第26話 三大賞金首


 宿屋の一室に戻ってきた。宿屋にレロイがいることを心のどこかで期待していた。

「やっぱり誰もいないか」

「何が?」

「いや、もしかしたらレロイが帰ってきてるんじゃないかと思ってな」

「リャクトって言うことは冷たいくせに意外と優しいとこがあるんだね」

「あいつには情報収集の才能があったから、居たら助かるんだ」

 急にサユハ表情が一変した。

「やっぱり、リャクトって最低!レロイ君のこと心配してると思ったら、そんなことのために居て欲しかったなんて…レロイ君、死んでるかも知れないのよ!」

 サユハの目には泪が溜まっている。

「大丈夫だ。あいつが死ぬ訳ないだろ。レロイは普通じゃないからな」

サユハは目を擦り、泪を拭いた。

「そうだよね…」

 俺とサユハの間に少しの沈黙が流れた。

「あっ!前から気になってたから聞いておきたいんだけど、ランクSSの賞金首ってリャクト以外の後三人はどんな人なの?」

 俺はサユハの風人としての常識のなさに呆れることにも半分飽きていた。

「お前、そんなことも知らないで風人やってたのか?風人として常識だぜ?」

「いいじゃん!知らなくたって。今からその常識ってのをちゃんと学ぶからそれでいいでしょ?」

「ったく、わかったよ。世界一の賞金首はイルダ・フロウって奴で額は八十九億。女好きでいつもはへらへらしてるが、奴は風人としても世界一だろうな。認めたくはないが。絵画として世界一の価値を誇るカンザルの夕焼けを政府から盗んだのも奴なんだ」

「へぇー。じゃあ次の人は?」

「こいつは殆どが謎に包まれてる奴だ。本名から始まって年齢、出身地、何をして賞金が懸かったのかなどすべてが不明だ。だから、こいつの賞金首リストには顔が載ってないんだな。一応、性別は男らしいが…そいつの額は三十五億で、通称ローブマンって呼ばれてる」

「ろーぶまん?なんでローブマンなの?」

「そいつを見た奴全員がローブを身に纏っていたっていう証言をしたからだ」

「ローブって…まさかあの時の…」

「どうかしたのか?」

「えっ!?いや、なんでもないよ。えへへへへへ…」

 サユハは焦りを見せて否定したが、顔を見れば何かを知っているのは明らかだ。

「なんか知ってるのか?ローブマンのことを」

「へっ?し、し、知らないよ!」

「絶対、何か知ってるだろ。顔に出てるぜ」

「嘘?本当に!?」

 サユハは慌てて部屋の隅にあった鏡で顔を確認していた

「なぁんだ。出てないじゃん」

 サユハは安心した様子で振り向いた。

「やっぱり何か知ってるんだな」

「い、いいじゃんそんなことは。それより、後一人は?」

「お前がローブマンについて何か知ってても別にどうでもいいけどな」

「早く最後の一人!」

「こいつもすごいぜ。俺は話を聞いただけだから顔も名前もわからないんだけどな、額は十七億なんだが、歳は十八でしかも女らしいぜ。なんで賞金懸けられてるのか、俺は知らないけどな。賞金を懸けられたのが半年前だからな。でも風人ではないらしいな」

「十八って言ったら私より年下じゃん!」

 サユハは素直に驚き、それと共に少し落ち込んだ表情を見せた。

「お前よりは確実に強いだろうな」

「煩い!今日は相手が悪かったの!あんなはずじゃなかったのに…」

「そんなこと言ったってお前、この前にドギと争ったとき体中傷だらけだったろ?あんな子供相手に傷だらけだったからな」

「あ、あれも相手が強かったんだの!しかも、あの子私よりも二歳も年上だったんだよ?」

「そんなのはただの言い訳だろ」

「うぅ…」

 サユハは俺の言葉に狼狽えている。

「さぁて、今日はもう疲れたから寝るかな」

 俺はベッドに体を任せるように横になった。

「そういえばさぁ、私もここで寝るの?」

 サユハは俺の隣のベッドを指差した。

「嫌なら出てってもいいぞ」

「そうゆうことじゃなくて。リャクト、変なことしない?」

「お前みたいな色気のないバカ女に一体誰が手を出すって?」

「もういい!」

 サユハはもう一つのベッドに怒りながら横になった。

「おやすみ!」



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