二律背帆

泣きたいのなら

叫びたいのなら

私は貴方の死体になろう

笑いたいのなら

忘れたいのなら

私は貴方の道化になろう

狂いたいのなら

壊れたいのなら

私は貴方の半身になろう


いつか届くなら

そこへ向かうなら

私を燃やして闇を射殺し

やがて叶うなら

そして願うなら

私の命など無価値であれば良い


どうか

どうか


わたしを離さないで

わたしを離さないで

何処へも行かないで

明日を絶やさないで


涸れた肌を鞭打たれ

神に代わり鞭振るう

そんな貴方である為に

一杯の冷えた炎を注いで

忍耐の熱い水を黙らせて

天地の狭間に立つ限り

貴方という奇跡は

貴方という恐怖は

容易く成就されるのだから


蒼く

紅く

深く

黒く

染まりゆくのなら

混ざりゆくのなら

わたしを離さないで

わたしを離さないで

この大地に縛り付けて

貴方のそばで

天国にもならない蟲の呼吸で

わたしを眠らせて

貴方のそばで

地獄を彩るなけなしの空想で

わたしを融かして


再び廻るなら

貴方がその帆を張るのなら

波になろう

風になろう

光になろう

わたしを

離さないで。

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