問題の報告と竜の面会の事
ルークやヴィゴ達と共に城へ向かったレイは、初めて見る廊下を延々と通って知らない部屋に到着した。
そこはどうやら陛下のための執務室のようで、大きくて立派な机に向かって座っていた陛下がルーク達に気づいて振り返った。机の横には数人の文官の制服を着た人達が並んでいる。
「ロディナよりただいま戻りました」
そう言って陛下の前で直立して敬礼するヴィゴに倣って、全員が同じように整列して敬礼する。レイも、カウリの隣に並んで背筋を伸ばして敬礼した。
「ああ、ご苦労だったな。しかし改まって何事だ?」
「実はロディナから戻る際に、奇妙な現象に会いました。明らかな原因は不明ですが、看過出来ない事態と考えます」
ヴィゴの言葉に、陛下が眉を寄せる。
「詳しく話せ」
ヴィゴの口から語られた一連の不審な風の事を聞き、陛下の眉が更に寄る。
「その後は、何か変化は?」
『特に何も無いな。念のため周辺の森もくまなく捜索させたが、それらしき存在は一切確認されていない』
現れたブルーのシルフの言葉に、陛下の眉間に皺が寄る。
「ならば、その異変は何が原因だ? そもそも、風が起こる原因をその場にいるシルフ達が知らんなど有り得んだろう」
『だが、実際にシルフ達は分からんと口を揃えて言うておる。まあ、しばらく光の精霊達に定期的に巡回させておく故、何か変化があったら知らせる。念の為、城の結界の状態も確認しておいた方がいいだろうな』
「分かった。それはこちらで早急にやらせる」
『頼む。竜の面会で地方から多くの人達が訪れる時期だからな。何もないとは思うが、警戒するに越したことはあるまい』
「そうだな。面会期間中は、警備の班に必ず第四部隊の兵士を入れるようにしよう」
『ああ、それは良いな。それなら城の内部で万一にも何か変化があれば、すぐに分かるだろうからな』
「すぐに手配しよう。ではご苦労だったな。下がって良いぞ」
陛下の言葉に改まって直立して敬礼した一同は、そのまま一旦本部へ戻った。
「お疲れさん。じゃあ今日は少し早いけどこれで解散だな。夕食は一緒に行くからそれまでゆっくり休んでてくれて良いぞ」
「分かりました。じゃあ着替えたら休憩室へ行きます」
外では、そろそろ西の空が赤く染まり始める時間だ。ゆっくりと渡り廊下を歩いて本部に到着したレイは、迎えに来てくれたラスティと一緒に部屋へ戻っていつもの竜騎士見習いの服に着替えた。
お土産のお菓子は明日のおやつにするのだと聞き、さすがに今からあれを食べたら夕食が食べられなくなると思って諦めたレイだった。
夕食までは、誰も戻ってこなかった静かな休憩室で明日の訓練所での天文学の自習に励み、食事の後はカウリとタドラに相手をしてもらって、攻略本を片手に陣取り盤をしてのんびりと過ごした。
「そう言えば今回の竜の面会って、沢山の人が来るんですよね」
「おう、去年は十日かかってたんだけど、今回は全部で十二日がかりだからな」
「まだ二日増えたんだ。じゃあ第二竜舎の皆は今年も大忙しだね」
陣取り盤の駒を動かしながらそう言ったレイは、去年の応援へ行った時に実際にどんな事をして、面会当日にはどんな人達がいたのかを詳しく二人に話して聞かせた。
「僕も面会に行ったけど、はっきり言ってあの前後の記憶って結構曖昧なんだよね。まさか、自分が竜の主になるなんて考えもしなかったもの」
タドラの言葉に、カウリも苦笑いしながら頷いている。
「確かに俺もそうだったなあ。それに、実際に面会に行く奴らのうち、本当に自分が竜の主になれると思って来ている奴は少ないと思うぞ。まあ、何も考えていない馬鹿は別にしてもさ」
最後の言葉にレイとタドラが揃って吹き出す。
「そうかなあ。面会前に勝手にお薬もお茶も飲まずに竜舎に乱入するのは論外だとしても、会いさえすれば、竜の主になれるんだって考えてた人は、少なくなかった印象だよ」
レイの言葉に二人が驚いたように振り返る。
「ええと、お前がそう考える根拠は?」
不思議そうなカウリの質問に、レイは笑って肩を竦めた。
