侵略への引き金
「無礼を承知で申し上げるが……あの戦争以降、この迷宮内ではノーライフ・キングの国が頭一つ優遇されてるように感じる」
電話があってすぐ、俺はロード・オブ・オークのいる五階層に足を運んだ。
ロード・オブ・オークは他の方よりも少し気性が悪く理知さに欠けている、しかし出世欲は人一倍高い、そんなやつだった。
そんなやつだからこそ、もし深海の闇雲を全て委任した時に言われた『反感』とやらを口に出すのはやはりロード・オブ・オークだと思っていた。
だから意外性もないし、むしろ一ヶ月はよく我慢した方だと思っている。
「だろうな。実際、現状のノーライフ・キングの勢力規模は頭一つ脱け始めている」
「であれば……っ」
「当然、対策を考えているのが迷宮主ってもんだよね」
「!!」
ロード・オブ・オークは、解りやすく期待に満ちあふれた表情を見せた。
……考えている事ってもったいぶっといてなんだけど、我ながらハードル上げすぎたなぁ。
そんな大した考えでもないんだけど……。
「とりあえず、東に位置するこの国の暫定首都……東京に攻め入ろうと思う」
「なるほど。心得た。つまり我が率いるオークがその東京都やらに攻め入れば良いというわけだろう?」
「その通り。その通りだ」
そのために突破すべき障害はいくつかある。
まず、東京は現日本の首都をしているだけあって、モンスター対策の警備はかなり頑強である。
都市ははぐれのモンスターが侵入できないように鉄筋コンクリートの壁に囲まれていて、もし侵入されても日本中――或いは外国からも優秀な冒険者などが集まっているが故にすぐに退治されてしまう。
が、この点はそもそもメチャクチャ強いこの迷宮のモンスターに掛かれば何とかなるだろう。
次ぎに問題になるのは、勇者を輩出した巫女の家系を初めとして優秀なモンスター退治の名門がたくさんある。
賢者の実家は京都、聖女の実家は平泉にあるが、もしかしたら親戚くらいなら普通に東京にいるかも知れない。
あと、前回合った時にレベルを一にまで下げて荷ぐるみ全部剥ぎ取ったので多分大丈夫だとは思うが、勇者と遭遇する可能性がある。
宝物庫から彼女たちの神器がなくなっていたことを鑑みるに、戦う意思は十分ありそうだし、或いは以前並の強さを取り戻している可能性もなくはない。
それも、完全強化を施したロード・オブ・オークとその補佐、あと八人の優秀なオークがいればまぁ問題ないだろう。
しかし、これまで「東京に攻め入ったとして勝てるかどうか?」と言う議題で話を進めてきたけど、迷宮主である俺も迷宮に所属するモンスター達も、なんと迷宮から外には出られないという制約がある。
つまり、出られなきゃ攻められないから今までの話は全部机上の空論って話になるんだが、そこが、俺の考えていたことに繋がる。
迷宮から出られないなら、そこを迷宮内にしてしまえば良いじゃない!
つまり、東京までの道のりを一京という有り余るDPを消費して迷宮の領界とする。そうすれば迷宮の外には出られないが東京に攻め入ることはできる。正に逆転の発想である。
と言うわけでとりあえず、この奈落の木阿弥がある日本アルプスを中心に半径千km程度を一気に迷宮の領域化していく。
途中にある迷宮はギリギリ避けて――まぁ細かいところは後で処理して仕舞えば良いから、放っておいて、迷宮の領域を広げるために必要な費用は1k㎡あたり一万DPくらい。
半径500kmを領域化するのには七十三億DPくらいかかる計算だが、実際には二百億DPくらいかかった。
これは多分日本が山がちな地形であることに起因するのだろう。
尤も、二百億DPだろうが七十三億DPだろうが一京DPの前では誤差みたいなものなのだが……。
そんな感じで迷宮の領域まで広げれば後は攻め入るだけ。
強いてまだ問題があるとすれば、この迷宮内は魔界樹の森で覆われているお陰で、モンスターの戦闘力が上がっているが故の強さもあるから、侵攻により実質兵力が下がる事が懸念されるが……。
まぁ、道のりと東京周辺を魔界樹の森にすれば関係ないか。
阿呆みたいに犠牲者出そうだけど。
う~ん。やっぱり魔界樹の森はヤバそうになったらって事にしておこう。
理由は犠牲者を出さないためだが、同情心が全てというわけでもない。
むしろ、同情と言うより人間の犠牲者は少ない方が俺にメリットが大きい気がしたのだ。
漫画とかゲームとか、そう言う娯楽を生み出してるのは人間だし――見逃すことによって或いは俺たちを滅ぼす兵器を作り出すかも知れないけど、そしたらその時世界中を魔界樹の森で覆ってしまえば良い。
殺すことはいつでもできる。だからこそ、今は殺さない。
俺は今、迷宮主だ。
でも以前は人間で、勇者パーティに従軍する程度には人類の味方であるつもりだった。
これから東京を攻め入れば、間違いなく人間がたくさん死ぬ。
頭では解っていても、どれがリアルに想定できない。その時、自分がどうなっているのかも想像は付かない。
これはやるべき事なのか?
やらなくても良いことじゃないのか?
そう思わないでもない。むしろ、本音を言えば今すぐ自宅に帰ってタキエルといちゃいちゃしたい。していたい。
でも、東京を攻めて支配下に置いておいた方が良いと俺は考えていた。
その結果、自分が周りが環境がどう変わってしまうのかまでは想定できないけど、俺はロード・オブ・オークと共に東京まで進軍していく。
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