第6話第三者視点

「国王陛下に申し上げます。

 コックス辺境伯家は魔獣から人間界を護るのが役目。

 その為には、王家の御意向に逆らわねばならないこともあります。

 まして今は大暴走の直前でございます。

 泣く泣く不忠をなさねばならない事もございます。

 今回の件、国王陛下も御承知の事でございますか!」


 ランドンは視線だけで魔獣を殺せるほどの殺気を放っていた。 

 グレイスも同じように、視線だけで魔獣を殺せるほどの殺気を放っていた。

 殺気の魔眼とも言える眼に睨まれた国王は震えあがった。

 地獄の魔王に睨まれたに等しい恐怖を感じた。

 言葉を間違えれば、殺されると直感した。


 それは王妃も同じだった。

 いや、ホールに集まった全員が同じ思いだった。

 二人から放たれる殺気は、選び抜かれたはずの近衛騎士を金縛りにした。

 動けるのは、何の鍛錬もしていない王太子とエミリアだけだった。

 鈍感である事が幸いしていた。


「黙りなさい!

 なんと言う不敬な事を申すのです。

 絶対に許される事ではありませんよ。

 近衛騎士。

 直ぐにこの者達を不敬罪で殺してしまいなさい!」


「黙れ慮外者!

 いつから貴様が国王陛下に成り代わった!

 近衛騎士に命令を下せるのは国王陛下だけだ。

 それを国王陛下を遮っての越権行為、絶対に許されんぞ。

 国王陛下、この慮外者を斬り捨てる事を御願い致します!」


 エミリアは王家の権力を笠に、キャロライン達をこの場で殺すつもりだった。

 国王が決断を迷っている間に、自分が近衛騎士に命令して殺そうとした。

 そうする事で、王太子の婚約者の地位を盤石にするつもりだった。

 賢さは持ち合わせていないが、欲と常識不足が幸いして、国王を押しのける強気の行動が出来たのだ。


 だが相手が悪かった。

 ランドン相手に、愚か者の強引なやり方は通用しなかった。

 ランドンの舌鋒は、近衛騎士を金縛りにした。

 いや、近衛騎士は怖かったのだ。

 一歩でも動けば斬り殺されると感じていたのだ。


 国王も決断を迫られていた。

 殺気の塊とも言える魔眼に睨まれて、決断を強要されていた。

 王太子とエミリアを斬り捨てる事を。

 エミリアや実家のトライオン伯爵家を切り捨てる事は、何の痛痒も感じない。

 だが馬鹿な子ほどかわいいのだ。

 王太子アーロンを殺す決断を直ぐにはできなかった。


 だがランドンの視線は厳しい。

 口では何も言わないが、アーロンとエミリアを斬り捨てなければ、王である自分も王妃も、この場にいる近衛騎士全員を斬り殺すと、視線が雄弁に物語っていた。

 王は決断をくだすしかなかった。

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