第2話 怪物退治
「あっ待てこら!ったく…逃げ足だけは早ぇんだから」
今、この暖冬山で俺は絶滅危惧種の速兎(そくと)を追っていた。速兎を捕まえなければ、明日の寝食が危ういからだ。
この暖冬山の半分は寒さが年中続いているせいで風景は雪に覆われていて、もう半分は春のような陽気さがあり暖かく過ごせる不思議な山だ。
風人を生業としている俺は、幻天地を目指している。基本的には自由奔放に毎日を過ごしてきた。そのせいで、今は寝食が危ういのだが。
何度か速兎を見付けたが、その度に逃げられていた。傷付けでもすれば、幾ら捕まえたからといっても賞金は出ない。再び暖冬山を歩き回っていると、速兎は周りが絶壁に囲まれている場所に佇んでいた。
俺はゆっくりと詰め寄り、速兎を追い詰めた。
「よし、観念するんだな。今度こそ捕まえてやる」
俺は勢いをつけて速兎に跳び付いた。しかし、速兎は後ろに跳び、後ろの壁を蹴るようにして更に跳び、俺の上を飛び越えていく。
俺は滑り込んで、その場に倒れ込んだ。倒れながらも振り返ると、速兎は俺から少し離れた場所に着地していた。
その時に速兎は振り返り、俺を小馬鹿にするように笑った。
「速兎の野郎!」
俺はすぐに立ち上がり、速兎に向かって走り出す。だが、速兎はその自慢の俊足を活かしてすぐに逃げてしまい、俺は速兎を見失ってしまった。
それから、速兎と格闘すること一時間。俺は漸く速兎の捕獲に成功した。俺は速兎を鉄格子の籠に入れて、滞在している街へと戻ることにした。
俺が滞在している街はバシャーメルタウンという街で活気のあるいい街だ。街を縦断するように大通りがあり、その大通りを挟んで西側と東側に分かれている。それにここは俺と深い関わりを持つ街で、言うなれば故郷のような場所だ。
バシャーメルタウンに戻り、俺は早速東側にある換金所へと足を運んだ。外から見るより意外と広い換金所。換金所の壁中には賞金のリストが張られていて、その殆どは人の賞金だった。
俺は店主の目の前まで行き着くと、店のカウンターに鉄格子を乗せた。
「どうもバーヌさん。これ、絶滅危惧種に指定されてる速兎なんだが、賞金幾らだ?」
「リャクトじゃないか。久しぶりだな。それより、絶滅危惧種の速兎だって?捕まえてきたのか。ちょっと確認させてもらうぞ」
速兎は怒っているのか、籠を覗き込んだバーヌさんに飛び掛かった。しかし、鉄格子に阻まれ、その行動は未遂のままに終わった。
「おぉ、確かに速兎だな。しかし、良く捕まえられたな?速兎は風人たちが捕獲に挑戦したが、ほとんどは失敗してたのに…」
「おいおい、俺を誰だと思ってんだ?そこら辺の風人ならわかるが、この俺が失敗すると思うか?」
「あぁ、そうだったな。よし、ちょっと待っててくれ。今、賞金の金を持ってくるから」
バーヌさんは店の奥へと消えていった。速兎は暴れながら、必死に鉄格子の籠から逃れようとしている。余程、鉄格子の籠が気に入らないのか。
それから、すぐにバーヌさんは片手に布袋を持って戻ってきた。
「ほら、速兎の賞金百万Re(リウォ)だ」
「百万Re!?こいつ、そんなにするのか?まぁなんにせよ、暫くは飯と宿には困らなくて済みそうだな」
「なんだ、リャクト。知らなかったのか?速兎はBランクの賞金だからな」
賞金にはそれぞれC~SSまでランク付けされていて、ランクはその賞金の価格や危険度などによって決められ、ランクが上がるごとに賞金も高くなる。
基本的には十万Re以下がランクC、十万Reから五百万ReまでがランクB、五百万Reから五千万ReまでがランクA、五千万Reから五億ReまでがランクS、五億Re以上はランクSSとなっている。
その為にランクSSの賞金などは数える程しかない。
「いや、毎回獲物の金額は調べてないんだ。まぁ忘れてるんだが、こういう驚きがあって結構面白いしさ。ところでバーヌさん。何か新しい情報は入ってないのか?できれば幻天地の情報が欲しいんだが…」
田舎の換金所ではできないが、ある程度の大きな街の換金所になると情報の売買が可能だ。風人にとって情報は命の次に大切なものと言っても良いほどのものだ。
「幻天地か…まだ諦めてなかったのか?」
「当たり前だろ。幻天地は俺の最終目的だからな。で、情報は?」
「情報か。幻天地の情報はないが、良いのは入ってるぜ」
「どんな情報だ?」
不意にバーヌさんが俺に手を差し出してきた。
「こっちもこれで飯を食ってるもんでね」
バーヌさんの口元が僅かに笑みを作る。
「あぁ、そうだったな。それで、幾らの情報なんだ?」
「一万Reだ」
「へぇ、そりゃまたずいぶんと良い情報なんだな」
俺はその情報を買うことにして、布袋に入っている札束の山からちょうど一万Reを取ってバーヌさんに渡した。
「毎度あり!」
「で、その情報の獲物は?」
「これがな、怪物退治なんだ」
「怪物退治?」
俺はバーヌさんの言葉に僅かに興味を抱いた。
「あぁ。実はな、最近この辺りで新しく遺跡が見つかったんだ。政府がその遺跡の調査の為に送ったチームが調査を行ったんだが…遺跡の途中に双頭を持つ怪物に出会い、その先の調査を断念したそうだ」
「それで?」
「そこでだ、政府はその双頭獣に賞金を懸けてそいつを退治させるつもりらしい。だがな、この遺跡は極秘にしておきたい政府はこの賞金のことを俺のところだけに持ってきて、腕の良い風人だけにこの賞金のことを言ってくれって頼まれたんだ」
「そうなのか。それで、政府はその双頭獣とやらに幾ら賞金を懸けたんだ?」
バーヌさんは右手の人差し指だけを立て、にやりと笑った。
「額は一千万ReでランクAの賞金だ。まぁ、そいつの強さを考えてのこの額だ。どうだ、面白そうだろ?」
「あぁ、久々にワクワクしてきたぜ」
バーヌさんは何かを思い出したように胸の前で手を叩いた。
「おぉ、そうだった。一つ言い忘れてたが、そいつの首を持ってくるのが条件だからな」
「あぁ、わかった。それでその遺跡とやらはどこにあるんだ?」
「………さぁ?」
バーヌさんは両手を軽く広げ、首を傾げた。
「おいおい、知らないのかよ?」
「あぁ、私が聞いたのは今話したのが全部だ。まぁ多分この情報だけで遺跡の場所を見つけれないような風人は必要ないってことだろ」
「後は自分で探せってか。まぁいい、ありがとさん」
「また来てくれよ。それと、たまには用事がなくても帰ってこい」
「あぁ。気が向いたらな」
俺はバーヌさんの換金所を後にした。
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