翁 狐 Ⅱ
この国のことばを知らないはずの明国皇女を演じているわたしには、眼前の武田家の使者、武藤喜兵衛の
こういうときのやり過ごし方として、事前に、佐助から教えてもらっていたことがある。
「・・・・姫様、悲しんではなりませぬぞ。
大殿、とは、一体誰のことだろうか。
すると、左側に座していた武将の一人が、喜兵衛に声をかけた。多分に嘲笑いを含んだ口調だった。
「武藤どの!異国の皇女には、言葉は
すると、いきなり喜兵衛はくるりと向きをかえ、わたしに背を向けた。
喜兵衛のうなじの毛が、意外と白いことに驚いた。産毛のような細く透き通った長い癖毛が、数本だけ伸びていた。
「
「・・・・
耳をそば立てて聴いていたわたしは、
〈芦名兵太郎〉
〈前将軍家〉
ということばに驚いた。
けれど、まさかこの場で、芦名兵太郎の名が飛び出してくるとは意外だった。
しかも信長様と戦い、勝ったというのは、どういうことなのだろう。それほどの実力者だと聴くと驚くほかなく、熊蔵や彦左が懸念していたように、信長様や父家康が怒り心頭に発して、
気づくと大広間の武士たちの数が増えていた。
ニヤリと笑うとぴょこんと跳ねるように上座に座った。茶道師が頭にかぶる頭巾のようのものをつけていた。
松永弾正その人に違いなかった。
その翁狐のあとに付き従っていた若い武将が、すぐ
翁狐が、口を開いた。
「・・・・この者は、摂津の
褒められた青年は、
「高山
と、一同に会釈した。
やや
高山右近。
初めて耳にする名だった。
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