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葵流星

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今日、友達が還ってきた。

交通事故で入院していて、やっと学校に来れるようになった。

けれども、どこか虚ろげに返事をしていたがたぶん気のせいだと思った。


放課後、カフェに行かないかと誘うととても嬉しそうだった。

たぶん、あまり穏やかじゃなかったんだと思った。

前みたいにくだらない、話もできた。

けど、授業中はまた虚ろげに返事をしたりしていた。


そんな、彼女とは卒業してから一度も会っていない。


俺は、大学へと進学して彼女のことを忘れつつあった。いつものように講義を聞きに部屋を移動していた。相変わらずここに来るのは少数だった。俺は席について18-C(エィティーンシー)を起動しノートを取った。


2000年以降、インターネット及びその関連技術は指数関数的に発達し45年にピークを迎えた。その一つの技術にLBIというものがある。Living Body Imprant、ようするに人体に機械を埋め込む技術でもともと医療用の技術だった。この技術は、腕から始まりそして脳にまで至った。そして、その中で付与された能力が無意識状態での身体活動である。基本的に人は無意識状態にあっても呼吸をしたり、寝返りを打ったりしている。LBIは人の生体部分と生体工学によって作られた機械との複合体なので機械部分のみでの可動することもできるようになっていた。そして、この機能はあくまで保険的な意味合いが強かった。心臓に疾患があり、また他の臓器を機械部分で補っている患者が事故に巻き込まれた際安全な場所まで移動させたり、また救急車を呼ぶ為になどそういう時の為の機能だった。


けれども、この機能は他の使われ方をした。

主に『仕事』だった。


LBI技術によって、人の意識そのものが曖昧になってしまったことに起因している。

本来であれば、人の仕事のほとんどは自動化されロボットによる効率的な経済活動へと変わるはずだった。けれども、一部の人々は仕事の存続を望み未だに効率化出来ていなかった。LBIは、その不完全さを補うように人々に浸透していった。そのため、無意識下での労働という薄気味悪い社会が完成した。それは、勿論ほかの場所にも影響を及ぼし教育現場の瓦解までそれほど時間はかからなかった。機械、インターネットにもたらされる知識(データ)ならまだしも身体能力の向上すら可能にできた。LBIによって知識を得た子供たちとそうではない子供たちの差は激しくその為に、導入されたの18‐Cだった。18‐Cとは、18個の情報処理核からなるプログラムでそれぞれに人工知能が搭載されている小さい正方形の機械のことだ。LBIを使っていない人向けの装置で国から子供たちに配布された。


講義を終えた、俺は何となく街へ向かった。

まだ、空の色が変わるには程遠い時間なので青い空が広がっている。

郊外に行けば、もっと広い空が広がっているのだが町の中はビルばかりで窮屈だった。


電気用品店、洋服店を少し見た俺は喉が乾いたのでスーパーで買おうと思ったのだがたまたま通知欄に来ていたファストフード店のクーポンの方がよさそうだったのでそっちにした。


