問題点といくつかの対処方法

「ねえ、なんだかちょっと元気が無いみたいに見えるけど、どうかしたの? 訓練所で何かあった?」

 タドラの優しい言葉に、レイはまたあの時の自分の迂闊さを思い出して情けなさのあまり泣きたくなってきた。

「おいおい、なんて顔してるんだよ。ええ、何事だ? さっき別れたマークとキムは特に何も言ってなかったけどな?」

 困ったようなカウリの言葉に、もうレイは本気で泣きそうになってとうとう机に突っ伏してしまった。

「どうしたんだよ。泣いてちゃ分からないって。何かあったのなら相談に乗るからさ。ほら、顔を上げて。とにかくせっかくのお菓子を頂こうよ」

 タドラが優しくそう言って、突っ伏すレイの背中を叩く。

「はい、いただきます」

 大きく深呼吸をして顔を上げたレイは、目の前に置かれたお菓子を見てから、気分を変えるように目を閉じて顔を振った。

「いただきます!」

 大きな声でそう言って、いつものように大きく切って口に入れた。

「甘くて美味しいです」

 まだ少し赤い目をして笑うレイを見て、カウリとタドラは何も聞かずにいてくれた。



「はあ、終わったぞ。俺の分残ってるだろうな」

 笑った声と共にルークが戻ってくる。

「おかえりなさい。ちゃんと残してあるよ」

 振り返ったレイはもう、何事もなかったかのように普通にしている。

 改めて入れてもらったお茶と一緒に、座ったルークは何事もなかったかのようにケーキを食べ始めた。

 何かあったのなら教えてくれるので、先ほどの伝言のシルフはレイには関係のない事だったのだろうと考えて特に何も聞かない。ルークも知らん顔で、パウラの作ってくれるカスタードタルトはやっぱり美味しいと言ってレイと笑い合い、特にレイに何か聞いたりはしなかった。

 結局その場ではレイも彼らに何も言わず、ルークは夕食までには戻ると言って席を外したので、その後はカウリとタドラに相手をしてもらって陣取り盤をして夕食までの時間を過ごした。



 事務所でマイリーと連絡を取ったルークは、城にいるマイリーのところまでわざわざ足を運んで直接キムとマークから聞いた問題を伝えた。

「おいおい、いきなりそう来たか。そうか、ジャスミンがいたおかげで、彼らだけなら軽く流されて終わった話が大きくなってしまった訳か」

「ええ、ですけどこれって不幸中の幸いですよね。彼女達には申し訳ないけどある意味最悪の女性への失敗の一つを仲間内で予行演習したようなものですから」

「お前、上手い事言うな。確かにその通りだ。じゃあ悪いが女性達へのその後の気配りは任せるよ、ふむ、人との付き合いは難しいな。これはどうするべきかな」

 腕を組んで考え込むマイリーを見て、ルークはにんまりと笑って、先程思いついた自分の考えを伝えた。

「行かせるのは今すぐと言うわけではありませんから、根回しは出来るでしょう。もうそろそろ行かせてもいいと思うんですけど、どう思います?」

 ルークの考えを聞いたマイリーは、堪える間も無く吹き出す。

「なかなかの荒療治だと思うが、確かにそれは悪くない経験になるだろうな。行かせるなら本人にはギリギリまで言わずにおくべきか」

「ですね、秋に予定している休暇明けにそのまま行かせましょう」

「了解だ。じゃあそっちの根回しは俺がしておくとするか」

 マイリーの言葉に、笑ったルークが肩を竦める。

「ですね。じゃあそっちはお願いします」

 その後いくつか別の打ち合わせもしてから、先にルークは本部へ戻った。




「さてと、本人からも詳しく話を聞くべきだな。これは」

 小さくそう呟いて、渡り廊下まで来たところで頭上を見上げた。

「ラピス、いるんだろう?」

『うむ、ここにいるぞ』

 当然のように、呼ばれてすぐにルークの頭上にブルーのシルフが現れる。

「全く、見ていたんなら止めてやれよ。いくらお前でも、言って良い事と悪い事ぐらい分かるだろうに」

『まあ、いきなりだったからな。レイは単に思いついて彼女達も誘っただけだったから、ルチルの主に真顔で叱られて戸惑っていたくらいだからな』

「その辺りは、もう少し具体的に良い事と駄目な事を教えていくしかなさそうだ。それと、俺達がさっき話してたのも当然聞いてたんだろう。どう思う?」

『戸惑いはするだろうが、確かに良い機会ではあるだろう。以前、第二部隊へ応援要員で行ったり、竜舎に手伝いに行った時よりも、他人との付き合いは濃厚になるだろうからな』

「その際には、ついて行くのは構わないが、緊急事態以外は手出し無用でお願いするよ」

『了解だ。まあだが実際に行くのはまだ先なのだろう?』

「そうだな。一応先に予定が入っているものについてはしっかり担当してもらわないとな。それにしてもしばらく忙しいぞ。結局、いつもなら六の月にあった閲兵式が今月に変わったおかげで、もうすぐ閲兵式があってその後にすぐ竜の面会、でもってロベリオの結婚式が今月末で、ユージンが来月中頃。おお、マイリーじゃ無いけど飲む理由には事欠かないな」

 ルークの言葉に、ブルーのシルフも笑っている。

「まあ、良い機会だからレイルズにも、もう少し酒の飲み方を教えてやるか」

『お手柔らかに頼むぞ』

 完全に面白がっているブルーのシルフの言葉に、ルークも笑って肩を竦めた。

「まあレイルズ君は年寄り達にも大人気だから、ある程度は付き合わないわけにもいかないだろうけどな。そこそこは飲めるみたいだから、ここは頑張って覚えて貰うとしよう」

『それならそのじじい連中にも、レイの人生経験教育の一旦を担ってもらえば良い。じじい達の昔話、特に恋愛関係の話を聞くだけでも、彼にとっては多くを知る事が出来るだろうからな』

 ブルーのシルフの言葉に、歩きかけたルークの足が止まる。

「お前、良い事言うな。それは考えなかった。確かにそれも良いかも……じゃあ、そっちは早急に手配する事にしよう。ううん、まず誰に頼むかなあ」

 歩きながら、唸って真剣に考えているルークの頭に座ったブルーのシルフは、そんな彼を面白そうに眺めていたのだった。

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