レイの解説と精霊達の事
「ええ、どう言う意味だよ?」
ロベリオとユージンの声が重なる。
「えっとね、例えばさっきのロベリオの走りで説明すると、まず最初の枝からあっちの逆の枝に飛んだよね」
枝を指差すレイに、ロベリオが頷く。
「あの位置から石柱までは、僕でも一度では飛べないよ。だって、途中に枝が張り出してる箇所があるから飛んだ時に邪魔されるんだ」
そう言って指差したのは突き出してはいるがごく細い木の枝で、しかも柔らかいためにちょっとした風の反動で大きくたわんで揺らめいている。
「ええ、あんな細い枝が邪魔?」
「そう。それにあんな風にこっちに向かって張り出している枝は、例え細そうに見えても、角度によっては自分に突き刺さる可能性があるから絶対に交差する位置に飛んじゃあ駄目なんだよ」
これは、林のコースを走り始めた一番最初の頃にニコスから口うるさいくらいに何度も何度も言われた事だ。
走るルートに張り出している枝の向きは必ず見る事。
例え柔らかい枝であっても、勢いをつけて突っ込めば角度によっては目に突き刺さる事だってあるのだと。
驚くロベリオに、レイは次に石柱を指差し、また別の枝を指差す。
「それからもう一つ。あの位置まで一気に跳ぶために、あそこの枝に上がったでしょう」
頷くロベリオに、レイは笑って首を振った。
「あの枝はたわむ向きが逆なんだ。だから石柱の方へ飛ぼうとしても体の反動はあっちへ向かってるから、思ったよりも距離が取れなくて無理が出たんだよね」
そう言って石柱からは少しずれた別の場所を指差す。
「だから、無理をして多くのシルフの助けを使わなければ行きたい場所に飛べなかった?」
ロベリオの言葉に、レイが笑顔で頷く。
「そう。だから走る際にはまずはしっかり見てルートを確認してから、一度試しに軽く走ってみるのが良いね。そうすれば、枝の状態や、踏石のちょっとした角度が分かるようになるよ」
何でも無い事のようにそう言って笑うレイに、全員が無言で拍手をしていた。
「じゃあティミーもやって見ようよ。僕が補助して教えてあげるから、まずは木に登ってみようか」
満面の笑みで振り返ってそんな事を言うレイに、ティミーは顔を覆って悲鳴を上げてロベリオの背後に隠れたのだった。
「だから皆様と一緒にしないでください。僕はまだシルフ達とようやくちょっと仲良くなって来たところなんですから!」
その叫びに驚いて目を瞬くレイに、ターコイズの使いのシルフが現れて笑って頷く。
『確かに我が主殿はまだまだ精霊達の声を自由には聞けぬようだな』
『皆我が主殿と仲良くなりたくて周りでいつもそわそわして待ち構えておるのになあ』
苦笑いしながらそう言われて、その様子が見えていたルーク達が揃って笑う。
レイも、シルフ達がティミーの周りをやたら飛び回っている理由を理解して小さく吹き出した。
「ええ、竜の主になったらすぐに精霊の声が聞こえるんじゃあなかったっけ?」
そう呟いたレイは、自分の時を思い出してみる。
「そっか、僕も最初のうちはシルフ達の声も姿もあまり見えなかったっけ。あれ、じゃあ訓練にならないんじゃない?」
「いや、ただ精霊の姿が見えるようになった子とは違ってティミーは竜の主なんだからさ。危ない事があれば当然守ってくれるよ。俺達だって守るって」
「だよね。じゃあ一度……」
「だから無理ですって。それならせめて、明るくなってからにしましょう。僕、正直言うと、そろそろ眠いです」
それはそうだろう。
いつもなら、もうベッドで熟睡しているであろう時間だ。
「ああ、それは確かにそうだな。じゃあ明日は戻るのは午後からで良いから、それなら午前中に少しでもやってみればいい。まあまだ無理しなくても構わないよ」
ロベリオの言葉に、ティミーは安堵したように小さなため息を吐いて頷く。しかし、その言葉を聞いてレイはつまらなさそうに口を尖らせて眉を寄せる。
「ああもう、だからその顔はやめろって。お前だって苦手な事をいきなり体調が万全じゃない時にやれって言われたら困るだろうが」
ロベリオに額を突っつかれる。だが、その言葉に納得したようで小さく笑って頷くとティミーを振り返った。
「じゃあ、精霊の泉に戻ってちょっとだけシルフ達に挨拶して、今日のところは引き上げよう」
ロベリオの言葉にティミーも笑顔で頷き、レイと手を繋いで一緒に泉へ戻った。
「じゃあ、今の泉の様子って、ティミーにはどう見えているの?」
精霊の泉を前にして、レイが不思議そうにティミーに尋ねる。
「ええと、声は聞こえないけど姿はよく見えています。空中にいる透き通った小さな女性がシルフで、泉の中や噴水で遊んでいるのがウィンディーネ。地面にいる小さな男性の姿をしているのがノームで、ランタンの炎の中にいる細いトカゲみたいな子がサラマンダーですよね?」
しっかりと見えている事が分かってレイも笑顔になる。
「じゃあこの子は? 見える?」
空中にいた光の精霊を手の上に乗せて、ティミーの目の前に持って行ってやる。
「はい、ロベリオ様に教えてもらいました。この子が光の精霊なんですよね。でも……目は光っているだけで顔は見えないです」
「うん、それでいいよ。元々ウィスプには僕らのような顔は無いんだって聞いたよ」
レイの説明にうんうんと頷く光の精霊を見て、ティミーが驚く。
「へえ、そうなんですね。僕の力が弱いから見えないんだと思ってました」
「姿が見えるのなら、上出来だよ」
二人の話を聞いていたルークの言葉に、若竜三人組も苦笑いしながら頷いている。
「ああ悔しい。僕だけ見えない!」
タドラの呟きに、ロベリオ達が笑って彼の背中を叩くのをティミーは驚いて見ていた。
「今の竜騎士隊なら、タドラとマイリーとヴィゴには光の精霊魔法の適性が無いから、残念ながら姿も見えないんだ。だけど、だからといってこれから先もそうかどうかは分からない。現に、俺が光の精霊が見えるようになったのって、レイルズがオルダムへ来た直後だったからね」
「ええ、そうなんですか?」
目を瞬くティミーに、ルークが突然光の精霊達が見えるようになった時の事を話して聞かせた。
「あれって、まだたった二年ちょっと前の事なんですよね。僕、もの凄く昔の事みたいな気がするや」
横で聞いていたレイのしみじみとした呟きにルーク達が揃って吹き出し、顔を見合わせて全員揃って大笑いになったのだった。
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