ぬいぐるみ犬探偵 リーバーの冒険

鈴木りん

【1 ペンギンの溺死】

プロローグ

 北海道S市――。

 日本でも結構有名な部類の観光地に属するその街の、中心部からやや北側の位置にこじんまりと建つマンションの一室の窓から覗く景色は一面の銀世界だった。

 この時期、この街の外気温は一般的な冷蔵庫の中よりも寒くなる。人々は、凍らせないために冷蔵庫で物を保存しているのだ。


 そんな、冬真っ只中。

 当然、人々はそれぞれが暖房器具を使って暖を取ることになる。この部屋のリビングも、つい先ほどまで火の点いていたらしい大きな石油ストーブのおかげで、暖かさが残っていた。だが、いくつかの電子機器のランプが光っている以外、リビングはほとんど真っ暗闇だった。それもそのはず――今は真夜中、「ウシミツドキ」なのだから。


 でも良く目を凝らしてみれば、リビングの中に何やらうごめく物体があった。それも、ひとつではなく、五つ、いや、六つ……。


 もしかして――ぬいぐるみ!?


 そのフォルムは、確かに「ぬいぐるみ」としか思えない。

 大きさは、人間の小さな子どもが抱きかかえることができるくらいのものだ。何度目を擦ってみても、やっぱり暗い中でがさごそと動いている。


 ぬいぐるみが勝手に動くなんてことがあり得るの?

 あなたもきっとそう思っていることでしょう。

 この地域にあるという活断層が活発化し、そこからあふれ出たエネルギーが彼らを突き動かした――かどうかは知らないが、兎に角、このマンションの一室のぬいぐるみたちは動き回っている!


 棚の上やソファーの上など、部屋のあちこちに散らばっていた彼らが円陣を組むようにひとかたまりになり、人間には聞こえない周波数の音波みたいなもので、一斉に声をあげた。


「人間に頼ってはいけない!」

「人間に動くところを見られてはいけない!」

「人間と話してはいけない!」


 どうやら、この三つがぬいぐるみたちの「おきて」らしい。

 それらの言葉を叫んだ彼らは、ぴょんぴょんと跳ねまわるようにして、再び好き勝手な部屋のあちこちの場所へと散らばっていった。


 ぬいぐるみたちの昼間――人間にとっての真夜中は、まさにこれからだったのだ。

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