今後の予定と遠乗りの予定

 子猫の入った籠を大事そうに抱えて馬車に乗り込む少女達と一緒に、明日はお休みを貰っているヴィゴも一の郭に揃って帰って行った。

 ジャスミンも、一緒に馬車に乗って一の郭のボナギル伯爵のお屋敷に帰って行ったので、残ったレイとカウリは、マティルダ様に挨拶をしてから揃って歩いて本部へ戻った。

 カウリと一緒だとラスティは迎えに来ていなくて、途中までは執事が案内してくれた。

 見慣れた廊下まで戻った後は、カウリについて本部へ戻った。

「うう、やっぱりまだお城の中がよく分からないよ」

「まあ、普段よく使う所は頑張って覚えろよな。後は無理に覚えなくても大丈夫だよ」

 笑ったカウリにそう言われて、レイは小さく溜息を吐いた。

「もうちょっと分かりやすくしてくれれば良いのに。僕、一人で来たら迷子になる自信しか無いです」

「まあ頑張れ、その為の見習い期間だよ」

 からかう様にそう言われて、レイはもう一度溜息を吐くのだった。



 二人で話しながら歩いていると、周り中から常に注目を集めている。

 しかし、確かにこの大注目にもだんだん慣れてきた。全く気にならないわけではないが、気にしない様にする事が出来るようになってきたのだ。

「すごいや。本当に慣れるんだね」

 小さく呟いたレイは、何だかおかしくなって小さく笑ったのだった。






 本部に戻ったレイは、ラスティに、小さな子猫がいかに可愛かったかを夢中になって話していた。

「今は大きくなりましたが、猫のレイがこれくらいの時に私は何度かお見かけしておりますよ」

 笑ったラスティが右の掌に左手を軽く握って乗せる。

「ええ、これくらいって事?」

「はい、そうです。もうフワフワで堪りませんでしたね。ですが……」

 そこまで言って、ラスティは小さく笑って口を押さえた。

「次にお見かけしたのが、確か半年ほど後だったと思います。いきなり今と変わらない大きさになっているのを見て、目を疑った記憶がありますね。子猫の時期は一瞬だと言われていますが、本当にそうみたいですよ」

「へえ、そうなんだ。じゃあ次に会った時、ペパーミントやローズマリーがどれくらい大きくなってるか、楽しみにしておきます」

 笑ったラスティも頷いてくれたので、顔を見合わせて笑顔になった。



 レイはそれから夕食までの時間を、ソファーでのんびりと天文学の本を眺めて過ごした。




「レイルズ、起きてるか?」

 しばらくして、ノックの音がしてルークが部屋に入って来た。食事に誘いに来てくれたのかと思ったが、手には束になった書類を持っているので違うみたいだ。

「四日後の18日、時間が取れたから朝から言っていた遠乗りに行くぞ。楽しみにな」

 目を輝かせるレイに、ルークは笑って頷いた。

「えっと、今日ヴィゴが、ジャスミンとカウリも一緒に遠乗りに行こうって言ってくれたんだけど、それとは別なんだよね?」

 読んでいた本を閉じながら質問すると、ルークは苦笑いしながら首を振った。

「ああ、そっちはさっきシルフを通じてヴィゴから聞いたよ、今回は俺が一緒に行くから、ヴィゴや娘さん達と一緒はその次にな」

「分かりました。じゃあ今回は、ティミーと……後は、誰が一緒に行くんですか?」

「アルジェント卿の所の男の子。マシューとフィリスだよ、パスカルは、まだ一人ではラプトルに乗れないから、今回はお留守番な。それから、年齢が近いしゲルハルト公爵の息子さん達もお誘いしたんだ。ほら天体観測会で一緒になったライナーとハーネインだよ。皆、友達らしいよ。だから今回は男の子ばかりだな。じゃあ、次回のヴィゴと一緒に行く時に、ソフィーとリーンも呼んでやると良いよ。彼女達も一人でラプトルに乗れるから、きっと喜ぶと思うぞ。行きたいって言ってたんだけど、今回は男の子だけだって言ったら、ずいぶんと悔しがっていたからさ」

「分かりました。えっと、じゃあヴィゴにそう言えば良い?」

「ああ、俺からも言うけど、お前からも頼んでおくと良いよ。遠乗りに行く時に、アルジェント卿のお孫さんのソフィーとリーンもお誘いしましょうってな」

「分かりました。じゃあそうします。でも今日のヴィゴは、娘さん達と子猫と一緒にお家に帰りました」

 それを聞いたルークは笑って身を乗り出した。

「そう、それを聞きたかったんだ。子猫は? どうだった?」

「ものすごく可愛かったです!」

 目を輝かせて即答するレイに、ルークも目を輝かせる。

「やっぱりそうなんだ。小さい間に、絶対見に行かせてもらおう」

「あ、その時は、是非僕もご一緒させて下さい。それからカウリの所にも一匹貰われて行ったよ。今日、彼女達が責任を持ってチェルシーに届けてくれるって言ってました」

「ええ? カウリも貰ったのか?」

 驚くルークに、レイは目を輝かせて大きく頷いた。

「マティルダ様が、一匹贈らせて、って言ってくださって、カウリも一緒にもらう事になったんだよ。でもカウリは知らなかったみたいだけど、話を聞くと、先にチェルシーには子猫を貰うって言って来ていたみたいだったよ。それで、カウリがどの子にするか選んだんだ」

「へえ、じゃあカウリの家にも見に行かないとな。母上に言っといてやろう」



 一の郭に住んでるルークの母上も、ヴィゴの家族を通じてチェルシーを紹介されて、今ではすっかり仲良くなったのだと聞いている。



「本当に可愛かったんだよ。僕も欲しかったけど、兵舎は猫は飼えないものね」

「気持ちは分かるけど、飼うなら一の郭の屋敷にしろよな。兵舎は、愛玩動物は飼育禁止だよ」

「竜舎と厩舎には猫はいるけどね」

「あれは、ネズミ捕りの為の立派な仕事をしている子達だよ。だから、マッカム以外には全く懐かないだろう?」

 竜舎にいて時折見かけるネズミ捕りのために飼われている猫達は、どの子も人には慣れず、まったくと言って良い程近寄って来ようともしない。

 何度か試みてみたが、レイでさえも今のところ触る事すら出来ていない。



「それから、明日は朝から俺と一緒に会議に出てもらうぞ。まあこれはいつもの見学だから、黙って見ていれば良いよ。午後からは会議の内容を教えてやるからしっかり勉強するように。夜は、婦人会主催の夜会があるから、お前とカウリは二人で参加な。あ、多分また食べられないと思うから、夕食は早めに食べておくようにな」

 その言い方に引っ掛かったレイは、驚いて顔を上げた。

「ええ、二人でって……ルークは? 一緒に行ってくれないの?」

 すると、ルークはニンマリと笑って首を振った。

「俺達は色々と忙しい。なので、明日の夜会はお前達だけで行ってもらうからな、頑張れよ」

「そんなの無理です僕、森のお家に泣いて帰りますー!」

 置いてあったクッションに抱きついて、最早お約束になった台詞を叫ぶレイを見て、ルークは声を上げて笑ったのだった。

「頑張れ。これも仕事のうちだ」

「絶対無理です!」

「頑張れー!」

「無理ですって!」

 子供のように、頑張れ、無理ですと言い合いっこをしていつまでもじゃれ合っている二人を、ソファーの背に座ったブルーのシルフやニコスのシルフ達、それからルークの竜のパティの使いのシルフも一緒に並んで、呆れたようにしながらも、楽しそうに眺めているのだった。

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