わらい祭りのできたワケ

結佳

第1話

ある旅人が、とある街に立ち寄った時の事。賑やかしい街の様子に圧倒される旅人に、陽気な男が話しかけてきた。


【わらい祭りのできたワケ】


どうですか?

楽しんでらっしゃいますか?

今日は月に一度のお祭りなのですから、楽しんで行かないと損ですよ?


何?

祭でにぎわっているのは判ったが、この祭は一体何なんだ、ですって?

ああ、初めてこの街にいらっしゃったのですか。


それは御存じなくて当たり前ですね。判りました。

もしお時間があれば説明しますが…聞きたい?

そうですか、では少しお時間を頂いて。


この話は、私も人から聞いた話なのですが…。

いいえ、ちゃんと真実のお話ですのでどうぞ、ご安心してお聞きください。



むかしむかし、といってもそこまで大昔の話ではありません。そうですね、せいぜいあなたが小さかった頃の話でしょうか。


そんなに昔でもないじゃないかって?

こう言った方が箔がつくかと思ったので、つい。


まぁ、その昔の話です。

この街の近くにある月の深森には、魔女が住んでいました。

その魔女はある特別な力を持っていると言われていました。魔女の流した涙には、あらゆる傷や病を癒せると言われていたのです。


そんな力なら便利だって?俺も昨日こさえた傷を治して欲しい?

そうですか。そうですね、ええ、そう考える人がたくさんいました。


あなたのように自分が得た傷を癒したいという人もいましたし、病を治して欲しいと言って魔女を訪ねた人もいました。

中には、乱暴な熊にやられて大けがを負った幼子を抱いた父親もいたそうです。


この傷、この病を癒して欲しい。

人々は魔女にお願いしました。


しかし、その魔女はとても意地悪でした。どのくらい意地悪だったのかと言うと、それは訪れた人が逆に魔女に泣かされてしまう程だったといいます。


それで、魔女は涙を流したのか?

貴方は随分とお話に嘴を突っ込みたがる人なのですね。静かに聞いていて下さいよ。


お考えの通り、魔女は涙を流すことなどありませんでした。

彼らはどれだけ傷を治して欲しいのか、どれだけ病を癒して欲しいのか。懸命に懇願しても、魔女は一向にその力を貸そうとはしてくれなかったのです。


泣かないのなら、泣かせればいい?

ええ、全くその通りです。彼らも皆、同じ事を考えました。


こんなに頼んでいるのに!叫びながら、魔女を痛めつけたそうです。それでも、魔女は泣きもしなければ死ぬこともありませんでした。


泣かされて、時には憤怒を露わにして。それでも何の成果もなく帰って来るしかないのだと皆がだんだん判り始めた頃。

すっかり魔女の家を訪れる者はほとんど居なくなったといいます。


魔女の存在もそのまま忘れ去られるかと思われた、その頃のことです。とある少女が、たった一人で深森の魔女に会いに行きました。


癒しの涙を持つ魔女の話を、遠方から聞いてやってきたのでした。

街の人々はどんなに魔女が意地悪で性悪かを教えてやりました。とても涙を流すようなモノではないと、少女に行くのはよした方が良いと、言いました。

魔女に逆に痛めつけられてしまうに違いないと、心やさしい人々は言ったのです。


けれど、少女はどうしても兄を助けなくてはいけないと人々を振り切って月の深森の中に入って行きました。



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