自動ドアを開けて、そのままレジに並んだ。


「いらっしゃいませ。」


そう、女性が言った。


「クーポンのこれで…。」


俺は、スマートフォンの画面を彼女に見せた。


「159番でよろしいでしょうか?」

「はい」っと、俺は言うと彼女はレジを打ち合計で500円になりますっと言った。


俺は、スマートフォンをかざして支払いを済ませ。

液晶モニターの前で自分の番号を待ち、商品を受け取り近くの席に座った。


相変わらず不気味なだなっと思った。

前食べた時と同じような甘さのチョコパイと、コーラ。そして、バニラアイス。

特に感動もないそんなおやつだった。


店を出る、直前でありがとうございましたっと言われたが振り向かなかった。

目を合わせたら、動き出しそうだからだ。


家に帰って、家族と食事をしてそのまま風呂に入って寝る。

その繰り返しが俺にとっての日常みたいなものだった。

身体に機械を埋め込めば寝ている時間も有意義に使えると友達は言うがあまり気が進まなかった。

両親には、反対されてはいないが導入当時のこと知っているので不安だと言っている。二人とも、俺と同じ18‐Cを使っているのでLBIには興味がなさそうだった。

食事を終え、自分の部屋に戻った俺は18‐Cを机に置き風呂に入ろうと準備をしていた。


「おはようございます。今日もお疲れ様でした」っと、机の上から声が聞こえた。

「…もう寝るんだけど。」

ため息交じりに、彼女に話した。


「たまには、コミュニケーションでもどうですか?」

「間に合ってる。」

「私は、話したいです。」

「ごめん、眠いんだ。また、明日。」

「困ります!あなたは他のユーザーに比べて75%以上、私と会話してないんですから!」

「おはよう…じゃ、ダメなの?」

「ダメです!」

「愛してる、お休み。」

「あっ、こら!そんな棒読みの言葉じゃうれしくありません!」

「頼む…寝かせてくれ。」

「目覚まし時計のアラームを変更します。」

「…わかった、話すから。」


彼女は18‐Cに搭載されている人工知能でユーザー設定ネームつばき。

性別は女性となっている。18-Cに搭載されている人工知能は販売元の会社と接続されていて90種類の中から気に入ったキャラクターを選べる。また、非表示も可能である。ちなみに、つばきは男性向けのナンバー15のキャラだ。髪と目の色、髪型はある程度自由に変えられる。ひとまずデフォルトにしていたのだが彼女が髪型を自分で変え、似合っていると言って以降ずっとロングのままである。


「それで、何を話すの?」

「ファストフード店のことです。」

「…切り忘れたか。」


18‐Cの機能の一つに人工知能に聞かれたくないことや学習されたくないことを防止する為のスイッチがある。なお、18‐Cは常時電源がついたままである。


「いくらLBIを使っているからと言って、態度を変えるのはどうかと…。」

「…いつも通りだろ?」

「明らかに、感情の起伏が滅裂でした。テンションがその前と比べて低かったです。」

「…わかった、気を付ける。それじゃあ…。」

「残念ながらまだあるんですよね。」

「明日でいい?」

「お母さまからです。」

「…なんだって?」

「早く、彼女作れ…っと言いたげだと、たまから連絡がありました。」

「…。」

「脈ありだと思われる方のリストは要りますか?必要ですよね?というよりも、作成済みです!」

「…ああ、今日体調悪いから寝るわ。」

「ちゃんと考えた方がいいですよ?いくら、女性の方が人工的に見て多いからといって有力株は争いが絶えませんしそれに男性としての責務を果たして欲しいと世界全体のトレンドとして上位にあるんですからね。」

「…俺の自由は?」

「人生の墓場にもありますよ。」

「…嫌なジョークだな。」

「いい子が居ますよ、近場に!」

「広告じゃないんだから…。」

「非LBIユーザーで、健康であなたと統計学的にあいそうなお相手に会える確率を100%にしているんですよ!0.0000025%なんですよ、本当は!」

「わかった、探すから!」

「LBIユーザーなら少しは人数が増えますが…やっぱりって感じですよね。なんていうか、あなたはそういう人ですからね。大丈夫ですよ、いい人に会えますから。」

「だと、いいな。」

「それと、明日は本社のメンテナンスなので人工知能システムは使えなくなるのでご了承ください。それじゃあ、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」


