名門貴族の変嬢

双葉小鳥

第1話 はじまり

 しんしんと降る雪の中。

私は【みすぼらしい】という言葉そのものの様な、泥に汚れ、服はスレて穴が空いている物を身につけていた、私と同じくらいの年頃の女の子を拾った。

 父様と母様は、そんな私を見て。

 仲睦まじく微笑んだ。

 私は拾った女の子を風呂に入れ、私が着れなくなった服を着せた。

 だってその子、私と同じくらいの年だというのに、私の着ていた服がぶかぶかだったから。

 お古なのにその子は喜んだ。

 なぜかわからない。

 でも、気にしないことにした。

 名前を聞いたら、『わからない』って。

 その子は言った。

 だから、なんとなく『【ミリー】って呼んで良い?』

 って。

 聞いたら、喜んで頷いた。

 だからそう呼ぶことにしたの。

 これが。


 私、リスティナ・ファスティとミリーの初めての出会い。



 その初めての出会いから早十数年。

 ミリーは私付きの侍女になった。

「ねぇ。ミリー」

 私は紅茶を注いでくれている、色白の肌に、ミルクティ色のふわりとした髪質の髪をボブカットにしている、茶色の瞳のミリーに声をかけた。

「はい。お嬢様」

 優しげな顔をさらに優しく、ふんわりと微笑むミリー。

 今の彼女にあのころの様なみすぼらしさは皆無。

「夜道を、一人で歩いちゃダメよ……?」

「藪から棒にどうしたんですか?」

「いいえ。ただ、そう思っただけよ」

 そういって微笑めば、不思議そうな顔で小首をかしげるミリー。

 ……………本当に、大丈夫かしら?

 心配ね。

 あぁそれと。

 ミリーを屋敷に連れてきて直ぐ。

 私は剣と、槍。

 それから、多少才能のあった魔術を極めるため、父様にお願いして教師を雇ってもらいました。

 理由など、言わずともわかりますよね?

 この無自覚天使のためですよ……。

 まったく。

 一人で町を歩かせれば人間ホイホイ並みに人を集め。

 その集まった人間がまともじゃないという特典つき。

『そんな特典いらない』と。

 幾度絶叫しかけたことでしょう。

 護衛兼使用人の者たちでさえ、呆れ返るほどです。

 あのときはどれ程慌てて父様に懇願したことか……。

 はぁ…………。

 まぁ、そんなこんなで成長したわ。

 ミリーは『天使』とか『紅茶の妖精』って程に可憐に。

 私は黒髪に菫の瞳のせいか、『性悪女』って言葉が合う顔かしらね。

 ミリーと並んだら私の【性悪顔】が際立つの……。

「はぁ……」

「お嬢様? どうしたんです?」

 コテンと首を傾げたミリー。

 その無害そうな顔を見て、ますますため息が出そうになった。

 だって、私がそんなことしたら。

『何かを企んでる』って勘違いされてしまうもの。

 悲しいわ……。

「お嬢様。いつもの事ですけれど、本当にどうしたんですか?」

「……いいえ。何でもないの。本当に、何でもないのよ」

「そうですか。ならよかったです」

 ミリーはそういって、また、ふんわりと笑った。

「あぁ、そうでした! 旦那様がお嬢様にお話があるそうです」

「そうなの? わかったわ。どこに行けば良いの?」

「はい、書斎に来てほしいとのことです」

 私はミリーにそう言われて、父様の書斎に向かった。

 もちろん。

 ミリーも連れて。



 ―――――――

 ―――――


 書斎の扉をノックすると、室内から「入りなさい」と声が聞こえた。

「失礼します。御呼びと伺いましたので、参りました」

 私はそう言い。

 室内に目を向けた。

 そこには、床に座り込んでいる母様。

 どうしたのだろうと思い、近づくと。

 脱け殻のように呆然とした表情で、涙を流していた。

「母様? どうしたの?」

 そう問うけれど、母様は返事をしてくれない。

 どういうことかわからなくて、父様に目を向けた。

 そしたら、父様の隣には父様にそっくりな銀髪に空色の瞳を持つ…………男の子。

 私は表情を変えない父様と、涙を拭うことすら忘れたかの様に呆然としたまま母様。

 それと。

 心もとない様子で困惑の表情を浮かべる、父様にそっくりな男の子。

 そんな三人を見て、理解した。

 『この男の子は犯した過ちの結果』だということを…………。

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