新たな仕事の依頼?

「ありがとうございました」

 立ち上がって教授にそう言ったレイは、大急ぎで散らかる机の上を片付けた。

「では来週の流星群、お時間があれば見てみてくださいね。深夜過ぎに東から大鷲座の辺りを流れますから」

「はい、せっかくですから頑張って見てみます」

 笑顔で答えるレイに、天文学のアフマール教授も笑顔になる。

「ああ、もしかしたら流星群に合わせて、星の友の会が観測会を開催するかもしれませんね、お時間があれば観測会に参加するのも良いですよ」

 その言葉に、レイは片付けていた手を止める。

「ええ、もしかして教授も星の友の会に入っておられるんですか?」

「もちろんですよ。忙しくてなかなか観測会には参加出来ませんが、星の友の会監修で作っている天体観測入門書には私も最初から関わっていますよ」

 それはお城の図書館にも置かれている、初心者向けの天体観測のやり方が書かれた本だ。

 レイも、図書館で借りて読んだ事があるし、初めて行った天体観測の体験会の後、ゲルハルト公爵から頂きすごく勉強になった一冊なのだ。今でも部屋の本棚に大事に置かれている。

「ええ、そうだったんですね。あの本、すごくわかりやすく書かれていて、ゲルハルト公爵閣下からいただいて隅から隅まで何度も読み返しましたよ」

 目を輝かせるレイの言葉に、アフマール教授は破顔した。

「これは嬉しい事を言ってくださいますね。あの本はとにかく、難しい科目の代名詞にもなっている天文学を初心者の人にも理解してもらえないかと、星の友の会の皆で散々話し合って私が中心になって原稿を書いたんです。その後も何度も推敲を重ね、実際に初心者の方の意見も聞いたりして書き上げたんですよ。今思い出してもよくあんな事したなと思いますね。皆、もう本作りに夢中でしたよ。なかなか無い貴重な体験をさせてもらいました」

 楽しそうに笑うアフマール教授の言葉にレイも楽しそうに笑った。

「凄いですね、自分達で本を作るなんて。機会があれば僕もやってみたいです!」

「まあ、確かにそうある事ではありませんねえ。では、次に本を作る際にはレイルズにも手伝ってもらいますね」

 肩を竦めた教授がそう言い、レイが嬉しいそうに笑う。

「はい、喜んでお手伝いしますので、その時には是非お願いします!」

 個人が本を作る機会なんてそうありはしない。それが分かっているのは教授だけだったが、レイと顔を見合わせて教授も笑って頷いてくれた。






「ありがとうございました!」

 声を揃えてそう言ったマークとキムに、教室にいた生徒役の教授や上官達から拍手が起こる。

「いや、今回は完璧だったよ。かなりの頑張りが見えたね」

「確かに。話し方も最初の頃に比べたらかなり慣れてきたみたいだし、資料の作り方も上手くなってきたね」

 レイルズがまとめてくれた資料は、教授達からもとても解り易いと褒めてもらえた。

「実はこの資料はレイルズが手伝ってくれたんです。それ以外にも、いつも自習室で一緒に勉強している友人達が疑問点や解りにくいところをまとめてくれました」

 それを聞いた教授達が、納得した様にあちこちで頷く。

「成る程。全く無知の状態から精霊魔法を習った彼だからこそ気づいた部分という訳か」

「俺も全くの初心者からここへ来たはずなんですけれどね。やっぱり自覚なき天才は違いますね」

 苦笑いしたマークの言葉に、教室は暖かな笑いに包まれたのだった。



「そうそう、実は君達にもう一つ仕事の依頼が来ているんだ。今は忙しいからすぐには無理だと言っておいたんだがね。恐らく、直接の上司であるディアーノ少佐に連絡が入っていると思うから、詳しい話は少佐から聞いてくれたまえ」

 教授達と一緒に生徒役で講義を聞いていたケレス学院長の言葉に、マークとキムは首を傾げた。

「何の話ですか?」

「俺達に仕事、ですか?」

 軍人である彼らを名指しして、精霊魔法訓練所のケレス学院長に外部から仕事の依頼が来ると言うのは、何ともおかしな話だ。

 恐らくは、彼らに何処かの学校で精霊魔法の合成に関する講義をしてほしいとの依頼だろうけれど、それならば軍の総務部を通じて依頼が来るのが普通だ。

「まあ、それを受けるかどうかは君達に任せるよ。私は悪い話では無いと思うが、さすがに今すぐは無理だと思うぞ。でもまあ、もしもやる気があるのなら、我々は協力は惜しまんよ」

 笑いながら、あえて詳しい依頼の内容は言わずにいるケレス学院長の言葉に、二人は揃って首を傾げた。

 だが今の話を総合すると、大変な様だが悪い話では無いみたいに思える。

「分かりました。戻ったら少佐に確認します」

 疑問は残っているが、そう言って資料を集めてカゴに放り込むと、二人は一礼して教室を後にした。




「ディーディー達は、お祈りの時間があるからって先に帰ったよ。それでどうだった?」

 廊下で待っていてくれたレイと、二人は笑顔で手を叩き合う。

「おかげで何とかなったよ。手伝ってくれた魔法陣の資料、すごく解り易いって褒めてもらったよ。本当にありがとうな」

「そっか。役に立てたなら嬉しいよ」

 満面の笑みでそう言ってくれたレイともう一度拳をぶつけ合い、三人揃ってそれぞれの鞄と資料の入った籠を抱えて外に出て行った。



 待ってくれていた護衛のキルートと一緒に本部に戻る間中、三人揃って離宮での勉強会でまず何をするかを夢中になって話していたのだった。

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