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メビウスオンラインには、メビウスオンラインだけの、(ほかのオンラインゲームとは違う)最大の特徴と呼ばれる機能があった。
それは、『メビウスオンラインのプレイヤーのアバターが、実際の人物の顔や体、そのものを模倣したキャラクターに強制的になる』、ということだった。
つまり、仮面(ペルソナ)をかぶることができないのだ。
名前は自由に設定できるけど、顔や体は自由に設定ができない。
これはほかの人気オンラインゲームの中でも、メビウスオンラインにしかない、と言ってもいい(もちろん、問題でもあり、社会的な論争もあった)特徴だった。
なぜ、こんなアバターを(ゲームとは自己逃避行動。あるいは、現実の世界が嫌いだから、偽物の架空のゲームの世界に逃げ込むのではないのか? という偏見を普段ゲームをしないメルは持っていた。メルはオンラインゲームとは一種の聖域。アジールだと思っていた)使用できないような設定にするのか、その理由はわからないのだけど、とにかく開発元である大企業のパラドクス&ドルフィンはそんな設定にして、メビウスオンラインを開発した。
一時はその機能のため、いろんな問題が発生して、世界的に叩かれたりもしたのだけど、最近はそんな風潮も衰えてきたようだった。(なぜなのかは、メルにはよくわからなかった)
メビウスオンラインは大人気だったし、不満のあるプレイヤーは、ほかの健全な? アバターを自由に設定できるオンラインゲームに、その居場所を移して行ったからだった。
メルはこの設定にかなりの感謝をしていた。
理由はもちろん一つだけで、カラを見つけるのに、すごく助かるからだった。
プレイヤー、カラは、メルの知っているカラと同じ顔、同じ体をしているはずだった。
今のメルが現実の蒔田めると同じ顔、同じ体をしているのと同じように……。
でも、それでも、メビウスオンラインのプレイヤー数は一千万人を超えていて、常時プレイしているプレイヤーの数も、数十万から数百万人の単位でいる。
この広大な惑星メビウスの中で、その中から、たった一人のカラを見つけ出すことは、それなりに時間のかかる作業になるだろう。(もちろん、その手がかりとして、カラの日記があるのだけど……)
その作業の困難さを想像して、メルは少しだけ、その顔をしかめて、腰に手を当てて、「はぁー」と小さなため息をついた。
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