第17話 バンダナ男と露出女
「あーあ、リャクトもあんな言い方しなくてもいいのに…リャクトなんて大ッッ嫌い!」
サユハは人影のない闇に包まれた街をただあてもなく、彷徨い歩いていた。そんな寝静まった街を二人組の男女が歩いてきた。
一人は頭を覆い尽くす青いバンダナを巻いて背中に大鎌を携えている男だ。もう一人の女は露出度の高い服を着こなし、腰まである長い茶髪を二つに縛っている。
「ねぇ、なんで私までかり出されなきゃいけないの?せっかく、ゆっくり休みを楽しんでたのにぃ」
「俺に言うなよ。文句を言うならあいつに言ってくれ」
「わかってるぅ!でもさ、かり出されるだけならいいけど、なんでラディムと一緒なのぉ?それが納得できないぃ」
「俺じゃ不満か?」
「別にラディムが嫌いな訳じゃないんだけどさ、あんたと一緒だったら仕事が楽しくないからぁ」
「仕事は楽しむものじゃないだろ」
「そうだけどさぁ…どうせするなら少しは楽しみたいじゃん」
二人とサユハがすれ違い、サユハはそんな二人をなんとなく見つめていた。
「なんだろ?あの人たち…こんな時間に…」
―――――――――――――――
宿で朝を迎えたが、サユハは戻ってこなかった。
「どうするのか、お主の話を聞きたいのだが…」
「俺の考えとしては星敬祭に展示されるのだけは避けたい。だから狙うとしたらここに運び込む時だな」
「では、二日後になるのだな」
「そういうことになるな」
レロイは俺の言葉の終わりを待たずに部屋の扉に手を掛けた。
「私はサユハを探しに行かせてもらおう」
「あぁ、勝手にしろ。サユハを見付けたらいつまでもいじけてないでさっさと帰ってこいって伝えてくれないか?あいつに面倒起こされるとこっちまで迷惑するからな」
「承知した」
レロイは部屋を出ていき、俺はその背中を見送った。
―――――――――――――――
レロイは人込みの中を周りを見渡しながら歩いていた。その人込みの中に頭を覆い尽くす青いバンダナを巻いて背中に大鎌を携えている男を見付けた。
その刹那、レロイの表情が一変する。
「あの男は確か…しかし何故こんなところに…」
レロイは強張った表情のままその男の後を付けた。男の隣には露出度の高い服を着こなし、腰まである長い茶髪を二つに縛った女が歩いている。
二人はどんどん人のいない方へと歩いていった。レロイは誘い込まれていることに未だ気付くことはなかった。
そうして、人気のないスラム街まできて二人は角を曲がった。レロイも恐る恐るそれに続いた。だが、角を曲がった瞬間にそこに二人はいなかった。そこは突き当たりで道が終わっている。
「一体どこへ…」
「お前誰だ?」
その声にレロイはすぐに振り返った。そこには、レロイが後を付けていたはずの二人が立っていた。
「なっ……!」
「ねぇ、あんた誰ぇ?まさか、ラディムの知り合い?あたしはこんな人知らないしぃ」
「俺だってこんな奴知らないさ」
「くっ…」
レロイはこの状況を打破しようと辺りを見渡した。
「まさか逃げようなんて考えてないだろうな。お前が誰なのか話してもらうまで返す訳にはいかないな」
「なんでぇ?いいじゃん別にぃ。逃がしてあげればぁ。吐かせるのとか面倒だしぃ」
「それで後で何かあったらその方が面倒になるし、あいつに怒られるぞ」
「あ、あの人に怒られるのだけは勘弁~」
エナビィは顔の前で軽く手を振った。
「だろ?」
「わかったよぉ」
「仕方ない…」
「おっ、やるのか?いいねぇ、そういう奴嫌いじゃないぜ」
ラディムが大鎌に手を掛けた。
「ねっ!ねっ!あたしにやらせてよぉ!ラディムならすぐ終わっちゃうから見てる方も楽しくないじゃん」
「俺は一瞬で終わらせることに美学を感じるんだ」
ラディムは誇らしげな表情をした。
「相変わらず変だよねぇ」
「煩い。こんな狭い路地じゃ大鎌を振り回すこともできないし、エナビィ頼んだ。それと頑張れよ」
「こんな人、頑張んなくても余裕だよぉ」
「あんまり余裕こいてると、隙を突かれるぞ」
「大丈夫!だいじょう―――」
その瞬間にレロイは右腕を変化させ、腕だけが一気に距離を詰めた。
その勢いのままレロイはエナビィに突きを食らわした。が、エナビィは瞬時に対応してかわし、レロイの頭上の壁に張り付いていた。
「ねぇ、いきなりなんて酷くない?話がまだ終わってなかったのにぃ」
「だから言ったろ?隙を突かれるって」
ラディムの口元はにやけている。
