甘体結鐘

貴方に空けた孔が一筋

ピンと張り詰めた白乳色の防壁から

私達を愛撫する紅色の運命

全て総て統べて均して

下らないほど甘温い光点にしよう


手を繋いだとしても

頭を指先でなぞったとしても

私達にはいつも壁がある

それは骨だとか皮膚だとか

そういう科学的なつまらなさじゃなく

時間だとか感情だとか

そういう素敵な計算式であるべきなんだよ


アイスクリームは溶けて無くなる世界でも

チョコレートは溶けてもそこにずっといる

形は歪で不安定だけれど

手で掬えばもう一度やり直せる

またはじめから、また新しい所から

型取りして食べたらいい


貴方に刻んだ旋律が一音

ぎゅっと縮んだ暗闇の奥底から

私達を震わせる透明色の声明

並べて焚べて果たして嗜めて

やるせないほど苦重い争点にしよう


足跡を揃えたとしても

同じマフラーの温度を分け合っても

私達には距離がある

それはメートルだとか光年だとか

そういう定義された真実じゃなく

優しさだと切なさだとか

そういう絶え間ない娯楽であるべきなんだよ


積もる雪はやがて消えて無くなる世界でも

膨らんだ雲は降らした後もそこにずっとある

背伸びをしたって届きはしないけれど

窓の向こうから願っている時間さえあれば

また明日には、また天気予報には

白い歓びが迎えに来てくれる


貴方にたくさんチョコレートをあげたいから

貴方と雪景色の中を走りたいから

私は掬い上げる

私は待ち続ける

けれど、どうしようもないほどに

時間だとか感情だとか

優しさだとか切なさだとか

際限の無い再現性の無い

私達だけの苦しみが続いていく

それが耐えられないほどの痛みなら

それが超えられないほどの刹那なら

またもう一つ、孔を空けよう

またもう一つ、音を刻もう


私は貴方と

チョコレートで結ばれたいのだから

私は貴方と

雪で出来た街を生きていたいから

だからごめんね、もう少しだけ

あと百年くらい

抱きしめていたいの。

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