今日からの予定
「えっと今日の予定を聞いてないけど、どうなってるんだろうね」
部屋へ戻る廊下を歩きながら、肩に座っているブルーのシルフに話しかける。
『戻れば、其方の従卒が何か教えてくれるだろうさ。このところ忙しかったからな、特に予定がないのなら、少しはゆっくりしなさい』
「そうだね。明日と明後日はマークとキムのお手伝いだから、今日はゆっくり休ませてもらっても良いかもね」
笑いながらそう言って、出迎えてくれたラスティと一緒に部屋に戻った。
いつの間にか空いた時間の予定を自分で決めていた事に、レイは気付いていない。
軽く湯を使って着替えてから、いつもの竜騎士見習いの制服に着替えた。
「竜の面会期間が終わってからティミー様はこちらに来る事になりました。お母上との交流を絶やさない為にも、成人年齢になるまでは、定期的にご実家へお戻りいただく方向で調整しているとの事でしたよ」
それを聞いてレイも笑顔になる。
「良かった。ティミーもお母上もお寂しいだろうからね」
「そうですね。それにこう申しては何ですが、ロベリオ様とユージン様以来の、ご実家がオルダム在住の貴族の若君様ですからね。しかも一人息子でいらっしゃいますから、
「えっと、譲葉の森の会って、確か当主と嫡男の方が入るって聞いた倶楽部……だよね?」
「はい、そうです。当然家を第一に考え、家名を残す事が何よりも優先されます。次男以下の方々とは、明らかに物事の考え方が違いますので、その、少々窮屈な場合が多いですね」
かなり控えめなラスティの説明にレイは、倶楽部の説明を聞いた時の事を思い出して顔をしかめた。
「まあ、その辺りはティミー様は心得ておられますよ。良い機会ですから、レイルズ様もその辺りの事は当事者の方々から話をお聞きになられる事をお勧めしますね。貴族社会というのは、表に見える華やかな部分だけでなく、裏でもさまざまな奉仕活動やありとあらゆる仕事をなさっておられます。表に出ない、そういった部分にこそ実は密かに国を支えておられるような重要な案件もありますからね」
真剣にラスティの話を聞いていたレイは、小さく頷いてため息を吐いた。
「難しいんだね。僕、なんて言うか……もっと、色んな事が簡単なんだって思ってました」
「最初はそれでよろしいのですよ。たくさん勉強をして、様々な方々と会ってお話を聞いて、そうやって色々な事を知るのですよ。殿下がニーカ様に仰っておられた言葉を覚えておられるでしょう。しっかりと学んで成長すれば、自ずと自分に何が出来、何が出来ないかが見えてくるのだと。その判断をする為の礎となるのが、多くの知識や経験なのだと。ですからレイルズ様も、今のうちに様々な知らない事に接して知識を蓄えてください。好奇心って大事なんですよ」
最後は笑ってそう言われて、レイも目を輝かせて頷いた。
「はい、頑張ります!」
「はい、分からない事はなんでも聞いてくださいね。後輩が出来たんですから、頑張らないとね」
「えへへ、でもきっとティミーには、実技以外は教わる事の方が多そうです」
照れたように笑うレイに、ラスティも笑顔で頷くのだった。
まだ幼いティミーの秀才ぶりは、実は後方支援の兵士達の間でも有名だったのだ。身体が小さく年齢よりも下に見られがちだが、彼は今年の春から大学の政治経済学部の特待生として通っている。
特待生とは、文字通り特別優秀な生徒のみに与えられる特権で、教授の特別講義や資料の閲覧を優先して受けられたり、講義も場合によっては合同ではなく個別に行われる程だ。
特に政治経済学部の特待生は、大学でも久し振りの登場で、教授達からの期待も大きい。
その彼が竜の主になった事で、実は、大学側でも大騒ぎになっていたのだった。
「そういえば、ティミーは精霊魔法訓練所へ通うの?」
「恐らくそうなると思いますね。精霊魔法に関しては全くの素人ですから、当分の間は、カウリ様がなさったように、個別での指導でまずは基礎を覚えていただき、その後は通常の大学の授業と並行して精霊魔法に関する授業を行う事になるでしょうね」
「そっか、大学に通ってるって言ってたものね」
以前ゲルハルト公爵閣下が行ってくれた勉強会の時に、そんな事を言っていたのを思い出した。
「すごいや。政治経済って、僕なんてやっと基礎が何となく解ってきたところなのになあ」
大きなため息と共にそんなことを言うレイを見て、ラスティは苦笑いしていたのだった。
「えっと、今日から竜の面会が始まってるんだよね。今日の予定って何かあるんですか?」
話していてずっと持ったままだったミスリルの剣を剣帯に取り付けながら、レイはラスティを見る。
「今日は、夕刻から婦人会主催の夜会の予定が入っておりますが、それまではゆっくりしていただいて良いとの事です。明日以降も幾つか夜会の予定は入っていますが、それ以外は今のところ特に指示はありませんので本部にて待機になります。良い機会ですから少しゆっくりなさってください」
「分かりました。えっと、じゃあ明日と明後日はマーク達の所へ資料作りのお手伝いに行きたいんですが、良いですか?」
目を輝かせて嬉しそうに話すレイの言葉に、一瞬目を瞬いたラスティは笑顔で頷いてくれた。
「了解しました。では明日と明後日の日中は、マーク軍曹とキム軍曹のところへお手伝いに行かれるのですね。ルーク様に報告しておきます」
「お願いします! でもまずは食事に行こうよ。僕お腹ぺこぺこです」
無邪気なレイの言葉に、ラスティは笑いながらも頷いてくれたのだった。
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