オリヴェル王子の告白
追加で出された果物を取ってきて、ミレー夫人と並んで仲良く一緒に食べていた時、オリヴェル王子が人混みの中から自分を手招きしているのが見えて、慌てて口の中身を飲み込んだ。
「ほら、お呼びよ。行ってらっしゃいな」
笑顔のミレー夫人にそう言われて一礼したレイは、食べ終えた食器を机の端に置いて、急いでオリヴェル王子の元へ向かった。
見ると、アルス皇子を筆頭に竜騎士隊が全員揃っているので、もしかしたら何かするのかもしれない。
一礼してカウリの隣に立つ。
ルークの横にはディレント公爵がいるし、ヴィゴ夫妻の横にはゲルハルト公爵の姿もある。錚々たる顔ぶれの人達が、笑顔で自分を見ているのに気付いて不思議そうに首を傾げた。
「レイルズ、オリーが君に話があるそうだよ」
笑顔のアルス皇子にそう言われて、目を瞬いたレイはオリヴェル王子を見た。
オリヴェル王子は、何やら言いたげな笑顔で自分を見つめている。
「あの、お話とは何でしょうか?」
「うん、実はアルスには話したんだけど、やっぱり君にも話しておくべきだと思ってね」
にこやかなオリヴェル王子の言葉に、アルス皇子も笑っている。
思わずルークを見たが、彼は苦笑いして首を振っているので、どうやらお二人しか知らない話らしい。
「あのね、実は一つ懺悔をしなくちゃならないんだ。聞いてくれるかい?」
わざとらしい王子の言葉に、レイは驚きに目を見開く。
オリヴェル王子が自分に懺悔をする?
意味が分からなくて困っていると、にっこりと笑った王子は、とんでもない事を話し始めた。
「実は、ここへ来る途中に、ある場所に寄り道をしてしまったんだ」
「ええ、ここへ来る途中ってことは、ティア姫様もご一緒……ですよね?」
突然の王子の告白に、レイだけでなくマイリーやヴィゴを始め両公爵達も、揃って驚きに目を見開いている。
当然、周りにいた人達にも聞こえていたようで、驚きのあまり揃って口を噤んで注目している。
国同士の絆の証でもある花嫁を乗せた竜が、寄り道することなどあり得ない。
なんらかの突発的な問題が生じて地面に降りることはあるかもしれないが、その場合は寄り道したとは言わないだろう。
「実は、君のご家族に会ってきたんだ」
片目を閉じた王子にそう言われて、レイは驚きに声を上げた。
「ええ、まさかニコスに会って来られたのですか!」
同じく驚く周りの者達に、一人平然としているアルス皇子と頷き合い、オリヴェル王子は笑って詳しい話を教えてくれた。
ニコスの元に寄りたいと言い出したのは、ティア姫本人である事。
父親であるオルベラートの王様にその場で連絡をして、許可を取ってから行ったと聞き、側で聞いていた一同はほっと胸を撫で下ろした。
オルベラートの国王がご存知の上で許可を出したのならば、何も問題は無い。
そしてオリヴェル王子の口から、ティア姫様が何故、それほどまでにニコスに会いたがっていたのかを詳しく聞いたレイは、感動のあまり涙ぐんでその場に膝をついた。
込み上げてきた感情を上手く言葉に表せず、咄嗟にそうせずにはいられなかったのだ。
跪いたまま、その場で両手を握りしめ、額に当てて深々と頭を下げる。
そして、小さく深呼吸をしてから口を開いた。
「僕の家族であるニコスは、主人であった大切なお方を亡くした事を、ずっと癒せない心の傷として抱き続けていました。だから、だからそんな風に亡くなった方を想っていてくださり、またニコスとの事を覚えていて下さって、家族としてとても嬉しいです。本当にありがとうございます。心より、心より感謝いたします」
一瞬静まり返った後、部屋中から拍手が沸き起こり、驚いたレイは顔を上げる。
「少しだけ話をしてからすぐに出発したんだ。あまりゆっくりは出来なかったけれど、私も久しぶりに、変わらないニコスの元気な姿を見て、声を聞けて嬉しかった。それに懐かしかったよ」
目を細めて嬉そうにそう言ってくれて、レイも笑顔になる。
「精霊王の采配に、心からの感謝と祝福を」
オリヴェル王子の言葉に、その場にいた竜騎士隊全員が続き、揃ってミスリルの剣を抜いて戻し、聖なる火花を散らせてくれた。
大喜びで跳ね回るシルフ達を見て、立ち上がったレイも笑顔で剣を抜いて戻した。
大盛況だった昼食会が終わり、ヴィゴとタドラはイデア夫人とディアと一緒に用意された控室に行き、ロベリオとユージンは、それぞれの婚約者と一緒に実家の為に用意されている部屋に行ってしまった。
そして残った独身組は、アルス皇子と共に城にある竜騎士隊の専用の部屋に来ていた。
「殿下は寄り道のこと、ご存知だったんですか?」
呆れたようなカウリの言葉に、アルス皇子は笑いながら頷いた。
「実は昨夜、休む前になって、オリーから急に話があるからとシルフを通じて言われて、何事かと彼の部屋に行ったんだよ。そうしたら大真面目な顔で、実はお前に懺悔をしなければならない、聞いてくれるか? なんて言うものだからね。もう驚いたなんてものじゃなかったよ」
話しながら両手を広げて、おそらくはオリヴェル王子の真似をする殿下に、見ていた全員が呆気に取られる。
「それで詳しい話を聞いて見れば、蒼の森の石の家に立ち寄ったなんて言うものだからね。その場で卒倒しなかった私を褒めておくれ」
マイリーとルークが、堪えきれずに笑い出し、続いてレイとカウリが吹き出す。しばし部屋は笑いに包まれた。
「まあ、驚きはしたけれどオリーから詳しい話を聞いて納得したよ、イクセル副隊長が同行していた事、また、シルフを通じてではあるが、お父上に直接許可を取っている事を聞いて特に問題はないと判断した。それで今日の昼食会で、レイルズに皆の前でその話をするように言ったんだよ。内緒話はどこから漏れるか分からない。別に悪い事をした訳じゃないんだから、変に隠さず本人の口からきっちりと話すべきだと思ったからだ」
「正しいご判断かと」
マイリーの言葉に、ルークも大真面目な顔で頷いている。
「恐らく、ご実家では大騒ぎだったろうからね。君からも、騒がせて申し訳なかったと謝っておいてくれるかい。それから、何と言ったかな……ロディナから、子竜の世話をする為に来ていた職員がいただろう」
「アンフィーですね」
レイの言葉にアルス皇子が頷く。
「ああ、そう。その彼なんかは間違いなくニコスから、今回の一件は一生誰にも口外しないようにと、厳しく言われているはずだよ。だけど、ロディナの竜に関わる人がオルベラートの守護竜であるジェダイトを目の前にしておいて、その経験を一生黙っていろなんて、ちょっとした拷問だと思うよ。大丈夫だから、ロディナに戻ったら、堂々とその話をしても良いと伝えてやっておくれ」
「わかりました。じゃあ今夜にでもニコスと連絡をとっておきます」
嬉そうに頷くレイに、皆も笑顔になる。
「それにしても、大人になっておしとやかになったと聞いていたが、やっぱり彼女はいきなり何をするかわからない、おてんばだね。私はそこも気に入っているから、変わっていないみたいでちょっと嬉しいよ」
嬉しそうなアルス皇子の言葉に、また部屋は笑いに包まれるのだった。
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