説派の最大神官であるエリザベート様なのです。
私は普通に生きていればまず言葉を交わすこともないであろうお三方に声をかけられ、返事もできません。
アルスル陛下は、そんな私に笑いかけてくださいました。
「混乱しているのだろう? 無理もない。かいつまんで事情を説明しよう」
二十年前、この大陸の人々は『人類の脅威』と呼称されるものによって滅ぼされようとしていました。
その時に『人類の脅威』を討伐したのが、ここにいる、アルスル陛下、シナツ様、エリザベート
そして、彼らが先ほどから親しげにその名を口にする『グレン』というのは、まだ若かったお三方を導き、旅や戦いの基本をたたき込んだ、『影の英雄』と呼ばれる人でした。
影の英雄グレンは『人類の脅威』との戦いの時に、その命を散らしてしまいましたが……
世界は三英雄と影の英雄により平和になったのです。
しかし、『人類の脅威』は、それから二十年経った今、再び、復活のきざしを見せているのです。
四十歳を間近にして若きころほどの力を失ったお三方は、新世代の英雄を選び、それを再び導いてもらうべく、死した『影の英雄グレン』の魂を、転生させることを決めたのでした。
しかしそのための術式はまだ完成とは言いがたく、すさまじい魔法陣……描いた陣が三カ国にまたがってしまうほど壮大な手間とコストをようしたのです。
失敗はできません。
お三方を中心としたグレン復活を目指す方々は、転生が少しでも成功するように、慎重に慎重を重ねて肉体の選定をしました。
その厳しい条件ほぼすべてを奇跡的に満たしたのが、十歳の少女……影の英雄グレンの孫娘にあたる、少女だったのです。
つまり、私です。
……私、なのです。
「いや、成功してよかった。莫大な時間、莫大な資産、各国の秘密裏の協力あってようやく実現した転生だ。これで失敗したら、私たちは責任をとらされて、『人類の脅威』に備えるどころではなくなってしまうところだったよ」
アルスル陛下は、臣民の前では見せないような打ち解けた笑顔を浮かべていらっしゃいました。
シナツ様もエリザベート様も、安堵したような様子です。
きっとお三方にとっても、大陸にとっても、私の祖父は特別な存在だったのでしょう。
孫として誇らしく思います。
思いますけど。
私は冷や汗を垂らしながら、無言で、あいまいに、笑い続けました。
言えるはずがありません。
私、ホントは転生してないんですけど!?
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