怪しげな奴との遭遇

 冒険者ギルドにニワトリキメラを届けて出ると、太陽の位置はすっかり高くなっていた。

 引き渡しに立ち会えって、馬鹿じゃないの。

 仲介料とってんだからちゃんと仕事しろっての。


「やっぱさー、私が人間だからナメられてるのかな」

『単純に業務外なのだろうな。巨大組織では、よくありがちな現象だ』

『お役所仕事ってやつ? そういうの嫌いだな』


 私が溜息をついていると、なんか突如視線を感じた。

 思わず振り向くと、なんだろう……なんか小奇麗な格好の男が私を見てる。

 あんまり冒険者っぽくはないかな。


『……1.あまりの美少女っぷりに私をガン見してる。2.あまりの美少女っぷりに不埒な事を考えてる。3.あまりの美少女っぷりに』

『もういい。理由は分からんが、お前に用がありそうなのは確かだな』

『ノリわるーい』

「そんなもんは知らん。だが警戒はしておけ』


 まあ、そりゃ警戒するけど。女の子だしね、私。

 でも問題はそこじゃないんだよねえ。


『だからさー。理由が分からないとブッ飛ばしていいのか分からないじゃない?』

『……時折、貴様の魂を殻から解放してよかったのかと悩むことがある』


 なんでよ。いいじゃない、別に。


『魔族領ではこのくらいの思考でいいんじゃないの?』

『……否定はしない』

『なら問題なしじゃない』

『……』


 黙ってしまうアルヴァ。なんなのよ、もう。


『ひょっとして、アルヴァは前の私の方が好きだったとか?』

『自惚れるなよ』

『マジで何なのよ……』


 難しい年ごろなのかしら。私より遥か年上のはずだけど。

 そんなどうでもいい事を考えていると、さっきの男が近づいてくるのが分かる。


「もし、ちょっとよろしいですか?」

「よろしくないです」


 話しかけないでくださいオーラを出して……出てるわよね?

 とにかくそんな感じの雰囲気で返すと、男は少し気圧されたように一歩下がる。


「そ、そんな事を言わず。大分お悩みのようですが……失礼とは思いましたが、さっきの言葉も聞こえてしまいまして」

『アルヴァ。私、何か言ったっけ?』

『人間だからナメられている……あたりの部分ではないか?』

『ああ、アレかあ』


 それなら確かに口に出してたわね。

 で、その後アルヴァと話してたから……なるほど、悩んでたように見えるのかあ。

 なんか納得。気をつけようっと。

 とりあえず、さっさと遠ざけて……。


『待て、アリス』

『え? 何よアルヴァ』

『少しでいい。話を引き延ばしてみろ』

『ええー? まあ、いいけど……』


 仕方ないなあ、もう。


「えーと……結局、何のご用事ですか?」

「はい。私、主人の命令で困っている人間の方々を助けて回っておりまして」

「困ってる人間?」

「ええ。魔族領で人間は何かと暮らしにくいですからね。先程貴方も呟いておられましたが、冒険者ギルドでも当然のように人間蔑視は存在します」

「はあ」

「この状況を変えるのは難しいです。ですが、恵まれた状況にある主人は貴方のような方を助けることで、人間の全体的な生活向上を考えておられるのです」

「なるほど」


 ダメだ、さっぱり分かんない。話が遠回しで難しいんですけど。


『アルヴァ、解説。分かりやすく』

『貴様、殻を破ったら知能が下がったか?』

『昔からこんなもんよ。たぶん』

『はあ……まあ、いい。要は「俺のご主人様は金を持ってるから助けてやるぜ貧乏人」と言っている』

『ブッ飛ばしたいなあ……』

『やめておけよ? 一応言っておくが』

『分かってるってば』


 そんな事しちゃいけないってことくらい分かってるってば。文明人だぞ私は。


「お話は分かりましたけど」

『フッ』


 おいコラ、笑うんじゃない。


「私、今の生活にそんなに不満とかないんです」

「そ、そうですか。まあ、確かに服も良いものをお召しのようですが……何処かから支援を?」

「自前です」


 あえていうならゲームメーカーです。こんなこと言っても通じないだろうけど。


「なるほど……しかし、もし何かおありでしたら、是非声をおかけください」

「ええ、その際は是非」


 そう私が返せば、男は離れて別の人間に声をかけに行く。

 ……ただの良い人だったのかな?


『ねえ、アルヴァ。今の会話に何か意味あったの?』

『そういうわけではないが……少し気になることがあったのでな』

『気になることって?』

『貴様も気付いたかもしれんが、視線が粘っこい感じがした』

『んー……』

『貴様も美少女がどうのこうのと戯言を言ってただろうが」

『戯言じゃないわよ、美少女でしょうが』

『煩い。とにかく、奴は言っている事は立派に聞こえたが……恐らくは言葉通りではないだろうな』


 まあ、そうでしょうね。うまい話には裏があるっていうし。


『ていうか……』

『なんだ』

『立派な話に聞こえたんだ。てっきり「ヘドの出そうな偽善話」とか言うかと思った』

『……貴様、あのクローバーボムとかいう技で浄化されるんじゃないのか?』


 私には効かないもん、アレ。


『……アルヴァに毒されたかな?』

『冤罪をかけるな。貴様の資質だろう』

『美少女なのに?』

『そのノリを続けるなら、私はしばらく休眠状態に入るからな』

『悪かったわよ。実際あの視線気持ち悪かったんだもん。ちょっとくらい遊んでもいいじゃない』

『……フン。気を付けておけよ。アレは奴隷を見る目だった』


 ……奴隷、ねえ。

 なーんか、嫌な予感がするなあ。

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