激戦! 魔王たちVS勇者&大女神

 ……魔王を一匹も仕留められないまま、気が付けば三分もの時が流れた。


 いや、魔王処かその配下のモンスターだって合計で百匹くらいしか倒せていない。

 そんな不味いペースだというのに、制限時間をとっくに過ぎてしまっているから、ドンドン私の肉体に反動のダメージが蓄積されていっていた。


 だけど、それ以上に気になるのは……。


 まだ『降臨』が解除されないのだ。

 これ以上は大女神様に私の精神が侵食されて、そして、私の肉体に二つの魂――それも大女神様ほどのエネルギーを伴う魂が定着し、キャパシティーを越えるエネルギーが定着した肉体はやがてそれに耐えきれず崩壊を始める。


 だからこそ、降臨は制限時間が来ればセーフティが発動して自動的に解除されるシステムだった。


 尤も、そのセーフティによって解除されていれば私はとっくに拘束されて、あの時のような地獄の日々を送る羽目になるんだろうけど……。


「(これはどういうことですか?)」


 口に出さず、心の中で大女神様に問う。


『――この迷宮から出られないのは、勇者。貴方だけじゃないってことです』


「それって……」


『はい。このまま『降臨』が解除されてしまえば、器のない私はこの迷宮内でエネルギー体として霧散し――この世界の女神も、人類に与えたスキルも、魔法も、全て消滅してしまいます』


「……!?」


『そうなってしまえば、この世界の人間は戦う術を失い――そんな中彼らのようなモンスターだけはそのまま残ることになってしまいます』


「……そうなってしまえば、世界は終わる……」


『そう言うことです』


 何てこと!


『このままでは、本当に世界が危険な状態です。勇者。貴方は私と完全な形で融合する――一つ先の『降臨』――『人神一体』をしてください』


「……『人神一体』……それ、なんですか?」


 私は、マクスウェルと言う名の悪魔を斬り殺しながら大女神様に問うた。


『……それは……勇者様の魂と私の魂を完全な形で混ざり合わせ適合させます。……そうすれば私のエネルギーが勇者様の肉体に適合し、今以上の力を発揮することも可能になりますが……』


 しかし。大女神様は言葉を繋げる。


『その代わり、一度結びついた魂は二度と離れなくなります。……そして魂は、より力の強い者に吸収される定めなので……時間が来れば、勇者様は確実に死んでしまうでしょう』


「その状態で、私は何時間戦えるのでしょうか?」


『……最大で3時間。勇者様がダメージを受けるほどに、時間が短くなっていきますが……』


「解りました。じゃあしましょう」


『そうですよね。流石に命までは……ええ、良いんですか!?』


「はい。……どうせ、このままだと私反動のダメージを魔王たちに稼がれて、大女神様諸共やられてしまうでしょう。それなら、この命世界のために捧げても良いかなって」


 私勇者だし。……それに、こんなところで魔王なんかにやられて賢者と聖女の仇を討てないのも納得できない。

 死なば諸共。差し違えてでもあの男を殺せるのなら、私は命くらい簡単に賭けてしまえる。


 そんな私のドロドロとした復讐心も見抜いているであろう大女神様は、とても嬉しそうに『ありがとうございます』と私に感謝の言葉を投げかけてくれた。

 ……その言葉を聞けただけでも私は、命を捨てる価値があるように感じられた。


 私は今持てる全ての力を解放し、光のエネルギーで私に絶え間なく攻撃を仕掛けてくるモンスターたちを退けて、場を整えて、叫ぶ。


「『人神一体』ッ!!!」


 大女神様の魂が私の魂に絡みつき溶け込んでくる。


「あぁっ!」


 昇華の時のようで、あの時とは比べものにならないほどに大きく身体が作り替えられていく感覚。思わず変な声が漏れてしまう。

 こんな隙だらけの私。遠距離攻撃は絶え間なく飛んでくるが近づく者は一人もいない。


 それもそのはず、私を取り囲むまばゆい光に触れれば彼らはタダじゃ済まないから。


 強くなっていく。

 衣装も更に軽く、更に厚く、更に堅く変化していく。


 髪も瞳も白く染まり、私自身が大女神様になっていくようで、大女神様が私になっていくような不思議な感じ。

 気持ちが良い。あぁ、気持ちが良い。


 程なくして完全な形で『人神一体』を終えた私は、変化した身体を試すように、軽く聖剣を振り、光よりも早く時空を越えた速度でメイガスゴブリン・闇の背後に回る。


「……賢者と聖女を嬲り殺しにし、私の恋心を踏みにじった恨みよ」


 もはや一振りと判別のつかない二回攻撃。それは最早、身代わりを無効化しているのと変わらない。

 次の瞬間にはロード・オブ・オークの背後に移っている。

 斬る。


 あんなに怖かったのに。


 最後の一言も残させずに、瞬殺できてしまう。


「私の仲間を辱め、処刑した報いね」


 ベリアルを斬る。


「私の仲間の死を貶めた報復よ」


 ロード・オブ・バフォメットを斬る。


「貴方がいなければ、私はあんな格好をする必要もなかったわ」


 ラプラスを斬る。


「そう言えば貴方魔王だったのね。地味だし、見逃しちゃってたわ」


 ノーライフ・キングを斬る。


「貴方のことは知らないけど、どうせ悪いことしてたんでしょ?」


 鬼人を斬――ろうとして空を切る。


「勇者さん。如何にステータスを強くしようが、まだ若い。鍛錬が足りねえんでねえでしょうか」


 声の聞こえる方を斬る――なめらかな、感触で流される。


「……恐らく、あっしじゃアンタを殺せやせん。でも……時間なら稼いでみせやす。主さん」


 ニュルッ。スカ、スッ、ザシュッ。


 当たった? ――しかし、斬れていたのはまだ死んでいない生き残りのザコオーク。

 シュッ、スカッ、ニュルッ、サクッ。


 空を斬り、剣を流され、時にザコを身代わりにされる。

 鬼人が全く殺せない。ステータスの上ではもう何十倍もの開きがあるはずなのに、全然倒せる気配がなかった。


 一分、二分……タイムリミットが着実に近づいている。

 なのに、倒せないどころか鬼人は私との戦いの中で私の剣筋を読み、時に剣でかすり傷をつけてくるようになった。


 このかすり傷のダメージですら、タイムリミットが縮むので鬱陶しい。


 しかし、五分十分経つにつれて形勢は変わっていく。

 こちらは鬼人の攻撃を食らってもかすり傷で済むのに対して、鬼人は私の攻撃がかすっただけで即死する。

 そんな戦力差での戦いは相当精神が摩耗する。


 それに戦いの中で強くなるのも鬼人だけじゃなかった。


「あぁ……ここまでですかい。すまんね主さん。それと百恵……」


 鬼人を斬った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る