第四十話 未来

①袋小路

「リュカ、パラエナ、ビブロス。皆、再び進化の因子を失ってしまった。あの日集まった中で奴の干渉を受けていないのは俺達だけだ」


 女神アリュシーダ(を名乗る謎の存在)が最初に出現してから数日。

 再び呼び出しを受けて訪れた魔星サタナステリ王国王都メサニュクタの王城謁見の間にて。

 スケレトスから受けた報告の通り、各地に無作為に出現したによって、進化の因子を保持している人間は大幅に少なくなってしまった。

 今尚無事なのは、『雄也』達のように未だに遭遇していない者ぐらいだ。


「奴らは今のところ己の意思を保っているようだが、徐々に思考を捻じ曲げられつつあるようだ。他の弱者と同じようになるのも時間の問題だろう」


 そうなると、早々に治療することができなければ以前の時間軸のようにビブロスは発狂し、パラエナは自棄を起こしてしまいかねない。だが――。


「ウェーラ、新しい治療薬はできないのか?」

「駄目。どうしても進化の因子が定着してくれないわ」


 やはりと言うべきか、女神アリュシーダの干渉を受けた者は『雄也』という異世界人から抽出したそれを用いても治療することができなかった。

 より正確に言えば、投与した次の瞬間に無効化されてしまうようだ。

 一種の抗体のようなものを植えつけられているのだろう。

 点滴のように常に付与し続ければあるいは、という可能性はあったが、さすがにそれだけの治療薬を生産できる程の設備もない以上、現実的ではない。

 それ以外に現時点で可能性があるとすれば……。


「今の自分の姿を完全に捨て去れば、緩和するぐらいはできるかもだけど」


 超越人イヴォルヴァー真超越人ハイイヴォルヴァーを超えて過剰進化オーバーイヴォルヴすることで干渉に抵抗する。

 今回の症状についても生命力や魔力の大小で進行速度が異なっているのだから、そこを強化すれば少なくとも進行を遅らせることは可能なはずだ。

 真超越人ハイイヴォルヴァーから過剰進化オーバーイヴォルヴすれば自滅の危険性もない。しかし……。


「己の種族に誇りを持つ者ばかりだ。それを選ぶぐらいなら、死を選ぶだろう。俺達は軽々しく己の姿を捨てることのできる基人アントロープとは違う」


 ウェーラの案に超越人イヴォルヴァーとなった基人アントロープを揶揄するように返すスケレトス。

 しかし、各種族の代表者とも言える彼らにそれは、確かに酷な選択肢かもしれない。

 正直、そんな拘りは捨てて欲しいところだが、あの症状によって思想を捻じ曲げられて発狂したり、自棄になったりする彼らだ。

 それこそアイデンティティの喪失により、狂ってしまう可能性もある。

 いずれにせよ、人の自由を重んじる手前、強要はできない。


『……ウェーラ、やっぱり時間跳躍すべきなんじゃないか?』


 余りに閉塞した状況に、『雄也』はもう一度その提案を〈テレパス〉で行った。

 進展と呼べるものは乏しいままだが、そろそろ取れる選択肢が少なくなってきている。

 手がかりを得るにしても、後は女神アリュシーダと直接対峙するぐらいしかない。

 だが、遭遇した者達の末路を考えると、それはリスクが高過ぎる。


『そう、ね』


 そんな『雄也』の結論と同じ考えに至ったのか、ウェーラは方針を改めて同意を示した。


『最終的には標本として女神アリュシーダの干渉を受けた人間が必要だけど、治療薬を作るには現状根本的に足りないものが多過ぎるわ。私自身の力も含めて』


