20

「君は、もしかして立体映像なの?」とフユは聞いた。

「いいえ。違います。私は立体映像ではありません」とコスモスは言った。

「その証拠に、ほら」

 そう言って、コスモスはフユの手を自分の手で握った。

 確かにコスモスはよくできた立体映像ではなかった。コスモスの手は確かにフユの手を握っていた。でも、コスモスの手はまるで氷のように冷たかった。

 それは本物の人間の手とは、違う手のようにフユには思えた。コスモスは確かに立体映像ではないし、人の形をしているのだけど、きっとコスモスは、やっぱり本物の心を持った特殊な人工知能であり、人間ではないのだと、フユは思った。

「信じてもらえましたか?」コスモスは言った。

「うん。信じる」とフユは言った。

 するとコスモスは「よかった。フユに私のことを『人間(ヒューマン)』だと思ってもらえて」と言って、とても嬉しそうにフユの目の前でにっこりと微笑んだ。

 その微笑みはまるで天使のように美しかった。


 それからフユはハルのリュックの中に荷物をまとめて、それを背負い、いつても移動できる用意を終えた。

 それはコスモスの指示だった。

 コスモスには、この新世界でコスモスとフユがなにをすればいいのか、あるいはどこに行けばいいのか、それが理解できているようだった。

「用意が終わったのですね。では出発しましょう」とコスモスは言った。

「それはいいけど、でもこれから僕たちはどこに行くの?」とフユはコスモスに聞いた。

「それは、もちろん『壁の外』です」と嬉しそうな声でコスモスは答えた。

「その意見には賛成だけど、壁の外どころか、僕たちはこの部屋の外にもいけないよ」と言って、フユはロックされたままのコンピューター室のドアを見た。

「大丈夫です。安心してください。すでに私は『この世界のあらゆるすべてのプログラムをその支配下に置いています』」とにっこりと笑って、コスモスは言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る