エブリバディ ・ウォーキン・ワンダーランド 「異世界で性玩具に勘違いされたオレは」

アメノジ

第1話

視界全部真っ赤な光りに包まれて立っている。


やがて緩やかに光が収まると、

目の前には赤いドレスに身を包んだ少女が、

両手の指先を床に付きクラウチングスタートのような姿勢で頭を垂れている。


呆然と立ち尽くしていると、

スリムな黒いドレスの二人の女性が細長い箱を運んできて

俺の胸のあたりに押し付けてくる。


「持て」というのだろうか、


両腕に載せ、支え持つと

蓋が向こう側に開いた。


赤い少女は中に入った儀仗のようなものを取り出し、

頭上に捧げながら後ずさり、その杖を床に突いた。


二人の黒スリムが赤いマントとティアラを少女の身に着けて

俺の首にも何やらチャラチャラと軽い丸いメダルが繋がったネックレスのようなものを掛けた。



その瞬間、何かぼんやりしていた意識が覚醒し、くっきりとした視界と聴覚が戻った気がする。


建物の外ではドーンドーンと地響きのような音がして、きな臭いホコリが部屋に充満している。



ただ事ではない慌ただしさを感じた。

赤い少女は誓いの宣言らしき文言を、部屋に響かせている。

たどたどしくも早口で、儀式は非常に形式的なものなのだろうか。


その時、扉からあわてて兵士が転がり込んで来た。


「報告。近衛師団は魔物に館侵入を許しました。只今一階にて交戦中であります」


「ま、魔物?今、魔物って言った?」

魔物に襲われてるの?

この慌ただしさって、そういうことなの?非常にヤバイ局面なんじゃ・・




少女が黒スリムに顔を向け、目配せをすると、脇にある机の蓋を開ける。


少女と二人で俺の左腕をガシッと掴むと、オレの手のひらを机の中へ押し付ける。



一瞬ピカッと光を放ったその時、もう一人の黒スリムが王座のようなでっかい椅子の背もたれを後から蹴倒す。


椅子の下には人一人が通れるような穴があり、黒スリムは少女の手を引きその穴に飛び込んでいく。


3人が穴に飛び込んだ後、椅子はゆっくりともとに戻っていき穴を塞いだ。


(え?俺は??どうすればいいの???)

椅子は、押そうが引こうが、びくともしない。


「え?何?オレ一人、置いてきぼり?こんな知らない世界に転移させられて、ヤバそうな所に置いてきぼりなんて、そりゃ、ないだろ」


部屋の外からはドンバンと物騒な音が聞こえてくるし、

俺一人どうすればいいかわからん。

とにかくここから逃げよう。




あの兵士はあの扉から飛び出していった、戦闘に戻ったんだろう。

多分、あの大きな扉は開けちゃいけないはず。

その先は危険だ。



部屋を見回す。窓から出られるかもしれない。

窓枠に付いたレバーを回すと窓は外側に開いた、窓の下には狭い出っ張りがぐるりと建物を周っている。


「行ける」


窓枠を乗り越え出っ張りに乗り、外開きの窓を閉めると壁に張り付くように横に進んだ。



「グエッ」


何か喉元に食い込んだ。さっきのネックレス、閉じた窓に引っかかり、俺の喉を絞めたあと

ブチッとちぎれて落ちていった。


あの植え込みなら飛び降りられる。

尻餅をつくように植え込みに着地すると、

外側をグルッと囲んでいるらしい石壁に張り付く。


ここは登れないな・・壁の上のオレンジの空を見上げる。



「あの塔のようなのは見張り台だろうか?あそこまで行ってみよう」


着ているパーカーのフードを被りファスナーを口元まで上げる。


何でかって?特に理由はないが、気合が入るしちょっとかっこいいかもしんない。

隠密っぽく両腕を斜め下に広げ、壁に沿うように斜走りで丸い塔にたどり着く。



案の定扉がついていて中に入れるようだ。


塔を登ると壁の上に出ることが出来た。



(ここから矢とか銃を撃ったり石落としたりするのかな?)

ちょっと低くなってる窪みから顔を出して壁の外側を覗こうとしたら


ガツンッ


!!!思いっきり前頭部に衝撃、

「イグェ!!!」

(見えない壁がある!!)



どうしたものかと壁の上を歩いていくと、

隣の塔までたどり着いてしまった。


中に入ると階段があるが、これを降りても下に戻るだけ。

(あ、窓がある。背伸びしてやっと届く高さ、灰色の空が見える)