 続いた言葉を聞く限り、彼女の頭には次の方向性があるにはあるのだろう。

 ただ、曖昧なもの過ぎて言葉にできる程の形にはなっていないようだ。


『だから、ここから先はある種の耐久戦になるわ。繰返し時間跳躍して、地道に基礎能力を上げていく。魔動器の技術を向上させていく。それでようやく出発点に立てる』


 言葉にすると簡単だが、正直先の見えない話なので精神が摩耗してしまいそうだ。

 心をやられるのが先か、女神アリュシーダの干渉を上回る力を得るか。

 二つに一つ、というところか。

 一人なら気が狂いそうだが、ウェーラと二人なら何とかなると思いたい。


「ともかく、現状はそんなところよ。申し訳ないけど」


『雄也』との〈テレパス〉での対話に結論が出ると同時に、その間に生じた沈黙の穴埋めをするように彼女はスケレトスに言った。


「そういうことだから、全員が完全に意思を捻じ曲げられてしまう前に何とかするためにも、研究に戻らせて貰うわ」

「ああ。呼び出してすまなかったな」

「構わないわ。ユウヤ、帰るわよ」


 ウェーラは話を打ち切ると『雄也』の手を取り、時間跳躍を行うために一先ずウェーラ宅に戻ろうと転移の魔法を発動させようとした。

 正にその瞬間のことだった。

 まるでリスクを避けた戦い方など許さないと宣告するように――。


「これはっ!?」

「まさか」

「くっ、遂に、来てしまったか」


 これまでと同様に何の予兆もなく、王都メサニュクタの上空に強大な気配が発生した。

 この世界そのものの力を有するが如き強烈な存在感。

 よく見知った存在であるかのような言い知れぬ既知感。

 その両者を同時に全く違和感なく感じるあり得ない特異な感覚は、女神アリュシーダを名乗るあの存在の気配で間違いない。


「ちっ、こうなればっ」


 それを前にしてスケレトスは弾けるように玉座から駆け出し、の元へと向かった。

 当然と言うべきか、王たる彼に国を捨てて逃げる選択肢は存在しない。


「ウェーラ!」

「スケレトスには悪いけど、まだあれと対峙するのは早いわ! 転移するわよ!」


 だが、『雄也』達にその義務はない。

 誰かの自由が奪われるのを見過ごすのは躊躇われるが、時間跳躍をすればなかったことになるのだ。そう自分に言い聞かせる。


「〈テレポート〉……え?」


 そうしてウェーラは転移魔法を使用したが、しかし、視界に映る景色は何一つとして変わらなかった。その事実に、彼女は愕然として一瞬固まってしまう。


「転移が……妨害されてる?」

「逃がすつもりはないってことか。ウェーラ、どうする?」

「干渉を受ける前に妨害の外に出るしかないわ!」


『雄也』の問いに即座に我を取り戻して答えたウェーラに頷き、それから共に一先ず王城の外を目指して走り出す。それと同時に――。


「「アサルトオン」」

《Armor On》


『雄也』達は装甲を纏い、最短距離でそこに辿り着くために壁をぶち破った。

 魔星サタナステリ王国特有の仄暗い空が視界に入る。


「あ、あれが……」


 その中にその存在はいた。

 基人アントロープ龍人ドラクトロープ水棲人イクトロープ獣人テリオントロープ翼人プテラントロープ妖精人テオトロープ魔人サタナントロープ真龍人ハイドラクトロープ真水棲人ハイイクトロープ真獣人ハイテリオントロープ真翼人ハイプテラントロープ真妖精人ハイテオトロープ真魔人ハイサタナントロープ。果ては超越人イヴォルヴァーまで。

