ラプトルと新しい部屋
ラプトルの厩舎は、左右に張り出す谷間の奥の壁面に、岩を凹ませるように削って作られていた。木製の太い柱が、岩に作り付けられて張り出した屋根を支えている。
四人がかりで新しいラプトル達のための寝床を作り、干し草を敷く。
「ラプトルって何を食べるの?やっぱり肉食なの?」
踏み台に乗ってベラを拭いてやりながらレイが質問する。
「こいつらは、基本雑食ですから何でも食べますよ。ここでは、干し草といくつかの野菜、肉がある時は、それをあげることもありますね」
ニコスが新しい干し草を出しながら言った。
「今日のように出掛けた先で放しておくと、自分らで勝手に獲物を捕まえて食べたりもします。それに、上の草原で放しておくと、ここらのネズミを根こそぎやっつけてくれるので助かります」
タキスが家から傷の手当てのための薬を取って戻ってきてそう言った。
「ネズミは、食料を齧るだけじゃなくて、病気も持ってるから困るって村長がよく言ってた」
「よくご存知ですね。そうです、ネズミは恐ろしい伝染病を持っていることがあるので、注意が必要です。もし、死んだネズミを見つけても素手で触ったりしてはいけませんよ」
そう言うと、タキスはカゴからいくつかの薬を取り出し手当てを始めた。
二匹のラプトルは大人しく手当てを受けている。
「そう言えば、こいつらに名前を付けてやらんといかんな。レイ、何か付けてやれ」
「えっ? 僕が付けていいの?」
ギードに簡単に言われて困ってしまった。
「それは良い、先輩からの贈り物ですね」
タキスまでそんなことを言うし、横でニコスも笑顔で頷いている。
「えっと……この子達、男の子?女の子?」
名前をつける上で一番重要な事をまずは聞いてみる。
「どちらも男の子ですね。年は15〜16才といったところでしょうか。丁度落ち着いてくる頃なので、騎竜にするには良い年齢ですね」
手当てをしながらタキスが答えた。
「えっと、じゃあ、こっちの尻尾の先が曲がってるのがオットーで、こっちの真っ直ぐな方がヤン……どうかな?」
「精霊王と仲間達のお話に出てくる鳥の名ですね」
「母さんが話してくれた中でも、大好きなお話なの。二匹が協力して隠された戸棚から鍵を取ってきて、閉じ込められた英雄達を助けるシーンが大好きなんだ」
恥ずかしそうに言う少年に皆笑顔になった。
「良い名を貰いましたね。オットーとヤン、これからよろしくお願いしますよ」
「さて名前も決まったところで、飯にするか」
ニコスが道具を片付けながら言った。
「僕、あんなに食べたのに、もうお腹減ってるよ」
「忙しい1日でしたね。ご飯を食べたら今日は早めに休みましょう」
促されて家へ戻ると、居間のテーブルの上には、夕食の準備が出来ており、朝のように、大きな鍋や野菜の上では精霊達が番をしていた。
とても賑やかで楽しい夕食となった。
レイは夢中になって、蒼竜の背に乗って空を飛んだ事や、巨人の丘で見た不思議な風景を話した。
ニコスは、空を飛べなかった事を悔しがっていたが、ブルーが今度また乗せてくれると言ってた、と伝えるととても喜んでくれた。
夕食後、今度はレイも手伝って片付けた。
その後、ニコスに連れられて廊下へ出る、タキスとギードもついてきた。
「とりあえず、この部屋を片付けましたので、ここを使ってください」
そう言って連れてこられた赤い扉の付いた部屋は、大きな丸い窓が二つ並んでいる広い部屋だった。丸い屋根は高く、壁には作り付けの引き出しや戸棚がいくつも付いている。
丸い窓の下には大きなベッドがあり、毛布がその上に畳んで並んでいる。今朝使ったスリッパも足元に置いてあった。部屋の真ん中には丸い机と椅子が二脚置いてあった。
「えっと、これって……」
「あなたの部屋ですよ。きちんと片付けてくださいね」
ぽかんと口を開けてニコスを見る。
「僕の部屋?」
「そうですよ。お勉強は居間でしますが、この机も使ってくださいね」
「ありがとう!」
ニコスに抱きつくと、笑って抱きしめ返してくれた。
「しっかり食べて、勉強して、早く大きくなってくださいね」
タキスも側へ来て頭を撫でながら言った。
「うん、僕頑張る!」
力一杯言う少年を見て、皆笑った。
その夜は、ふかふかのベッドで夢も見ずに眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます