#31 大馬鹿者
「参りました……」
結局、僕は大した反撃も出来ずに負けてしまった。 途中、とにかく撃ちまくったロックバレットが数発掠ったくらいで、ユレーナさんはほとんど無傷だ。
「いやぁ、中々楽しかったぞ! 普通に強いじゃないかショーマ!」
「いや、ほとんど何も出来なかったんですけど……」
「そんな事ないぞ? 大体の奴は最初の立ち合いで終わっちまうから、ここまで長く戦えたってだけでも十分だ! 何発か危ないのもあったしな!」
「僕としては、ユレーナさんが予想を遥かに上回る程に強かったので驚きました。 金ランクの冒険者ってみんなユレーナさんくらい強いんですか?」
「んー、人によるんじゃないか? 近距離相手だったらアタシは負け無しだが、例えばミリーと広い場所でなんでもありの勝負になったら、大規模魔法で吹っ飛ばされるかもな。 まぁ、簡単には負ける気はしないがね!」
大規模魔法に対しても、この人対抗手段あるのか……。 とんでもないな。
「それで、ノアル? アンタもやるかい?」
「……ん! お願いする。 ……ショーマ、剣出して」
「分かった。 一応怪我には気をつけてね」
「……ん、了解」
僕はアイテムボックスからノアルの双剣を出して手渡す。 剥き身のままの剣を持ったまま移動するわけにはいかないので、基本は僕のアイテムボックスにしまってある。
僕はそれでもいいかもしれないけど、依頼の時とかはノアルにもしっかり装備してもらった方がいいだろうから、今度、鞘とか作ろうかな?
「よし! じゃあやろうか! 遠慮なくかかっておいで!」
「……ん!」
「それじゃあ、いきますよ……、始め!」
2人の試合を開始する掛け声をかけた。 休憩がてら、僕はその2人の試合を見逃さないように、地面に座って見ていた。
*
「あ、ショーマさん! 大丈夫でしたか?」
「大丈夫ですよ、リムさん。 とてもいい経験ができました」
「……負けた」
「ノアルも強かったぞ! 近接戦闘だけならショーマよりも強いな!」
そう、ノアルもユレーナさんには勝てなかった。 試合時間は僕よりも短かったが、割といい勝負をしていたのではないかな?と思った。
なぜ、疑問形なのかというと、2人の戦いのスピードが速すぎて、ちょいちょい見逃す場面があったからだ。
「お疲れ様でした。 依頼の報酬の準備とギルドカードの更新も終わってますよ」
そう言ってリムさんに渡されたのは依頼の報酬の金貨3枚と銀貨3枚に赤いギルドカードだ。 ノアルは黄色のギルドカードである。
「ありがとうございます」
「……黄色い」
「実力的にはもう少し上でもいいが、あまり早く上げすぎても色々と問題があるからな。 とりあえず赤ランクでお願いするよ」
「十分ですよ、こんなに早く上がれるとは思ってなかったですから」
「そうかい、まぁ、今後も色んな依頼を受けておくれよ! そうしてもらえればギルドも依頼主も助かるからな!」
無論、そのつもりだ。 ランクが上がった事で受けられる依頼も増えた事だろうし。
「分かりました。 あ、でも僕達、明後日に獣人国に行く予定なので、少しの間は依頼とかは受けられないと思います」
「獣人国……、ノアルさん関係でしょうか?」
「……そう。 ……最初は一人で行くつもりだったけど、ショーマも来てくれる」
「そうなのかい。 確かに最近、森で異変が起きてるから、一人で行くのはオススメしないね。 アンタら2人で行くなら大丈夫だとは思うが、しっかり準備して行くんだよ?」
「そのつもりです。 なので、明日から少しの間、この街を留守にしますね。 事が終わり次第戻ってくるとは思いますが」
「そうか! まぁ、冒険者は自由だからな。 気の向くままに旅をすればいいと思うぞ。 私としてはこの街にいて、たまに模擬戦の相手になってくれると嬉しいがな!」
「今のところは戻ってくるつもりですよ。 この街は良い街ですからね」
「そうかい、それじゃあ、アタシは戻る事にするよ。 またやろうな2人とも!」
「はい、機会が有ればまたやりましょう」
「……またやろ」
ユレーナさんは満足気にこの場から去っていった。
模擬戦してたら大分良い時間になったし、僕らもそろそろ帰ろうかな。
「ショーマさん、獣人国にはどうやって行くつもりですか?」
「歩いて行くつもりですよ?」
「もし良かったら乗合馬車を利用してみてはどうでしょうか? 朝一に、この街の門の近くに獣人国へと向かう馬車があるので、それに乗ればお金は少しかかりますけど、足で向かうよりも断然早いと思います」