ホログラムが消えると同時に部屋の照明が消える。

ベッドに座っていた俺はそのまま眠りについた。


身体が宙に浮いたみたいに沈んでいた。


どこか懐かしくも苦しいような暗さがあった。


洞窟の中にいるようなそんな感覚だった。


水面を求めるように上に向かい、岸に向かって歩く。


俺と同じように、他の人達も水の中から這い上がってきた。


彼らは、ふやけていて目も潰れているように小さくて、頭が重いのか下を向いていた。


そんな肉の塊のような物が次々と水の中から這い上がってくる。


声も出さず、身体に砂がついても振り払わず、ただ同じ方向に向かって動いていた。


声を出そうにも声が出せなかった。


手を動かそうにも動かせず、ただそこに立ち尽くしていた。


そして、俺は目覚ましのアラームでそこから引き戻された。

いつもと同じ見慣れた部屋のベッドで俺は寝ていた。

朝の支度を終え、俺は大学へと向かった。

今日は、いつもよりも列車が空いていて快適だった。

何も変わらないそんな風に思っていた。

講義を受けるために席に座って18-Cを起動する。

まだ、メンテナンスは終わっていなかったけど12時くらいには終わるだろうと思っていた。

けれど、今日は誰もやって来なかった。

慌てて学校のスケジュールを確認するが特に予定は書いていなかった。

俺と同じ18-Cを使っている前の席に座っている彼と話したがその後待っていても誰も来なかった。

さすがに、今日は来ないと思ったのか席を離れていった。

俺も休講なら連絡して欲しいよなっと、話しながらこの日は家に帰った。


17時には、メンテナンスも終わったみたいでつばきも帰ってきた。

大規模なシステム障害が発生していたのだと言う。


「システム障害か…。」

「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」


つばきは、事務的にそう話した。

俺は、少し呆れたようにため息をついた。


「なにやら、お疲れのようですね?たまには、甘いものでも…ダメですね。昨日、食べましたし。」

「甘いものはいいや、それよりも今日って何かあったっけ?」

「いえ、何もありませんよ。」

「学校からの連絡とかは?」

「それも、ありません。」

「そっか…。」


今日は、たぶん疲れていただけだろう。

明日は、いつものように何も変わらない、そんな日が来ると思った。


「おやすみ、つばき。」

「あれっ、もうお休みになるんですか?…まあ、わかりました。最近、疲れ気味みたいですからねおやすみなさい。」


部屋の照明が落ちると共に俺は、深い眠りへといざなわれていた。


しばらくして、息苦しくなった。


もがくように手足をばたつかせると何やら少し重い感触を感じた。


疲れてしまい手足を動かすのをやめると身体は沈んでいった。


身体をゆっくりと回すと砂浜のようなものが見えた。


そこに向かって、泳いで身体を起こすとそこはどこかの河原のようだった。


そして、上流からは親指くらいの大きさの薄いピンク色の物が流れてきた。


俺は、それを救って見るとどこかで見たような既視感を覚えたが俺はそれをすぐに川に流した。


上流の方を見ると次から次へと同じような物が流れきた。


そして、俺は日の出と共にそこから消えた。

目を開けてもそこは自分の部屋で俺は、ベッドの上にいた。

2日連続で、支離滅裂な夢を見た俺は生きた心地がしなかった。

そのせいか、シャツには汗が染みこんでいた。


「おはようございます。…気分はどうですか?」


目覚ましよりも早く起きたので、つばきが出てきた。


「あまり良くないかな。」


俺は、彼女にそう告げる。


「うなされていたみたいでしたからね。何か不安でもありますか?」

「いや…ない。」

「あまり夢のことをとやかく考えてはいけませんよ。今日も一日頑張りましょう!」

おーッと、覇気が感じられない声を出した。


今日は、昨日よりも列車が空いていた。

けど、むかいの列車はいつにも増して混んでいた。

相変わらず彼らは虚ろ気な目をしていた。


今日も、誰も来なかった。


なぜか薄気味悪く思った俺は、街を歩いた。

相変わらず静かな町だったが、人は動いていた。

しばらく歩いていると、交差点の前に警察の車両が止まっていた。

事故が起きたみたいだった。

既に、救急車で搬送したのだろう。

警察が何かを調べていた。


何故か不信感を感じていた俺は、家に帰った。


心地よく温かい感触が身体を覆っていた。


けれども、何故か嫌な気がした俺は目を開けた。


心臓の中に閉じ込められたのだろうか、肌色と小さい血管が見える。


目が覚めてほしいと願った俺は、頭を押さえるとその瞬間、目が覚めた。

何か、胸騒ぎがした俺は服を着替えて外に飛び出した。

すると、近所の人達が家から出ていてゆっくりとどこかへ向かって歩いていた。

ああ、また夢の続きかと思った俺は彼らが向かっている方に向かって歩いた。

彼らと同じように列車に乗って着いた先は都心のビルの近くだった。

彼らは、相変わらず虚ろ気な目をしていた。

そのまま、歩いていると誰かに手をつかまれた。

俺は、手を振りほどこうとした。


「いいから、落ち着いて…俺は刑事だ。」っと、男は言った。







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