 その全てに感じられる人型の何かを中心に、暗い空を吹き飛ばすような強烈な光が全方位に対して放たれている。強大な魔力の証とでも言うように。

 その輝きはまるで無限の色を持つかの如く、不可思議で神秘的なものだった。

 恐らく初見でその存在から視線を逸らすことができる者はいまい。

 多分に漏れず、『雄也』もまた思わず立ち止まり、口を開けて見惚れてしまう。

 ウェーラもまた足を止め、呆然と空を見上げていた。

 人間の感性にダイレクトに働きかけるような完成された美しさが、にはあった。


「女神……アリュシーダ……」


 その存在がそう名乗らずとも、感覚が告げる。

 間違いなくは人智を超えた存在、神と呼ぶべきものなのだと。


「ユウヤ、走って!」


 一足早く忘我の状態から立ち直ったのは、彼女が女性だからか。

 ウェーラの言葉にハッとして、『雄也』は再び駆け出した。

 初めて女神アリュシーダが現れた時とは違って攻撃を仕かける者がいるからか、僅かながら猶予ができているようだが、いつが干渉を始めるか分からない。

 事実、その準備を整えているかのように背後の空に浮かぶ女神アリュシーダから放たれる光が増していき、『雄也』達を追い越すように空が明るくなっていく。


「くっ、ゼフュレクス!!」


 その輝きが臨界を迎える前に、ウェーラは妨害の範囲内にいるだろうゼフュレクス達に恐らく〈テレパス〉で指示を出したようだった。

 ほぼ同時にゼフュレクスの内の一体が、すぐ傍に駆けつけてくる。その体には導線のようなものが巻きつけられており、女神アリュシーダと反対方向に伸びていた。

 ウェーラはそのゼフュレクスと『雄也』双方に触れると――。


「〈テレポート〉!」


 全く余裕なく全力で叫び、『雄也』達は何とか転移してその場から脱した。

 そうして何とか唯星モノアステリ王国の自宅に辿り着くことができたが、ウェーラの精神状態が影響してか家の中ではなく庭に出現してしまう。

 彼女の動揺が感じられ、見慣れた景色を前にしても心は落ち着かない。

 何より、遠く魔星サタナステリ王国から気配が未だに届いてきていて全く気が休まらない。


「ユウヤ、あれが消えたらすぐに時間跳躍するわよ!」


 その状況の中でウェーラは焦燥を滲ませて言いながら、記憶を封じる指輪状の魔動器を渡してきた。この状況では仕方がないだろう。

 ある意味深追いしてリスクを犯し過ぎた。


「分かった」


 だから『雄也』は頷き、女神アリュシーダの気配が消え去るのを待った。

 少しして、あの大き過ぎる存在感がようやく霧散してすぐ。


「アテウスの塔、完全起動。魔力収束開始。対象は全人類」


 ウェーラは遠隔操作によって巨大構造物型魔動器を作動させた。

 いつものように魔力を持っていかれる感覚が全身を襲う。

 しかし、今回ばかりは厭っていられない。


「〈トランセンドタイム――」


 そして、そのままウェーラが時間跳躍の魔法を発動させようとした正にその瞬間。


「なっ!?」


 今度は唯星モノアステリ王国上空に、先程感じたばかりの気配が発生した。

 かと思えば、青空を染め上げるような一際強い輝きが発せられ――。


「嘘……」


 空に一筋の光の線を描く。

 再び出現した女神アリュシーダから光を辿っていくと…………。

 その先には、見慣れた巨大構造物型魔動器の姿があった。


「ア、アテウスの塔が、破壊、されたわ」

「そん、な……」


 そこで収束していた魔力を今正に扱おうとしていたウェーラは、その事実を塔が崩れ落ちる光景からではなく直接的に感じ取ったようだ。

『雄也』もまた視界に映るものでは実感が湧かなかったが、彼女の呆然とした言葉でハッキリと認識させられて愕然としてしまった。


「つまり、もう時間跳躍は……」


 アテウスの塔を修復しない限りは不可能。

 ウェーラが口にした事実が意味するところは、つまりそういうことだ。

 突然の事態に言葉を失う。


「愛すべき人間達」


 と、唐突に沈黙が破られ、どこからともなく声が耳に届いた。

 聞き覚えはない。にもかかわらず、よく聞き知っているような錯覚を抱く。

 その姿形以上に人間の琴線を鷲掴みにするかの如き、強制的に心を揺さぶる力があった。

 故に一瞬、直前まで何を思い、何を考えていたのかすら忘れそうになってしまう。

 その感覚を『雄也』達が振り切る前に、は更に響きそれ自体にも強い影響力がある言葉を続けた。


「望みのままに慈悲を与えましょう」


 同時に、あの無限色の光が再び閃光として全方位に放たれる。


「私は、人の求めし女神アリュシーダ。我が祝福によって世界に秩序が、平和が、安寧が満ち溢れることを切に願います」


 そして、そうとだけ告げると女神アリュシーダは姿を消してしまった。

 まるで最初からそんなものは現れなかったとでも言うように、僅かな残滓もなく。


「ウェーラ……」


 その後も身動きせずにいるウェーラが心配になり、『雄也』はそう呼びかけた。

 すると、彼女は黙ったまま魔動器を取り出して自分に向けながら何か操作をし始める。


「…………進化の因子が減少し出してる」


 それが導き出した答えを前にして表情を僅かに歪ませながらウェーラは呟き、それから今度は『雄也』に検査用の魔動器を触れさせた。

 焦りも見て取れる表情からすると、一先ず行動して動揺を抑えようとしているようだ。


「ユウヤが無事なのは不幸中の幸いね。やっぱり異世界人には干渉力が低いみたい」


 間を置かず検査結果が出たらしく、彼女はそう結論して微かに安堵した様子を見せた。

 が、すぐに眉間にしわを寄せ、表情に苦渋の色を滲ませる。


「いずれ進化の因子を持つのはユウヤだけになる。言わば最後の異物。方々にユウヤ由来の進化の因子があって誤魔化されてたけど、一人になって存在を認識されたら狙われる可能性が高い」


