根回しと下準備
「かしこまりました、明後日からですね」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
「どうかよろしくお願いします!」
クラウディアとニーカは、並んだシルフ達に向かって笑顔でそう言うと、最後は二人揃って深々と頭を下げて、声を揃えてお願いしますと言った。
『こちらこそ楽しみにしていますね』
『それでは離宮で会いましょう』
並んだシルフ達から声が聞こえて、その後彼女達は手を振って消えていった。
「明後日から二泊三日なんだって」
「楽しみね。でも皆にも勉強会で留守をするって連絡しておかないとね」
顔を見合わせて嬉しそうに笑った二人は、手を叩き合ってから大急ぎで担当のお掃除に戻ったのだった。
ディレント公爵からの連絡を受け、クラウディアとニーカをレイルズが主催する勉強会の為に外泊させる事を聞いた神殿側は、最初難色を示した。
当然未婚の巫女であるまだ成人して間もないクラウディア、ニーカに至ってはまだ未成年だ。なので当然、その場への成人女性の立ち合いを求め、公爵が伝えたその人物の名を聞いて神殿側も納得した。
それ以外にも、彼女達の身の回りの世話をする為の侍女を公爵側が全て手配すると言われて、ようやく許可を出したのだった。
彼女達の外泊に目付役として同行するのは、ジャスミンの教育係として竜騎士隊の本部に詰めているロッシェ僧侶と、同じくジャスミンの教育係として奥殿から派遣された女官のターシャ夫人。
二人とも精霊魔法は使えないが、ジャスミンの身近で接している為精霊達もその二人のことは嫌がらない。
今のシルフは、そのロッシェ僧侶からの知らせだった。
後程レイルズ様から連絡があるかもしれませんが勉強会の詳細が決まったので、と前置きされた上で、詳しい予定を教えられたのだ。
「ロッシェ、ありがとう」
自分が呼んだシルフ達で彼女達に連絡してくれたロッシェ僧侶に、ジャスミンは嬉しそうにそう言って頭を下げた。
「これも経験です。殿方との距離感も知らなければなりませんからね」
笑顔でそう言っているが、目は全く笑っていない。
しかし心得ているジャスミンも負けずににっこりと笑って、深々と一礼したのだった。
「もちろんよ。これからもよろしくね」
クラウディアとニーカが夕食を終え、ようやくのわずかな自分の時間になった時、また伝言のシルフ達が現れて二人の前に並んだ。
丁度その時、二人は部屋に戻って公爵閣下から頂いた大好きな物語をそれぞれ読んでいたところだった。
『遅くにごめんねレイルズです』
『今話しても大丈夫?』
並んだシルフ達がレイの声を伝えてくれる。
レイルズから直接連絡をもらう時は、今の様にシルフ達は彼の声をそのまま伝えてくれる。
始めて聞いた時にはそれこそ声も出ないくらいに驚いたが、ブルーが教えてくれた、今では失われた声飛ばしの高位の技なのだと聞いて納得した二人だった。
「ええ大丈夫よ。今部屋にいて、ニーカも一緒にいるわよ」
「はあい、ここにいるわ」
笑ってシルフに手を振るニーカの声に、レイの使いのシルフも笑って手を振り返した。
『えっとね勉強会の詳細が決まったから連絡したんだ』
『急で申し訳ないんだけど』
『明後日からの二泊三日でする事になったんだ』
『二人は大丈夫?』
顔を見合わせて笑顔になった二人は、揃って大きく頷いた。
「もちろん大丈夫よ」
『良かった』
『それで一緒に行ってくださる女性なんだけど』
『ディレント公爵閣下が侍女の手配をしてくれるんだって』
『それでジャスミンの指導役のロッシェ僧侶様』
『それから同じくジャスミンの指導役の』
『女官のターシャが行ってくれるんだって』
『ジャスミンがお二人とも厳しい方だって言ってたよ』
「まあ、それは大変ね。お行儀悪かったら叱られそう」
ニーカの言葉に、クラウディアも笑う。
『明後日の午前の十点鐘』
『出迎えの馬車がそちらの神殿まで行ってくれるから』
『用意をして待っててね』
「明後日、午前の十点鐘ね。分かりました」
先ほどロッシェ僧侶から聞いた内容と変わらない事に小さく頷き、もう一度楽しみにしていると言ってからシルフ達は手を振って消えて行った。
完全に消えるまで見送った二人は、揃って小さく安堵のため息を吐いた。
「楽しみね」
「ええ、そうね」
もう一度顔を見合わせて笑顔になった二人は、また夢の様な優しい物語の世界に飛び込んでいくのだった。
「ご苦労さん。中々上手く出来たじゃないか」
ルークの言葉に、レイはもうこれ以上ないくらいに大きなため息を吐いた。
「もう、すっごくすっごく大変でした。ルーク達は皆、本当にいつもこんな事をしているの?」
もう一度ため息を吐いて眉を寄せるレイに、横で見ていたカウリが笑って額を突っつく。
「当たり前だろうが。自分の予定くらい自分で決められる様にならないとな」
「そんなの無理です〜僕、泣いて森のお家に帰ります〜!」
久しぶりのレイルズの叫びにカウリが吹き出し、休憩室は笑いに包まれる。
「レイルズ君の一人立ちは、まだまだ先になりそうだな」
態とらしくため息を吐いたルークの言葉に、また皆で笑い合うのだった。
『まだまだ自分で全ての物事を決めるのは、レイには無理の様だな』
苦笑いしたブルーのシルフの言葉に、クッションに顔を埋めていたレイが起き上がる。
「ううん、無理じゃないけどさあ……」
『なら良いではないか。これも経験だ。しっかりやりなさい』
笑ったブルーのシルフに頬にキスをされて、レイも照れた様に笑ってキスを返したのだった。
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