王都への旅
そして、それから数日後。私は無事に王都に到着していた。
特に語るべきことなんてない。ものすごく順調だった。
……となればよかったんだけど。
「……どうしてこうなったのかしら」
馬車に揺られながら、私は思わずそう呟く。
ただほんのちょっと、襲われてた馬車を助けただけなのに。
「いやあ、素敵なお嬢さんだ! 人間なのがもったいないくらいだ!」
「父上、その考えは古いですよ。もはや人と魔族の間に垣根はありません。むしろ、両者が混ざり合っていく事がですね……」
私がいるのは、魔人の商人の馬車の中。
オークの群れに襲われていた彼等を放っておけなくて助けたんだけど……なんか気に入られて、王都まで一緒に行くことになってしまったのだ。回想終わり。
「君はどう思いますか、アリスさん?」
「え? えーっと……私、まだ子供なので……」
やっば、聞いてなかった。
適当に誤魔化してみると、魔人のお父さん……カーターさんの方が「そうでしょうな」と頷く。
「まだ将来のことなどを考えるのは早いでしょう。まあ、目をつけるのは分かるが……」
本気で何の話をしてたのよ……変に答えたらヤバいやつじゃないの。
戦慄する私をそのままに、息子さん……アゼルさんの方が少し残念そうに頷く。
「まあ、仕方ありませんね。ですがアリスさん、このまま王都に行って終わりというのも寂しいものがあります。よかったら、うちの商会と契約を結びませんか?」
「え、えーっと……」
この状況で口出しするのは拙いということでアルヴァは黙っているけど。
こんな時こそ相談したかったなあ。
「契約って、どんな……」
「難しいものではありません。仕事のあっせん契約ですね。私達『ノーゼン商会』から仕事を優先的に回すというだけの話です。無論、いずれは専属契約という形にもっていきたいですが……」
「そ、そうなんですか」
うーん……たぶん私は損しないやつだと思うけど。
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「それはまあ、アゼルさん達を助けたのは私かもしれませんけど。でも、だからってそんな……いいんですか?」
私がそう聞くと、アゼルさんとカーターさんは顔を見合わせる。
「いい、とは?」
「私、人間ですし。それに初めて会ったような相手ですよ?」
「ああ、なるほど」
それを聞いて、アゼルさんは納得したような表情になる。
「確かに、魔族と人間の状況はあまり良くはありません。ですが、それを良しとするのは上手くありません。特に商人としてはね。使えると思った時点で最大限に利用する。それが成功の秘訣ですから」
「父上の言う事は利益優先でアレではありますが、概ねそんな感じですね。それと付け加えれば、私は人間だの魔族だのという垣根は無駄なものだと考えています。それに、人間と魔人は色々と似ている。そうでしょう?」
「まあ、えーと……そうですね?」
「正式な契約は王都についてからにするとして、私は是非貴女と仲良くしたいと考えています……いかがですか?」
う、うーん……。
「それに、貴方の冒険者としてのランク上げにもご協力できると」
「あ、それはいいです。ランク上げたくないので」
「そうですか。ではそれにもご協力できると思いますよ」
即座に方向性変えてきた!? 引く気ゼロじゃないの!
「元々あっせん依頼というものは、冒険者ギルドを通さない形でも依頼できます。そうした依頼は冒険者ギルドへの貢献とはみなされませんからね。ランク上げの理由にはなりませんよ」
「そ、そうなんですか」
「それとも、もう心に決めた商会が?」
「あ、ありませんけど」
「それはよかった!」
笑顔で迫ってくるアゼルさんから、私は思わず視線を逸らす。
……こういうのをリア充とか陽キャラとかいうのかしら。
ちょっと苦手だわ……。
「あ、えーと。そういえば」
「はい?」
「今周囲を警戒してる人たちも専属契約? をしてる人達なんですか?」
そう、今この馬車の周りには護衛をしている獣人の冒険者らしき一団がいる。
彼等の事を口にすると、アゼルさん親子は如何にも渋い顔になってしまう。
「……いえ、町で雇ったのですがね。正直、あまり役に立ったとは……」
「彼等を専属にする気はありませんな」
そんな事を言うアゼルさん達を前に、私は思わず「……世知辛いわ」と呟いてしまう。
ちょっと黄昏てしまう私とアゼルさん達を乗せて、馬車は王都へと向かっていく。
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