食堂にて
「ほら、早く早く。時間が無くなっちゃうよ」
赤かった顔が少し落ち着いたところでこっそり手を繋いで部屋から出たマークとジャスミンに、廊下で待っていたレイが笑いながらそう言ってそのままクラウディアと一緒に歩き出してしまう。
もう一度顔を見合わせて揃ってまた赤くなった二人は、それでも嬉しそうに笑って早足でレイ達を追いかけた。
その後ろをシルフ達が楽しそうに笑いながら追いかけて行ったのだった。
レイ達と一緒に食堂へ入って来たティミーに、食堂にいた生徒達全員の視線が集まる。
「初めまして、ティミーです。今日からここに通わせていただく事になりました。どうかよろしくお願いします」
食堂中の視線を集めたティミーは、一瞬だけ戸惑うように半歩下がったがすぐに気を取り直して小さく深呼吸をすると、当然のように大きな声でそう言って深々とその場で一礼した。隣にいたジャスミンは、それを見て感心したように笑って黙って下がった。
ジャスミンは最初の頃は貴族のお嬢さんが着るようなドレスを着てここへ来ていたが、今はずっと見習い巫女の制服を着てここに通っている。
なので彼女と直接の交流の無いほとんどの生徒達は、彼女が何者なのか知らずに単に見習い巫女がここに通っているのだと思っている。
「失礼した。こちらこそよろしく」
何人かの貴族の若者達が苦笑いしながら手を振ってくれて、そこで食堂の騒めきは元に戻った。
顔を見合わせて苦笑いしたマークとキムがトレーをまとめて取って皆に渡し、何事もなかったかのように料理を取る列に並んだ。
レイ達も渡されたトレーを持って、マーク達の後ろに並んだのだった。
「さっきのティミーの対応、素晴らしかったね。あっという間に皆に受け入れられちゃってたね」
山盛りの料理を取って来たレイは、隣に座ったティミーを見て満面の笑みでそう言った。
「実を言うと、カウリ様に教えていただいたんです。もしも食堂へ行って皆から大注目されたら、無視するんじゃなくてきちんと挨拶しろって。一応教えていただいた通りに言ったんですが、どこかおかしくなかったですか?」
「ううん。すごく立派に挨拶出来ていたよ」
笑顔のレイに断言されて、嬉しそうに笑ったティミーはレイを見上げた。
「レイルズ様の時はどうだったんですか?」
目を輝かせてそんな事を聞かれて、レイを挟んで反対側に並んで座ったマークとキムと顔を見合わせ、困ったように揃って苦笑いした。
「あのね、僕が初めてここに来た時はこの制服じゃあなくて騎士見習いの子が着る服を着ていたんだ。表向きはヴィゴが後見人で、突然精霊が見えるようになった彼の遠縁の親戚の子供って設定だったんだよね」
その説明に、当然レイも最初から竜騎士見習いとして通っていたのだと思っていたティミーが驚いてマーク達を見る。
「そうそう、元は俺が攻撃魔法が全く出来ずに苦労していてヴィゴ様から直接個人指導を受けていたんだ。それで、初めてレイルズがここに来た時、ヴィゴ様が引き合わせてくださったんだ。俺も元は辺境農家の出身だからさ。話が合うんじゃ無いかって言われてね」
目を輝かせて話を聞きたがるティミーにマークが照れたように笑って、レイとの出会いとその後の大騒ぎだった初めてのカマイタチの発動の話をした。
「ええ、守護の術がかかった教室の壁を割ったんですか?」
ここの施設の一通りの説明を受けていたティミーの驚く声に、レイが満面の笑みで頷く。
「あそこまで初めてで強力な技を放ったのは五十年ぶりの快挙だって聞いたよ。やっぱりマークはすごいよね」
「いや、教え方がうまかったんだって。だけどあれには今でも本当に感謝してるよ。おかげでここまで頑張って来れたんだからな」
「僕は何もしてないよ。頑張ったマークが一番偉いんだって」
笑ったレイの言葉に向かい側に並んで座っていたクラウディア達も、笑顔で何度も頷いていたのだった。
「ねえ、話は変わるけどさ。さっきから考えていたんだけど、私達ってティミーと初対面じゃないよね。さっき自習室で初めましてって挨拶したけど、ティミーと初めましてなのはディアだけだよね」
ティミーを見ながら笑ったニーカの言葉に、食前のお祈りを終えて食べ始めていた全員が手を止める。
「ああ、確かにそうね。任命の儀式の時に、私達ってティミーと会ってるじゃない」
ニーカの言葉に、今更ながら気付いたジャスミンも笑いながら頷いてティミーを見る。
「ああ、言われてみれば確かにそうですね。大変失礼しました」
慌てたように謝るティミーに、ニーカとジャスミンが揃っておかしそうに笑う。
「ごめんね。全然怒ってるのとかじゃあ無いから気にしないで。私正直に言うと、あの任命の儀式の時ってあまり記憶が無いわ。緊張し過ぎると記憶って飛ぶのね」
「私もだわ。断片的には覚えてるけど、なんていうか……全体に霧がかかったみたいにぼんやりとしか覚えてないわね」
ニーカの言葉にジャスミンも同意するように大きく頷きながら揃ってティミーを見る。
「そうですね。僕も正直いうとあの時の前後の記憶ってほぼ無いです」
「ね、だから改めてよろしくね!」
笑顔のニーカの言葉にティミーも笑顔になり、楽しそうに笑って手を叩き合うのだった。
「ううん、仲が良くて結構だねえ」
笑って小さく呟くキムに、マークとレイも嬉しそうに笑って二人を見つめていたのだった。
その後は、あれが美味しい、いや自分はこっちの方が好きだと、取ってきた料理を食べながら他愛も無い話で大いに盛り上がっていたのだった。
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