「後半に僕は竜舎内を案内する担当をしたんだけど、かなりの人が、最後の一頭が終わってもまだあると思って聞いてきたもの。これで終わりの筈がないって」
「筈がないって言われても!」
吹き出すカウリの言葉に、レイも笑って頷く。
「僕もそう思うけど、かなりの人がそう言って怒りだしたもんね、それでもう一回初めから行こうとするから、何回戻ろうとするのを止めた事か」
「ああ、成る程な。そりゃあご苦労さん」
そう言ったカウリは、タドラと顔を見合わせて苦笑いしている。
「タドラはどうだったんですか? 会いに行く時に、少しでも竜の主になれたらって思ったりしなかった?」
目を輝かせるレイにそう聞かれて、タドラが笑って首を振る。
「まさか、正直言って行く気も無かったくらいだからね。だけどその時の僕の指導に当たってくれていた神官様が、これは貴族の子息の義務だから、急がなくてもいいけど必ず行くようにって真顔で説得してくれたんだよね。それに、身分が上がってから行こうとしたら、その肝心の面会期間中に重要なお務めがあったりして抜けられなくなったら困るけど、今ならある程度は自由にしてやれるから若い内に行って来なさいって言われたんだ。それで、それなら社会見学のつもりで竜を見て来ますって、そう言って気軽に行ったんだよね。オルダムにいても竜を間近に見る機会なんてそうは無いからさ。行くと決めてからは、竜を見るのを楽しみにしていたのは事実だね」
「ああ、確かに俺も今更って思ったけど、似たような事をチェルシーに言われて説得されたんだよな。それで、じゃあ竜がどんな風だったか教えてやるって言って、面会に参加したんだよ」
「成人してすぐに行かなかった人って、そんな風に説得されてる人は多そうだよね。確か、ヴィゴも二人目の子供が生まれた直後に、竜の面会に行っていないって話をしたら奥様に説得されたって聞いたよ」
「ああ、それは俺も聞いた事がある、ヴィゴが面会に行った頃って、まだ地方貴族の竜との面会は義務じゃなかったらしいし、あの性格なら尚更だよな」
カウリの言葉にレイも笑顔で頷く。
「でも、それで皆が自分の運命の竜と出会えたんだから、やっぱり面会にはちゃんと来てくれないとね」
「そうだな。それに竜舎の個人的な見学も、申し込みが増えているらしいからな」
「ああ、そう言えばそんな事をルークが言ってましたね。今までは見学の際にはある程度以上の身分のある人の紹介が必須だったけど、今年の春から見学の際の条件が緩和されて、貴族の身分があれば、あとは事前の申込とある程度の審査だけで見学の為に竜舎へ入れるって聞いたよ」
「ある程度の審査って?」
タドラの言葉に、不思議そうにレイが質問する。
「まあ形式的なものだけど、犯罪歴や暴力的な人物なんかは断られるって聞くね。実際に断られたって話は聞いた事が無いけど」
「犯罪歴の有無なんかは俺も聞いた事があるな。だけど確かに、言われてみれば実際に断られたって話は聞いた事が無いな」
「まあ、そう言っておけば後ろ暗い事がある人は少なくとも自分からは来ないからなんじゃないかな」
「確かにそうだね。じゃあ竜の面会期間中って、僕達は何かするの?」
レイの質問に、タドラが笑って首を振る。
「特に何かするわけじゃない。基本的にはいつもと同じだけど外出は厳禁だね。要するに本部の敷地内にいろって事。レイルズ達の場合なら期間中は訓練所へは行けないね」
「どうして本部内にいないと駄目なの?」
「そりゃあお前、俺の時を思い出してみろよ。実際に出会う時なんていきなりなんだから、出会いがあればその日のうちに最初の任命の儀式をするんだぞ。その際に竜騎士が立ち合わなくてどうするんだって事だよ」
納得して頷くレイを見たカウリは、苦笑いしてレイのふわふわな赤毛を撫でた。
「さて、今年はどうなるんだかね。個人的には、ターコイズに良い出会いがあるように願ってるよ」
カウリのその小さな呟きに、レイとタドラも真剣な顔で揃って頷くのだった。
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