「そんなものがあるんですか。 教えてくれてありがとうございます、検討してみますね」
「いえいえ。 それで、その……、くれぐれも気をつけてくださいね……? そしてまた、無事にこの街に戻って来てください」
「心配してくれてありがとうございます。 無理はするつもりはないので、安全第一で行ってこようと思います」
「はい! 是非そうしてください!」
その言葉に感謝をし、僕達はギルドを後にした。
*
解体場でレッドウルフの素材代の金貨9枚を受け取った後、みけねこに戻って僕はミルドさんに明後日に獣人国に向かうことを告げた。
「そうか、もう戻っては来ないのか?」
「いえ、向こうで何かない限り戻ってくるつもりです。 この街もこの宿もとても過ごしやすいので」
「そう言ってもらえると嬉しいな。 まぁ、お前ならうちはいつでも泊まって大丈夫だから、遠慮なく戻ってこい」
「ありがとうございます」
その後、僕達はご飯を食べ、早々に部屋に戻って寝る事にした。
食事中、ミラルちゃんに、少しの間会えない事を言ったところ、物凄く悲しそうな寂しそうな顔をされたが、必ず戻って来ると言ってなんとか納得してもらった。
部屋に戻って、ベッドに横になるとすぐに眠たくなってきた。 ユレーナさんと戦って、いい感じに疲れていたみたいで、そのまま僕は意識を手放した。
*
「……またか」
翌朝、目を覚ますと、僕のベッドにノアルがいた。
そんなに広くないベッドなのに、器用に僕と壁の隙間に収まっている。 狭くないのかな? いや、猫は狭い場所が好きとも言うし、そうでもないのだろうか?
「というか、僕もなんで気付かないんだ……?」
普通、他人に同じベッドに入られたら気付くと思うのだが、昨日も今日も全く気付かなかった。
まぁ、この前と違って全裸で抱きつかれたりしてなかった分、まだマシか……、マシか?
「……さん」
そんな事を考えていると、隣で寝ているノアルが何かを言っているのが聞こえた。
「……お父さん、……お母さん」
そんな寝言を呟くノアルの顔をよく見ると、目尻からは涙が流れている。
……あまり表には出さないけど、不安なんだろうな。 本当は今すぐにでも、故郷の村に向かいたいんだと思う。
魔力が回復するには少なくとも、あと半日はかかるらしいし、出発は明日の朝一になる予定だ。
どうにか出発を早く出来ないかと、魔力を回復させる魔法とかがあったらいいなと思い、取得スキル一覧を見てみた事もあるが、そんなスキルや魔法は無いみたいだ。
まぁ、そんなスキルがあったら魔法やスキルが使い放題になってしまうから、無くて当然と言えば当然か。
体を起こし、ノアルの頭を優しく撫でた後、ステータス画面を開く。
ベッドから出ないのは、ノアルの事を考えて、離れない方が安心するだろうと思ったからだ。
*
10分程、ステータス画面を眺めている時に、僕はそれを見つけた。
「え……、これって……」
見つけたのは魔導師で使う事のできる魔法の一つである、支援魔法の詳細欄だ。
なぜ、そんな所を見ていたのかと言うと、魔導師で使える魔法は本当に多く、未だに確認出来ていない部分も山程ある。 特に、今見ていた支援魔法は出来る事が多く、魔導師の職業の中でも一、二を争うくらいよく分かっていない魔法だ。 今、確認して分かったのだが、この魔法は自分にもかけられるらしい。 支援というくらいだから自分には使えないもんだと勝手に思ってた。
ノアルとパーティーになった事だし、ノアルに支援魔法をかけてパワーアップさせるという事も出来るんじゃないかと思って調べていたが、思わぬ収穫だった。 が、それ以上の驚きを見つけた、いや、見つけてしまった。
それがこの魔法だ。
マジックファー:使用者の魔力を対象者に分け与える事が出来る。 対象者の最大値を超える魔力を渡す事は出来ない。
魔力を回復させる魔法、あるじゃんか……。
正確には違うが、ざっくりとまとめると、僕の魔力をノアルに渡して回復させられるという事だ。
取得出来るスキルを探して、魔力を回復させる方法は無いんだと思い込んでいた。 自分の魔力を人に渡す事が出来るスキルがあって、それをまさか、自分が使えるなんて思ってもみなかった。
本当に申し訳ないし、情けない。
自分の力も把握せず、ノアルを助けたいなんて、無責任もいい所だ。 この世界に来てからというもの、そこまでの苦労が無くて完全に弛んでいたのが身に染みて分かる。
本当に、僕は大馬鹿者だ。
……ノアルが起きたら、真っ先に謝ろう。
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