王都廃棄街

 廃棄街は、その名の通りに「廃棄」されたことが分かる場所だった。

 一言で言うなら、廃墟の群れ。

 完全に崩れた家もあれば、ある程度形を残した家も。

 それでも王都の「普通の場所」から近い場所ではまだ建物の形もちゃんと残っていたりするせいか、明らかに人が住んでいるという感じがある。

 布のようなものを広げた露店で変なものを売ってる人がいたり、子供が走っていたり。


「……子供?」

「どうした、子供などそこら中にいるだろう」

「んー……あ、いや。こんな場所にも子供、いるんだなあって」


 何と言っていいか分からずに私がそう言うと、アルヴァは察したかのような顔になる。


「いるに決まっているだろう……まさかとは思うが、全ての子供は幸せで満ち足りているべき……などと言い出さんだろうな」

「いや、言わないけど」

「なら良い。万が一言い出したらどうしてくれようかと思っていたが」

「自分に出来る事と出来ない事くらい把握してるわよ」

「ほー?」

「今の私に慈善事業じみた真似は出来ない。色んなものが足りてないわ」

「フン、分かっているならいい」


 言いながら、アルヴァは私の前をスタスタと歩き出す。

 ……ん? これって、まさか。


「もしかして、私の事心配してくれたの?」


 試しにそう聞いてみると、振り返ったアルヴァはいかにも嫌そうな顔……うわ、ムカつく。


「ちょっと、何よその顔」

「くだらん戯言を聞かされたせいで、耳が腐るかと思ったぞ」

「……貴方ねえ……」


 すっごいムカつく。こんにゃろう。


「それより、どの場所を占拠するかだな。凡そだが、正規街から近い場所に関しては全部埋まっていると考えていいだろう」

「ふーんだ、そうですか」

「……何をふてくされている」

「ふてくされてなんかいませんよーだ」

「明らかにふてくされているだろう。なんだその顔は」


 私の頬を突いてくるアルヴァから視線を逸らし、私はそっぽを向こうとして。

 アルヴァはそんな私の顔を掴んで自分の方へと向けさせてくる。


「ちょっと、何すんのよ」

「不仲を装うんじゃない。つけこまれるぞ」

「……何の話……って」


 気付く。視線が痛いくらいに突き刺さってくる。

 好機の視線、ちょっと気持ち悪い視線……色々だ。


「ひえっ……何これ」

「感じている通りだ。俺と貴様が別れるのを待って、何らかのアクションを仕掛けてこようという腹だろうな」

「うええ……」


 油断ならない奴しか居ないってわけね……ああ、もう。

 

「これじゃあ、人間の町とどっちがマシか分からないじゃないの」

「どうにも貴様は人間の町に妙な幻想を抱いているように見えるな」

「何よ。悪いっての?」

「悪いとは言わんが……」


 言いながら、チラリと私を見下してくる。


「な、何よ」

「……一度、人間の町に行って現実を見せてやるのも良いかという気分になってきた」

「怖い事言わないでよ。それじゃ人間の町が地獄みたいじゃない」

「なんだ、本当に分かってなかったのか。よし、落ち着いたら人間の町に行ってみるか」

「ええ……」


 なんか超怖い。行きたくなくなってきたんだけど……。


「そ、そんな事より! 家探さなきゃでしょ!」

「フン、日和ったな」

「日和って何が悪いのよ」

「いいや? 悪いなどとは言わんさ……利口だと思うぞ?」


 くっ……ムカつく!

 すっごいドヤ顔してる!


「ムッカつくわあ……」

「……貴様、もう少し考えてる事を表に出さんようにする訓練が必要だと思うが」

「余計なお世話よ」


 言いながら、私は周囲に視線を巡らせる。

 ……うわあ、もう。なんかすごく粘っこい視線感じるなあ。

 大丈夫かなあ、こんな所に拠点定めて。


「……とりあえず、仲良い演技でもしよっか」

「その方がいいだろうな。今更間に合うかは知らんが」


 ……一々一言多いのよね、コイツ。

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