さまざまな話と明日の予定
「マイリーがそんな苦労をされていたなんて、僕、初めて知りました。だけど、だけど今はもうお元気なんですよね? 大丈夫なんですよね?」
「うん、それはもう心配ないって聞いてるよ。念の為、後でこっそりガンディも確認したけど、今ではもう全快してるから大丈夫だって言っていたよ」
不安そうなレイの言葉にロベリオ達は揃ってそう言ってくれたおかげで、レイとティミーはようやく安堵のため息を吐いて揃って大きく頷いた。
以前、レイが竜熱症を発症してオルダムへ運ばれて来た時、離宮での療養中に、紫根草の中毒になっていて、容体の急変した小さな子供の竜を助けて欲しいと言われて竜の保養所へブルーと一緒に行った事がある。
その時は紫根草の中毒と言われても意味がわからずちょっとした病気なんだと思っていたけれど、あの後、タキスから少しだけれどレイは紫根草について教えてもらったのだ。
なんでも紫根草自体は即効性の効き目のある痛み止めとして怪我などの際に使われる事もあるが、非常に取り扱いの難しい薬らしく、大量出血を伴う緊急事態などの際に一時的に使う程度で、継続的な使用はほとんどされていないのだそうだ。
口からの摂取は特に危険で、一定以上の量を短期間に摂取すると強い酩酊状態に陥り、幻覚を見たり幻聴を聴いたりする事すらあるのだと教えられた。
また非常に中毒性が高く、禁断症状も強い。大量摂取によって急性の中毒になった場合は、特に治療に非常に長い時間を必要とするのだとも聞いた覚えがある。
それはまさに、今教えられたマイリーの症状と完全に合致する。
「なんて強いお方なんだろう。すごいですね……」
ティミーの小さな呟きに、レイも言葉も無くただ頷く事しか出来なかった。
「まあ、そんなわけで、今はもうすっかり元気だから変に気を使う必要は無いからね」
気分を変えるようにロベリオはそう言って笑っているが、ティミーは困ったようにロベリオを見て首を振った。
「でも、マイリー様は足のお怪我の事もあります。あんまり普通にしておられるからつい忘れそうになりますけど、あれだって普通なら、車椅子で生活しなければならないほどの酷いお怪我だったんですよね?」
「まあ、無理は禁物だよね。最近では定期的に休みを取ってもらうようにしているから、かなり体調も良いみたいだけどね。それから、万一戦闘になって俺達に出動命令が出ても、マイリーは砦までは一緒に行くけど実際の戦闘には出ないよ。後方支援の指揮官として働いてもらう事になってる」
「それは当然です」
真顔のティミーの言葉の直後、何人ものシルフ達が現れて彼らの目の前に座った。
『ターコイズの主殿』
『マイリーの心配をしてくれてありがとうね』
『もうすっかり元気だから大丈夫よ』
その言葉にティミーも笑顔になる。
「ええと、アメジストですね?」
『はいそうよ』
『改めてよろしくね』
嬉しそうにそう言うと、ふわりと浮き上がってティミーの頬にそっとキスを贈った。
それぞれの竜達の使いのシルフは、自分の主の肩に座ってご機嫌だ。
「あはは、もしかして皆して聞いていたのか。まあそりゃあそうだよな。大事な愛しい主に関する事だもんな。ましてや、この話は特にね」
ロベリオが苦笑いしながらそう言い、自分の肩に座ったオニキスの使いのシルフをそっと撫でた。
「まあ、他にも聞いてもらわなければならない内密の話も沢山あるんだけどね。いきなり一気にすると、話の内容自体が頭に入らないだろうからさ。これは順番にね」
笑ったユージンの言葉に、真剣な顔で何度も頷くティミーだった。
「さてと、とりあえず最初の説明はこれくらいかな。今日はもう、この後は特に予定は無いからゆっくりしてもらっていいよ。夕食には一緒に食堂へ行くからね。それから明日の予定だけど、奥殿へ昼食会に招待されているからそのつもりで」
「ちなみに、昼食会にはレイルズも一緒に呼ばれてるからね」
笑ったロベリオとユージンの言葉に、ティミーが目を見開く。
「ええ、待ってください! 奥殿って……」
「そう、マティルダ様とティア妃殿下が、是非ともティミー君とお話がしたいんだってさ。多分、アデライド様やカナシア様もお越しになられるだろうから、きっと賑やかだと思うよ」
「うわあ、頑張ってねティミー!」
笑ったレイに背中を叩かれて、悲鳴を上げて机に突っ伏すティミーだった。
「いきなり、いきなり皇族の方とお茶会なんて、そんな無茶言わないでください!」
「ええ、皆様とてもお優しい方ばかりだから、大丈夫だって」
ある意味、無邪気とも取れるレイの励ましに、もう一度悲鳴を上げてレイに縋り付く。
「お優しいのは分かってます! そうじゃなくて! そうじゃなくて!」
「ええ、じゃあどうだって言うの?」
「ああもう! 助けてくださいロベリオ様〜〜!」
今度はそう叫んで、机を挟んで座っているロベリオに向かって手を伸ばす。
「あはは、まあこれは心配しなくてもそのうちに慣れるよ。皆様、気軽に招いてくださるからね」
しかし、軽く笑ってそう言われてしまい、また机に突っ伏す。
「うう、大丈夫かなあ、僕」
突っ伏したままのティミーが、不安気に小さな声でそう呟く。
未成年であるティミーは、まだ正式なお茶会や夜会には一切出たことが無い。
執事のマーカスやお母上から、それらがどのようなものであるのか話には聞いているし、一通りの礼儀作法は当然心得ている。しかし、だからと言っていきなり王妃様や妃殿下と一緒のお茶会と言われて、はいそうですかと平然と受けられるはずもない。
いきなり目の前に立ちはだかった突然の無理難題に、ティミーは本気で気が遠くなるのだった。
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