 ウェーラはそう言うと渋い顔で俯いたまま、しばらくの間考え込んだ。


「……とりあえず、もう一度スケレトスのところに行きましょう。こうなれば、こうなった前提で最善を尽くさないと」


 それからそう結論したウェーラに『雄也』は頷き、二人は再び魔星サタナステリ王国に戻った。

 衝撃は尾を引いているが、彼女の言葉は全く以って正しい。


「どうやら、お前達も干渉を受けてしまったようだな」


 王都メサニュクタ謁見の間。開口一番、彼は嘆くように言った。。


「全滅か」


 それから深く嘆息すると、悲観を声に滲ませて天井を見上げる。


「……一つ提案があるわ」


 そんな彼に対し、ウェーラは躊躇いがちに切り出した。


「まずラケルトゥス、パラエナ、コルウス、リュカ、ビブロスを呼んで」

「……分かった」


 彼女の真剣な声色を前に、提案の中身を問わず頷くスケレトス。

 間もなくして、各種族の代表が謁見の間に揃う。


「一体、何の用ですか?」


 真っ先に口を開いたのはビブロス。

 声色は苛立ちで染まり、困憊したように真妖精人ハイテオトロープらしい人型の光がくすんでいる。

 その奥に妖精人テオトロープの男らしき姿も見て取れる。発狂一歩手前、退化寸前という感じだ。


「もしかして殺し合いのお誘いかしらあ?」


 物騒なことを笑顔で言い始めるのは当然パラエナで、彼女もまたいつもとは違う諦観の滲んだ狂気を纏っている。いつ暴発してもおかしくない。

 対照的にラケルトゥス、コルウス、リュカは黙して語らないが、憤怒の余りという様相のラケルトゥス以外の二人はいつもと然程変わらない。


「今、全てを解決することはできないわ。けど、魔動器を進歩させれば可能性はある」

「だが、そんな猶予は残されていないんじゃないか?」

「方法はある。ただ、魔動器があっても使うに足る人間がいないと始まらないわ」


 スケレトスの問いにウェーラはそう答え、その場の全員を見回した。


「だから、貴方達には未来に備えて欲しいの。進化の因子は必ず取り戻すから」

「未来、ねえ……。それって一体いつのことお?」

「それは分からないわ。数十年、ううん、数百年もかかるかも」

「いくら真人とは言え、それ程長くは生きられん。いや、それどころか退化の兆候まである以上、もっと短いだろう。その提案は破綻している」

「だから、眠って貰うの。各地にある己の属性魔力が濃い場所で魔動器を利用して。己を封じることで肉体の時間を止め、干渉の影響を緩和することができるはず」


 ラケルトゥスの苛立ち塗れの指摘を受け、ウェーラは淡々と告げる。

 その言葉に、六人は思案するように沈黙した。

 少しして疑問が生じたのか、スケレトスが口を開く。


「魔動器の進歩はどうやって果たすつもりだ? お前達も干渉を受けただろうに」

「やりようはある。けど、こればかりはいずれ対立する貴方達には教えられないわ」


 対するウェーラはできると断言しつつも、具体的な方法は明かさなかった。