助走をつけて飛びつくのを何回か繰り返した後、やっと窓の外に上半身を乗り出すことが出来た。

下を見れば水、堀になっている。


この窓を出ても取っ掛かりは何もない、一か八か堀に飛び込む。



南無三・・・身体が水に沈んでいく、視界が暗くなる。

あ、溺れたな、なるがまま、意識を手放した。





目を覚ますと俺は両腕を後ろ手に縛られ床に転がされている。

視線を上げると一人の兵士が立っていた。


「南門の兵長だ。堀に落ちて柵に引っかかっていたお前を引き上げてここに運んだ。口は聞けるか」


「あ、はい・・」


「どこから入った、何をしていた。何であんなところに引っかかっていた。

館は今、何人も入り込めんぞ、間抜けが、この非常時にコソ泥か?」


「い、いや・・その・・泥棒じゃないです。ヤカタ?・・その館から逃げようと、それで堀に飛び込みました、はい。」

なぜか言葉は通じるようだが、異世界らしきこの場所で嘘をついて騙しきれる自信はない


「丸い塔があって、そこの窓から出られたんです。」


「何と、館から脱出して来たと・・・館内の様子はどうなっている?他に逃げ出した人はいるのか?」


「何もわからないんです。いきなりそこに居て、

ただ、赤いドレスの人と2人の女性は隠し通路みたいなところに入りました。

それで・・私は部屋に一人取り残されて必死に窓から逃げました」


「城壁の上には、何やら硬い膜のようなものが張られている、どうやって抜け出したのだ」


「全くの偶然だったんですが、塔から空の色が違って見えた場所が有りました」


「ウム、我々も、こんなものを、見るのは初めてでな、そうか、中から見ても色が付いて見えているのだな、塔の窓から脱出できるというのは貴重な情報だ。」


当初の火事場泥棒容疑者から重要情報提供者に格上げされたか・・


「そなたの家と名前を伺おう」



「名前はソウダ タケシ。家は・・いきなり連れてこられて」

信じてもらえる気もしないが誤魔化せる気もしない。


「地、、、地球というところに住んでました」

消え入るような声で言ってみる。





チ宮とは何だ?

館の中に有るのか?すると館に勤める身分の者だろうか。

「ソウダ家のタケシ殿か、そのチキュウという所でどのような勤めをなされているのか?身分を証明する物を所持して居られるか?」



「身分を証明するものは持っていません・・・地球ではマ・・マッサージ、いや、こう手を使って身体を揉みほぐして癒やすって言うか・・そういう仕事です」

異世界でマッサージ師なんて伝わるわけない


「後ろを向いて手を見せよ。貴殿は何故にこの様に爪を短く研いでいるのか?」

なぜそんな所に目をつける。爪が短いのが珍しいのか?


「や、やっぱり、他人の身体に触れる仕事ですから、長いとキヅつける可能性が、まぁ・・」


「ふむ、縄を解くから着ている服を全部脱いでくれ、身体検査は規則でな、脱ぎながら質問に答えてくれ」

えーー脱ぐの?全裸?!!!まぁしょうがないか



「その髪や眉はいかがした?自分で切ったのか?」


「いえ、美容院で切ってもらいます」


(ビヨウ院とな??院号がつく貴人か、館の中の事はわからん・・)

「その衣服はとても変わったものだな、それはどうしたのだ、どこで手に入れた?」


「これはイ○ー○―カドーで・・いえ、母が買ってきて与えられたもので」




母??堂が付く、ハッ御堂様という意味か!聞いたことが無い単語がポンポン出てくるし何者だコイツ。

もしかして高貴な人物なのか??

ソーダ家など聞いたことがないが。

われわれとは少し言葉が違うようだし

後宮の女房言葉か??

そうか、後宮の言葉だ。

しかし後宮は男子禁制、なぜ女達の言葉を・・・・・

あーー確か、娯楽本でそんな話が有った!

兵士の頭の中で推理という名の妄想がぐるぐると回り始める




同性とはいえ、あんまりじっくり見られる中で全裸になるのは気恥ずかしい。

視線を窺いながらゴソゴソと服を脱ぎ、床に置いていく。


ズボンを降ろそうとした時、裾から何かこぼれ落ちた、

あ、あのネックレスのメダルみたいなやつ!!


ヤバい、見つかったらきっと泥棒と誤解される。


慌ててササッとズボンとパンツを下ろし、メダルの上にかぶせて誤魔化す。

両手で前を押さえながら真っ直ぐ兵長の顔を見る。



「$$$$$$%%%$%$%」


ん?何を言ってるかわからない


さっきまで言葉が通じていたのに、さっぱり理解できなくなった。

兵長は困ったような、起こったような顔で俺を指さしたり

足をバタバタしたり、手をひらひらさせて踊っている。


何だ?何ヤッてるんだろう?


兵長は業を煮やしたように俺を睨みつけ顎を掴むと、大きく口を開きベーっと下を出してみせた。


あー真似をしろって事か、口を大きく広げ舌を思いっきり出して見せると


兵長は1,2歩下がって今度は両手のひらを顔の横で広げてひらひらさせる。



俺もひらひらする。



足の裏を見せる。



俺も真似をする。


何の踊りだよコレ。


兵長は俺の両手を掴むと床につかせて四つん這いにさせる。


「$$$#%%%%%%」



後に回って俺の尻をグイッと


「アッーーーー!!」



シクシク、もうお嫁に行けない、床に崩れ落ちるが

兵長はそれっきり無視して服を抱えると袋に詰めて部屋を出ていく


(冷たいのね)


あ、兵長が服を持ち上げた時、運良くメダルが崩れ落ちる俺の下に転がったらしい

見つからなくて良かったーーー


でも全裸だ、どこに隠せばいい?どこ・・・・?


とりあえず金色に光るペラペラのメダルをつまんで口の中に放り込んだ




なんとか、ナルカナ?


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