「うるさいぃ!もう怒ったもん!謝っても絶対許さないんだからぁ」
「それにしてもこいつは…いや、まさかな」
エナビィは張り付いたまま後ろ腰に携えていた組立式の槍を取り出した。その槍はエナビィの背丈に合ってない程長いものだ。
「行っくよー!」
エナビィは壁を蹴り、レロイに向かっていって右腕に突きを繰り出した。が、レロイは右腕を戻し、かわした。エナビィの槍は地面に突き刺さり、突き刺さった場所だけが刔れた。
エナビィはすぐに槍を抜き取り、レロイに向かっていく。槍がレロイに届くところで何度も突きを繰り返した。レロイはそれを紙一重でかわし、上へ跳んだ。
レロイは足を上げ、振り下ろす瞬間に足を変化させた。エナビィが後ろに跳んでそれをかわし、足へと突きを繰り出した。レロイは瞬時に足を戻し、槍をかわした。
「強いじゃん!面白くなってきたぁ!」
「おい、あんまり遊ぶなよ。リャクト・シャール・Fのことだってあるんだからな」
「わかってるってぇ」
「何!?お主、リャクトに何を…」
「ほぉ。お前はリャクト・シャール・Fの知り合いか。こいつは面白いな」
レロイが地面に着地したと同時にエナビィが向かっていく。
「よそ見してると危ないよぉ!」
エナビィがレロイに突きを繰り出す。レロイはそれをかわし、エナビィに向かっていった。
更に繰り出される突きをかわしながら一気に目の前まで距離を詰めた。そこからレロイは殴りかかろうとした。が、レロイの腕の動きが止まった。
「キャハハハ!どう、私の意志を持つ槍(インテンションジャベリン)は?」
「くっ…」
レロイの背中にはエナビィの槍が刺さり血を流していた。エナビィの槍は曲がりくねっている。
レロイは背中の槍を抜き取り、エナビィと距離を取った。
「おい、エナビィ。もういいだろ。殺さない程度に終わらせろ」
「はいはーい!」
エナビィは元気よく手を挙げた。エナビィが意志を持つかのように暴れた槍を手に向かっていく。
「仕方あるまい…双獣技法・双牙咆哮!」
その瞬間にレロイの頭が双獣へと変貌した。レロイはエナビィへ噛み付こうとした。エナビィは頭上の壁に槍の先端を刺し、槍に持ち上げられて壁に張り付く。
レロイが瞬時に頭を戻し、今度は両足を変化させる。レロイの体はエナビィがいる場所まで持ち上がり、さらに右腕も変化させた。
「双獣技法・壊裂爪」
レロイの右腕の爪がエナビィを切り裂く。が、エナビィは逆の壁に跳び移ってかわした。
レロイの右腕の爪は壁だけを切り裂いた。レロイが切り裂いた壁が壊死し始めた。
「うわぁ、危ないじゃん!じゃあ、今度はあたしが行くよぉ!インテンションジャベリン・絞刺槍殺!」
エナビィは壁を蹴り、レロイに向かっていく。レロイは両足を戻し、地面近くまで体が戻る。エナビィもそれに対応して再び壁を蹴り、方向をレロイに向けた。
レロイは先程の傷のせいで体がうまく動かず、エナビィを双獣化した右腕で受け止めようとする。
エナビィは右腕に向けて突きを繰り出す。槍は右腕を貫いた後にレロイ首に巻き付き、締め上げる。
更に先端は心臓へ向かう。レロイは首を締められているせいでうまく防げずに胸に突き刺さり、貫いた。
胸からは血が流れ出し、更にレロイは大量の血を吐いた。レロイの右腕は力無く元に戻った。
レロイは全身から力が抜けているのか、エナビィの槍に支えられるようにしてなんとか立っていた。しかし、レロイの顔には生気の欠片も見られない。
「バカ野郎!誰が殺せって言った!?死なない程度に押さえろって言っただろ!?」
「……あっ!そうだったぁ、ごめぇん。なんか戦うのに夢中になっちゃってさぁ…てへっ!反省、反省!」
エナビィは自分の頭を軽く叩き、舌を出した。
「てへっじゃないだろ!これじゃあ、こいつが誰なのか気になって仕事ができないだろ!」
「でもぉ、やっちゃったもんはしょうがないじゃんかぁ」
「まぁいい、さっさとその槍を抜け」
「はぁい」
エナビィは複雑にレロイに絡まった槍を抜き、槍をばらして後ろ腰にしまった。レロイは支えがなくなり、後ろに倒れた。
「おい、仕事に戻るぞ。色々下見しなきゃいけないんだからな!」
レロイの周りにどんどん血が広がっていく。
「ラディム、怒ってるんだぁ」
「うるせぇ!早くしろ!」
「わかったってぇ」
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