二日酔いの朝
翌朝、レイはいつものようにシルフに起こされる前に目を覚ました。
「うう、喉渇いた……」
昨夜は、とても楽しくてちょっと飲みすぎてしまったみたいだ。
それ程お酒を飲めないレイとマークは、とても良い酒だと聞いた三十年もののウイスキーを水で割ってから飲んでいたのだ。
確かにそれでも美味しかったので、思った以上に飲んでしまった。
こう何度もなればもう聞かなくても分かる。ひどい喉の渇きと頭痛、それから胸のむかつき。これは間違い無く二日酔いだ。
ベッドに起き上がると頭がぐらぐらして頭痛が酷くなってきた。
眉間にシワを寄せて、寝ていた枕を抱きしめて顔を埋めるレイを、ブルーのシルフが笑いながら見つめていた。
『おはようレイ。今日も良い天気のようだぞ』
「おはようブルー、僕、また二日酔いみたいです……」
枕を抱きしめたまま、レイが呻くようにそう言う。
『二日酔いの時はどうするんだった?』
面白がっているような言葉に、レイはもう一度呻き声を上げて顔を上げた。
ちょと世界が回っているのは、気のせいって事にしておく。
「えっと……ウィンディーネ、良き水をお願いします」
ベッドサイドに置かれているコップを持ってそうお願いすると、すぐにウィンディーネが現れてコップに水を入れてくれた。
「ありがとうね」
お礼を言って、小さくため息を吐いて一気に甘い水を飲み干す。
「ああ美味しい。もう一杯お願いします」
またすぐに現れて良き水を出してくれたが、彼女は、眉間にシワを寄せて目を細めているレイを見て笑っている。
「もう一杯お願いします」
三杯飲んで、ようやく喉の渇きが治まった。
まだ少しぼうっとしているが、朝練で汗をかけばこれくらいなら何とかなるだろう。
そう思ってベッドから降りて、大きく伸びをして深呼吸をしてから洗面所に向かった。
丁度洗面所から出てきたタイミングで、ラスティが起こしにきてくれた。
「おはようございます。おや、もう起きておられるんですか?」
「えっと、ちょっと二日酔いだったみたいです」
それを聞いて慌てて駆け寄ってきたラスティに、レイは照れたように笑って首を振りベッドサイドに置かれたコップを見せた。
「ウィンディーネに良き水を出してもらって何とかなりました。朝練で少し汗をかいたら大丈夫だと思います」
「まあ、確かにその程度で復活なさったのなら、朝練に行けば大丈夫なようですね」
笑って頷き合い、差し出された白服に着替えて廊下に出ると、若竜三人組が同じく白服を着て待っていてくれた。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
「おはよう」
「おはようございます。いつも元気だね」
ロベリオとユージン、それからタドラといつものように挨拶を交わした後、いきなりロベリオに背後から首元に腕を回していきなり確保された。
今ではもう若竜三人組よりもレイの方が背が高くなっている。しかし、明らかに付いている筋肉が違うので、確保されたら逃げるのは容易では無い。
「ええ、何するんですか?」
「聞いたぞ。昨夜は楽しかったそうじゃないか」
そうだそうだと文句を言うユージンとタドラの二人も、レイの左右から彼の脇腹を
「やめて下さーい。昨日のは、僕じゃ無くてマイリーが始めたんだもん。僕はマーク達と一緒にお話ししてたら呼ばれて行って、そのまま酒盛りになっちゃったんだよ。でも、マイリーとアーノックが作ってくれた罪作りのおつまみはどれも美味しかったです!」
無邪気に断言するレイに、三人は笑ってまた擽る。
「しかも、三十年もののウイスキーを水で割って飲んだんだって?」
「なんて勿体無い事するんだよ!」
「そうだそうだ!」
そう言って今度は襟足を擽られて、レイは悲鳴を上げて必死になって逃げようとして暴れた。
「逃すか、この野郎!」
笑いながらロベリオが更に腕を締めてくる。
「ごめんなさい! もう勘弁して下さい!」
レイも笑いながら必死になって謝った。
「お前らは、朝から何を
呆れたようなルークの声が聞こえて、レイは必死になって両手を振り回した。
「助けてルーク!」
しかし、それを見たルークも笑っている。
「昨日のは、マイリーの発案だったんだからレイルズを苛めるのはお門違いだよ。まあ、八つ当たりしたくなる気持ちも分かるけどな」
「って、他人事みたいに言わないでください!ルークも一緒に食べて飲んだのにー!」
その、レイの必死の叫びに全員同時に吹き出してしまい、何とかそこで手を離してもらえたのだった。
「ああもう、本気で殺されるかと思ったよ」
準備運動をしながら笑ってそう言うと、また襟足を擽られる。
咄嗟に床に転がって逃げるのを見て、ロベリオが大笑いしている。
「お前、ここと脇腹が弱点だよな。覚えておこう」
「そんなの覚えないでください!」
「はいはい、いいから遊んでないで柔軟を始めるぞ」
ルークに言われて、二人揃って返事をして立ち上がった。
若竜三人組とルークに久しぶりに手合わせしてもらって、レイはご機嫌だった。当然最後は叩きのめされていたけれど、しっかり汗をかいて、無事に二日酔からの復活を果たした。
一旦部屋に戻って着替えた後、揃って食堂へ向かった。
「おう、おはようさん。飲んだ翌日に朝練とは元気だな」
食堂にはアルス皇子とマイリー、それから遠征用の制服を着たヴィゴとカウリの姿があった。
マイリーはいつもの補助具を着けている。
「おはようございます。ちょっと二日酔いだったけど、もう復活したよ」
いつものように山盛り取ってくるレイを見て、皆笑っている。
「俺達は食べたらもう出発だ。留守を頼むぞ」
ヴィゴの言葉に、レイは顔を上げた。
「はい、気を付けて行ってきてください」
「戻って来たら、お前の報告書を読ませてもらうから、頑張って書いてくれよな」
カウリの言葉に、レイは声無き悲鳴を上げて机に突っ伏したのだった。
アルス皇子を先頭に、全員が整列して見送る中、ヴィゴの乗った年代物のワインのようなシリルとカウリの乗ったシエラは、ゆっくりと上昇して行き、城の上空を旋回してから南に向かって飛び去って行った。
最初の目的地であるクスライの街へは、ブレンウッドへ行くのと変わらないくらいの距離があるので、今から出発しても到着するのは夕方近くになる。
クスライは、レイが行ったクレアの街から街道を北上した最初の大きな街になる。二人はそこから街道沿いに北上して各街を訪問して、最終的にブレンウッドの街まで行くのだ。
これも中々の強行軍だ。
本部に戻りながら、レイは隣のルークを見た。
「えっと、今日の予定を聞いて無いですけど、どうなってるんですか?」
「ああ、今日は一日事務仕事だよ。お前は報告書の下書きからだな」
「うう……頑張ります」
箇条書きにしたメモは、感情が昂っている状態で思いつくままに書き殴っているので、今読むとかなり意味不明な部分が多い。落ち着いて、ゆっくり何があったか一つずつ思い出しながらもう一度書き直した方が早そうで、ちょっと気が遠くなるレイだった。
『主様頑張ってね』
『私達は覚えてるからね』
『思い出せなければいつでも聞いてね』
得意気なニコスのシルフ達が現れて口々にそう言ってくれるのを見て、レイは笑って肩を竦める。
『頑張りなさい、これも経験だ』
同じく現れたブルーのシルフにまでそう言われて、レイは笑って頷きキスを贈ったのだった。
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