王都廃棄街3

「あれ? 此処って……」


 転移した先、門の向こう側。

 でも、なんだか違う。空気も違うし……なんていうか。


「此処は……あの空間だな」

「あ、やっぱり?」

「ああ。だが外の風景は廃棄街だな……?」


 言いながら、アルヴァは門に近づいて触れて押すけれど……門はビクともしない。

 ガチャン、と揺れる音すらしないのだ。

 んんー……?


「なんだ、この門は。まるで壁か何かのような……」

「あ、もしかして」


 近寄って私が触れると、移動先を訪ねるウインドウが出てくる。


「あー、やっぱり。コレ、移動用の機能があるだけなのね」

「……ふむ?」

「つまり、たぶんだけど……あの外の建物って、見た目だけなんじゃない?」


 もしかすると、あの「外の建物」に無理矢理入っても、それだけって気がする。

 そもそも入れるのかも分からないけど。


「……なるほどな」

「なんか安心したわ。はー、紅茶でも飲みましょ?」

「つまり貴様は、魔法理論的に見て異次元級の何度の防衛機能をあんな場所に顕現させたというわけだ」


 ……ん?


「良かったな。遠からず今代の魔王がやってくるだろうが、貴様は確実に目を付けられるぞ」

「ええー!?」

「流石に寄越せとは言わんだろうし、寄越せと言われて渡せるものでもないだろうが……まあ、何かしらの要求はあるかもしれんな」

「え、やだ……」

「諦めろ」

「やだ……」

「諦めろ」

「やだ……」


 そんな事をやっていると、壁の外……空の向こうから、何かが飛んでくるのが見える。

 コウモリみたいな翼の生えた、えーと……なんか紫のロン毛の男。

 ええ……何アレ?


「早速来たか。今代の魔王だな、アレは」

「ええー……?」


 家の上空まで来た魔王であるらしいコウモリ男は、そのまま上空から家を見下してキョロキョロと何かを探している。


『……こんな所に家……? だが、持ち主は居ないように見えるな』


 すぐ下にいるんだけど、これって。


「私達が見えてないみたいね」

「ああ。あの塀の内側は完全な別空間だからな。向こうからは見えんのだろうさ」


 そんな事を私達が言っているとも知らず、コウモリ男は家をじっと見下ろしている。


『……だが、凄まじい魔力を感じる。この家が放っているのは間違いないが……降りてみるか」


 そう言うと同時に、蝙蝠男はすうっと降りてきて……そのまま、空に立つ。


『むっ!? なんだこれは。結界か!?」


 空をガシガシと蹴っている姿は、ちょっと間抜けな感じ。


『おのれ、余を弾くとは無礼な! こんな結界……ぶち破ってくれる!』

「お、魔王が魔法を使うぞ。意図せずして強度テストができるな」

「ええー?」

『受けよ、ヘルブラスト! ぐわああああー!』


 あ、なんか凄い炎が魔王に跳ね返って……うわあ、ちょっと焦げてる。

 ていうか、火の魔法とか……火事になったらどうすんのよ。


『お、おのれ! 反射の結界だと!? それも、このような強度……ええい、出てこい不敬だぞ!』


 ガシガシと結界を蹴るコウモリ男……もとい魔王を見上げて、私は楽しそうに笑っているアルヴァに視線を向ける。


「えーと……こういう場合って、どうしたらいいのかしら」

「挨拶してやればいいのではないか?」

「なんかアルヴァの威厳とかで、丁重にお引き取り願えないかしら」

「それでもいいが、どうせ関わることになると思うぞ」

「やだなあ……」


 なんか凄い俺様系っぽいし。関わるのめんどくさそう……。


『出てこないのか! くそっ、この!』

「……見てみろ。アレを放っておくと、加速度的に面倒が増えるぞ」

「うええ……」


 仕方ないなあ……。


「じゃ、ちょっと行ってくる……」

「ああ、行ってこい。俺は此処で見ていてやろう」

「……ついてきてくれないの?」

「ついてきてほしいのか?」

「うん」

「そうか、だが断る」

「……覚えてなさいよ」

「もう忘れた」


 大きく溜息をつくと、私は門に触れて転移する。

 結界を蹴っていた魔王が私に気付いたのは……その瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る