第52話 帰りに新キャラに会う

「そろそろ、宿舎に戻ろうと思うのだが。人に見られると不味いし」

 宿舎のベッドと違いこちらは高級品だ。朝まで寝ていたいのは山々である。

「そうですか。では、行きましょう」

 パタリと本を閉じて、タマキは立ち上がった。アラタもベッドから出て、タマキに付いていく。

 廊下に出る。ここは王族の住むエリアなので、人払いがされている。エリアの入口には騎士が立っていた。

 タマキの後ろを付いていくが、騎士がちらりとこちらを見た。

 廊下をひたすら歩く。

「今日は秘密の通路は使わないのか?」

「王族の居住エリアの避難用通路は使用禁止です」

 以前、来た場所の通路とは違うという。王城は侵入者に対して色々とセキュリティを張り巡らしている。

 セキュリティレベルによってはタマキでも使えない。

 よって、タマキが使える秘密通路の入口まで少し歩くという。

 暫く歩いていると、あちらからぞろぞろと人が歩いてくる。

 廊下は広いので、すれ違えばよい。

 だが、あちらは立ち止まって、こちらを伺っている。

 どうしたとものかと、思いつつも互いの距離が縮まって、

「これはこれは、勇者アラタ殿ではありませんか」

 大仰な仕草で迎えた見知らぬ怪しい男に声をかけられた。

(誰だ?)

 自分に声をかけた男は、短髪にするどい目付きに丸い眼鏡。

 背は高い、おそらく180センチメートルはあるだろう。

 後ろに背の高い男と女、背の低い女の子が控えている。

 アラタが、怪訝な表情をしていると男は察したのか、「これは失礼を。私はアルフスナーダの宰相であります。カル・ケ・アルクと申します。以後お見知りおきを」と自己紹介した。

「あ、そうですか。これはご丁寧に」

「アラタ殿が召喚された時に大聖堂にいましたが」

 また大聖堂にいたという新キャラか……。

「お仕事ご苦労様です」

「いやいや、そちらもお忙しそうで」

 たいした内容のない挨拶をかわしながら、アラタは後ろの三人が気になった。

 背の高い男はモランジャ。おかっぱにつり目。

 その横に立つ背の高い女はナージャ。アシンメトリーな前髪につり目。

 ナージャの横に立つ背の低い女の子は、カーシャという。クルクル金髪のゴシックロリータといった洋装である。

 アラタが気になったのは、三人の顔立ちだ。同じ型から作られたのではないかと思うほど、妙に似ている。

 違うのは背丈や性別であるが、なるほど、男でも女でも、問題のない整った容姿をしている。


「三人共、私の大事な腹心でしてね。いわば一心同体といっても過言ではありません」

「はあ、そうなんですか」

「では」

 宰相カル・ケ・アルクは後ろの従者を引き連れて去っていった。

 従者はアラタの方を見なかった。相手にはされていないようだ。

 ゴシックロリータの女の子がちらりと自分を見た。

 ライトブルーの瞳はビー玉のようで気味が悪かった。


「あんなのに関わったらろくな事にはならないな」

 アラタは彼らの後ろ姿を見ながら、そんな感想を持った。気味の悪い連中だ。

「カル・ケ・アルク様はその出自が謎です。貴族ではないようですが、能力が非凡のために宰相まで出世したんです」

「ふーん、後ろの三人は?」

「先程、彼が言ったように腹心ですよ。優秀な人材との触れ込みです」

「あの女の子も?」

「そうらしいです」

「まるっきり子供にみえるが、宰相の腹心……。日本ならありえないな」

 異世界ファンタジー。


 ◆◆◆


「カル様、先程の男。王族のエリアから歩いてきましたが」

 男の従者であるモランジャが、口を開いた。

「ふん。今年の勇者は抜け目のないやつがいるって事だろう? 奴のデータは頭に入っているか?」

 カル・ケ・アルクは口調が露骨に変わった。

「西山アラタ。二十歳。両親はおらず、施設で育ったとの話です。勇者訓練にはあまり参加していないようですが」

「ほう? 理由は分かるか?」

「もっぱらの噂ですが、なんでも別れた女が勇者の中にいるそうです」

「ほお? それはまた……」

「別れた女の新しい男も勇者メンバーの中にいるという話です」

「はっ。それはそれは。確かに気まずい。なるほど、奴……いや、アラタ殿。なかなかどうして、ヘビーな人生を歩んでおられる」

 カル・ケ・アルクはアラタに強く興味を持った。

「カル様は、恋ばながお好き……」

 ゴシックロリータのカーシャが口を開く。

「ま、届かぬ恋は痛いほど分かる」

 カル・ケ・アルクは遠い目をした。

「それに王族に取り入るしたたかさもあるとみえる。まるで、私のようではないか。これは注目に値するな。彼の情報を集めてくれ」

「「「御意」」」

 三人の従者は黙って従った。


 ◆◆◆


「アラタ様の魔術師学園の図書館を使いたいという要望ですが、何とかなります」

「本当か?」

 突如降ってわいた話にテンションが上がったアラタはタマキの両肩を掴む。

「は、はい。オープンキャンパスと言って入学希望者に向けて体験入学が出来る制度があるのでそれに、紛れ込みましょう」

顔が近くて、タマキは動揺した。

「成る程、それは良い手段だ。それで、オープンキャンパスっていつだ?」

「今日から三日間ありますが、いつにしますか?」

「すぐ行きたい」

「分かりました。では午後に行けるように手配します」

「あ、ゴメン」アラタは掴んだ肩を放した。

「……い、いえ」タマキは名残惜しそうな顔をした。

 今日も勇者の訓練は行けそうもない。

 と言うか自分には必要ないと思うのだが、その辺りもクロエと話し合った方が良いのかもしれなかった。

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