いざ花祭りの会場へ!
ラスティの用意してくれた、初日と同じ第二部隊の一般兵の制服に着替えたレイは、いつもの剣帯を装着してラスティに向き直った。
「どう、これで良い?」
「はい、なかなか立派な兵士振りですよ」
笑いを堪えて剣を渡してくれる。いつものミスリルの剣だ。
「ありがとう、じゃあ行って来ます!」
「ああ、お待ちください。こちらが新しい花馬車の乗車券と、花の鳥の投票券です。巫女様方も行かれるのでしょう? どうぞお使いください」
分厚い投票券の束を渡されて、レイは笑顔でそれを受け取った。
「ありがとうラスティ、この前もらったのは全部使っちゃったからね。えっと、これは誰の分なの」
渡された分厚い束の投票券を見て、レイが心配そうにしている。
「ああ、これは竜騎士隊への割り当て分ですから誰かがお金を出した訳ではありません。竜騎士隊の予算から毎年花祭りへの協賛金が出ていますから、これはそれに対する協賛券なんですよ」
驚くレイに、ラスティはもうひと束取り出して渡してくれた。
「毎年、頑張って配るんですがどうしても余ってしまいますのでね。どうぞ、お気になさらずしっかり投票して来て下さい」
「分かりました。じゃあ、ディーディーやニーカにも使ってもらうね」
嬉しそうに追加も受け取るとベルトの小物入れに押し込んだ。
「お金は大丈夫ですか?」
「えっと、はいまだまだ大丈夫です」
お金の入った巾着を覗き込んでレイは笑って首を振った。銀貨や銅貨が、使い切れないくらいにぎっしり入っている。
「まあ大丈夫だとは思いますが、念の為持って行って下さい」
そう言って、小さな巾着を小物入れに入れてくれた。
「分かりました。ありがとうラスティ。じゃあ行って来ます!」
今度こそ、笑顔でそう言って廊下に出る。
「あれ、ヴィゴはまだ?」
廊下には、こちらも第二部隊の兵士の格好のルークとタドラが待っていてくれた。しかし、ヴィゴがまだの様だ。
「ああ、ヴィゴなら先に行ったよ。お嬢さん方と合流するって言ってたからな」
ルークの言葉に、レイは目を輝かせた。
「ええ、じゃあクローディアとアミディアも一緒に行くんだね」
「折角だから、クラウディア達と会えるんなら一緒に行きたいって事になったらしいよ。それで、お城からの花馬車には乗った事がないからって、今回はわざわざ一の郭からお城まで来たんだってさ」
「賑やかで良いね」
嬉しそうに笑って三人一緒にお城の花馬車の乗り場へ歩いて向かったのだった。
「ところでレイルズ君、行く前に、ちょっと良いかな?」
にんまりと笑ったルークが、笑顔でレイの肩に腕を回して顔を寄せて来た。
「え、え、何?」
何事かと仰け反るレイに、しかしルークはいきなり真顔になった。
「前回の花祭りと、大きく違う点がある。何か分かるか?」
目を瞬いてしばらく考えたが、分からずに首を傾げる。
「最大の違いは、お前が成人年齢になったって事だ」
真顔のルークにそう言われて、その意味に思い至った瞬間にレイは耳まで真っ赤になった。
「よく考えて掴めよ。それから、これも言っておくけど、もし掴めなくても誰も責めやしないからな」
真っ赤な顔で何度も頷き、二人の後をついて行く。
「あれ? じゃあタドラは誰に渡すつもりなんだろう?」
思わずそう呟いて前を歩くタドラの後ろ姿を見る。
いつもは後頭部の辺りで一つに括った長い黒髪が、今日は首の辺りで括られていて尻尾の様に背中に流れている。括っている位置が違うだけで不思議に別人みたいに見えて、密かに感心した。
「へえ、あんな変装の仕方もあるんだね」
何となくタドラに話しかけるタイミングを逸してしまい、そのまま黙ってお城の中を通って中庭に設置された花馬車の臨時乗り場に到着した。
「ああ、もう来てるな」
ルークがそう言って笑って手を振る。
大きなヴィゴは、人混みの中でも頭が飛び出しているのですぐに分かる。彼は第二部隊の一般兵の服では無く、また違う色の軍服を着ている。
「あれは初めて見るね。どの部隊の制服なの?」
閲兵式では見た覚えがあるが、身近では見た事がない。
「ああ、輸送部隊の制服だよ。輸送部隊は力仕事が多いから大柄な兵士が多いんだよな」
「そっか、第六部隊の制服の色なんだ。それならヴィゴでも不自然じゃないんだね」
「まあ、第二部隊でも大柄な奴はいるけどさ。そういう奴って目立つから顔を覚えられてる場合が多いんだよ。それもあるみたいで、ヴィゴはいつもお忍びの時は第六部隊の制服を着ているね」
「へえ、でもあの色も格好良いです」
笑ってそう言い、レイも手を振った。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。よろしくお願いします」
笑顔の二人は、襟の詰まったふんわりとした可愛らしいドレスを着ている。
「おはようございます。こちらこそよろしくね」
そう言った笑顔のタドラにアミーが嬉しそうに抱き付き、後ろでクローディアが拗ねた様にしているのはいつもの光景だ。
「俺の勘ぐりかな?」
小さく呟いたルークは、素知らぬ顔で二人に順番に挨拶をするのだった。レイも順に二人に挨拶をしてから、揃って花馬車の乗車待ちの列に並んだ。
「クレアとニーカは、売店の担当なんですって?」
「うん、そう聞いたよ。早朝から、準備の為に会場へ行ってるんだって」
「母上から、お小遣いを預かって来ているので、女神の売店で、幾つか欲しい物があるんです」
「へえ、何を買うの?」
「私達は、女神像のペンダントと護符の入った御守り袋。それから、母上からの頼まれ物で、燭台の細工で綺麗なのがあれば買って来るように言われてるんです。我が家の祭壇に使っている燭台に少し錆が出ているみたいで、今度磨きに出すのだそうです。それで、折角だから新しいのを交換用に欲しいんですって」
「へえ、良い物があると良いね」
無邪気に話をしているクローディアとレイルズを、ルークは面白そうに眺めていた。
「ねえ、ヴィゴ。娘さん達を急に呼んだのは、何かあるんですか?」
何やら言いたげなルークの言葉に、しかしヴィゴは笑って首を振るだけだ。
「何だよ、その余裕は」
苦笑いしてヴィゴの頬を突っついたルークは、笑って新しく来た花馬車に乗り込む為に、素知らぬ顔で前を向いたのだった。
花馬車の屋根の上では、ブルーのシルフを始め、それぞれの竜の使いのシルフ達が勢揃いして並んで座っていて、楽しそうに話をしている
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