いつも女の子の足の裏を眺めていたら、初恋の女の子の靴の中敷になってしまいました。

凹栄

プロローグ 眺望

大学生になったはいいものの、特にやりたいことなどなかった。入りたい職業なんてないに等しいし、好きなことも特にない。偶然受かった私立大の文学部に入ったからなんとかなっているのだろうけれども、これで第一志望にしていた国立の法学部なんかに入っていたら、もしかすると潰れていたのかもしれない。そんなことを考えながら、僕は一人の女の子の、足の裏を眺めている。



第二外国語のクラスだ。僕は「女の子が多い」という噂だけを頼りにフランス語を選択した。入ってみると確かに女の子は多かった。一方で、あまり盛り上がるようなクラスではなかった。


クラスでの友好関係はあまりにも広がらなかった。数少ない男は男だけで固まり、女の子たちは何個かのグループに別れて、それぞれで固まっていた。グループ間での交流などは授業中のペアワークくらいでしかなかったし、SNSの交換をしている様子さえ見たことがない。


他の第二外国語のクラスの、クラス会を開くような仲良し話を聞かされても、僕には全くピンと来なかった。


そのような中で、僕は、一人の女の子に一目惚れをしていた。


女の子の名前は、戸崎綾さん。濁らずに「トサキ」と読むらしい。フランス語の授業中では基本的に下の名前で呼ぶため、あまりその知識は生かされなかった。


フランス語の授業が始まって3回目くらいの頃、初めてのペアワークで、彼女とは初めて話すことになった。アヤさん、と僕は呼んでいた。「Hi, Aya!」と、家で何回も何回も言ったものだ。


アヤさんは身長が僕より少し低いくらいで、女の子にしてはなかなか高い方だ。髪の毛は黒髪ロングで清純派といって間違いない雰囲気を持ちながら、たまにドジっ子のような天然さを発揮して、僕を笑わせた。初めて話した時から僕はアヤさんと自然に話すことができた。この人とは相性がいいのかもしれないなと、勝手に思っていた。


そのペアワークが解散すると、アヤさんとの関係はほぼなくなってしまった。大学のキャンパス内ですれ違うと挨拶を交わしていたが、夏くらいになると、その挨拶もどこか気まずさが混ざり、夏休み前にはもう軽くお辞儀をするような関係になっていた。


僕は、彼女の大きな魅力に気がついていた。それは、足の、裏だ。その足の裏が、僕の大学生活の中での、大きな憩いであった。


こんなことを大きな声でいうのは憚られるが、僕は、女性の脚が好きで、特にスキニーやタイツといった、肌に吸い付くようなものを履いている女性の脚に目がいってしまう。出来るだけ直視しないように心がけてはいるが、周りから不審がられれているかもしれないくらい、好きだという自覚がある。



その嗜好の発端は、高校時代に遡る。大学受験のために入っていた予備校の、一人の女の子の影響だ。僕は男子校に通っていて普段女の子と接することがなかったためか、同年代である女子高生を授業中よく眺めていた。そんな中、一際異彩を放つ女の子がいた。山河さんという女の子だ。下の名前は知らないし、喋ったこともないが、いつも私服で塾に来ていたその女の子に僕は釘付けだった。


高校二年生の秋、少し外も寒くなってきたころ、僕の左斜め前に山河さんは座っていた。山河さんの近くに座るのはこれが初めてだった。


女子高生は寒くなってくると黒タイツを履く。山河さんも例外ではなかった。すらっと伸びた脚に、黒タイツが見事に吸い付いている。あまりにも刺激的だった。


そして、授業が進んでいるとき、彼女の行動が僕の心というか、変態心を大きく動かした。彼女が左脚を曲げて、右脚の太ももの下に入れたのだ。この行動でなにが起こるかわかるだろうか。そう、足の裏が僕に向けられるのである。


僕はその足の裏を見て、勃起した。柔らかそうなタイツの繊維と、彼女の鋭い足の形が見事にフィットして、僕は思わず性的興奮を覚えていた。山河さんの5本の足の指がタイツに押さえつけられているのを見ると、僕の胸もどこか苦しくなった。その日の授業は全く集中できなかった。幸い、黒板と山河さんが座っている位置が同じ方向だったため、不審がられることはなかった。ひとり静かに、僕は勃起していた。


その後、高校二年生が終わるまで、僕はいつも山河さんの近くに座った。山河さんはいつもイヤホンをしていたし、授業が終わると誰よりも早く帰っていたため、僕にはあまり気が付いていない様子だった。


高校三年生になると、理系だった山河さんと同じクラスになることはなかった。もし三年生でも彼女を見ていたら、きっと受験に失敗していただろう。



そして大学に入ると、アヤさんが同じ行動をいつもしていたのだ。


アヤさんは授業中、少し疲れてくる時間帯にいつも左脚を曲げて、右脚の太腿の下に入れ込んだ。彼女の足の裏が、机の間の通路にさらされる。彼女の体格を支えるその足は、がっしりとしながらしっかりと締まっている。僕の苦くも甘いような高校生の記憶を、色濃くして蘇らせた。


僕は山河さんの時にしていたように、いつもアヤさんの後ろの方に座り、黒板を見るフリをして、アヤさんの足の裏を眺め続けた。座席は知らず知らずのうちに固定されてきていたから、そこまで不自然なことはなく、授業のたびに僕はその足の裏を拝んだ。


足の裏を見れば見るほど、僕はアヤさんへ後ろめたさを感じるようになった。僕には、そのような目で見てしまっている彼女に、元気に挨拶をするような根性はなかった。きっとアヤさんは僕に対してなにも感じず、ただただ疎遠になっていくクラスメートに対しての対応に困っているだけなのだろうけれども。そしていつの間にか、避けるように、少しだけ、頭を下げるくらいになってしまった。


しかし、やはり僕はアヤさんが好きだった。あの最初のペアワークは決して忘れることができなかった。あの優しさと温かさを僕にもう一度分けて欲しかった。彼女の足の裏を、思う存分舐めまわしたいと、願った。


そして、大学が後期に入った最初の日、目を覚ますと、僕は彼女の靴の中にいた。鼻をつくような匂いがして、僕は中敷になっていることを察した。

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