第5話第三者視点

 謁見の間は、近衛騎士で一杯だった。

 しかも全員が緊張している。

 それはそうだろう、みなこれから何が行われるか気がついているのだ。

 それは上段にいる国王も同じだった。

 自分は直接係わらないようにしていたが、王太子とエミリアが企んでいる事は、正確につかんでいた。


 王太子は緊張に顔を青ざめさせていた。

 目が血走り、息が浅く荒くなっている。

 小刻みに震えているのを自覚しているようで、強く手を握りしめている。

 脇や肛門周辺や鼻翼から、とめどもなく油汗が流れている。

 なんともみっともない姿だった。


 一方エミリアは堂々としたモノだ。

 顔色は普段と全く変わりなく、下膨れの顔は笑みを浮かべている。

 細く小さな目は、入って来たキャロラインをあざ笑っているようだ。

 汗はいつも通りかいていた。

 王太子が抱きしめても手が回らない巨体は、いついかなる時も大汗をかくのだ。

 堂々たる巨体の醜女だ。


「キャ、キャ、キャ、キャロライン。

 お、お、お、お前に。

 い、い、い、言わねば

 な、な、な、ならぬ、

 こ、こ、こ、事がある」


 王太子は緊張のあまりどもってしまい、まともは話ができそうになかった。

 王は心中落胆し、王妃は情けなくて悲しみに暮れていた。

 だがエミリアは違っていた。

 自分の出番だと勇躍したのだ。


「殿下はお疲れのようなので、私が代わりに話しをさせて頂きましょう。

 私は殿下の新しい婚約者です。

 ですがそう言っては、今まで婚約者だったキャロライン嬢には何が起こったのか分からないでしょう。

 だから説明してあげます。

 感謝しなさい」


「キャロライン嬢に成り代わりお答えさせていただきます。

 婚約破棄自体は何の問題もありません。

 コックス辺境伯家は魔獣から人界を護る家柄です。

 キャロライン嬢は武勇の婿を迎えるのが筋でございます。

 ですが、身勝手な都合で婚約したり、婚約破棄したりするのは、我慢できません。

 まして冤罪を着せられるとあっては、剣にかけて名誉を回復させていただきます」


 キャロラインに代わって答えたランドンは、深く静かに怒っていた。

 エミリアの無礼が許せなかった。

 それは横にいるグレイスも同じだった。

 何時でも剣を抜き暴れ回る覚悟を決めていた。

 兄妹だからこそわかる阿吽の呼吸で、決起の時を併せていた。


「それは王家を脅しているのですか⁉

 何と不遜な事でしょう。

 謀叛を起こそうとしていたくせに、王家に難癖をつけるなど、不遜の極み。

 絶対に許される事ではありませんよ!

 そうでございますね、国王陛下」


 エミリアは狡猾だった。

 罪悪の場合は、国王が王太子を切り捨てる覚悟なのに気がついていた。

 だから国王を巻き込もうと言質を取ろうとしたのだ。

 

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