『雄也』が進化の因子をまだ有している事実にしても勘違いされたまま訂正せずに済ますつもりのようだし、ここに至っても味方とは考えていないようだ。当然だが。


「信用できなければ、それはそれでいい。でも、一考して欲しい。時間はないけど」

「考えるまでもないわあ。進化の因子を失う弊害は身に染みてるし、何よりあの女神を名乗る存在は気に食わないものねえ」


 と、いの一番にパラエナが受け入れる。

 祖国水星イクタステリ王国においても厄介者である彼女は、責務が少ない分判断が速い。

 勿論、あの症状を実際に体験し、自棄寸前まで行っていたことも大きいだろうが。


「しかし、それをするなら国王の方が適任では?」


 逆に国の忠実な僕であるリュカは、躊躇うようにそう言う。

 それでもウェーラの提案自体には反対しないようだ。詳細まで明らかにせずとも。

 リュカもまた自身の不調に思うところがあり、それは他の面々も同じに違いない。


「国の、種族の代表ということであれば、本来それが正しい形のはずだが」

「ここにいる六人が各種族において最も力を持った人間のはず。未来の国を思えば、貴方達が適任よ。もし、貴方達よりも強い人間がいるなら別だけど」

「未来の国、同族のため、か。………………分かった。ワタシも従おう」

「国のため、それが最善であればワタクシも否やはありません」


 リュカに続いてコルウスのまた、この場は忠節よりも大義を重んじて同調する。


「俺も奴に一撃食らわせないと気が済まん。それに、どうせあの症状が進めば将軍という役職など無価値になるからな」


 次いでラケルトゥスが続く。

 実際、平和を強要された世界なら軍隊は形骸化するだろう。

 その一般的な是非はともかく、血気盛んな彼はそこに何の価値も見いだせないようだ。

 いずれにせよ、これで残るはビブロスとスケレトスだ。


基人アントロープの提案など聞きたくありませんが、いずれ基人アントロープに復讐を果たすため、この気持ちを失う訳にはいきません。私も許容します」

「国を守るのが王の責務だが、国民に意思がなければ俺達の国とは言えない。民に己を取り戻させるためにも、国王が変わることによる混乱は受け入れて貰うしかないな。……誰もが意志薄弱となったこの状況では政情不安など起きないかもしれないが」


 苦渋の決断といった様子の二人を最後に話が決まる。

 元々彼らだけでは詰んだ状況なのだ。不明瞭でも蜘蛛の糸には縋りつくだろう。


「なら早速、一人一人やっていきましょう」


 それから世界各国を巡り、六人を六ヶ所に封じる運びとなった。

 互いに慣れ合っている訳ではないので、黙々と作業のように進めていく。

 特段、彼らから『雄也』達に言い残すことなどない。

 封印の前に行うことと言えば、精々身辺整理ぐらいのものだ。

 それが最も面倒なのは当然一国の王たるスケレトスで、彼の封印は最後となった。

 魔星サタナステリ王国近辺における闇属性魔力は特別濃いところがなく、万遍なく広がる感じだったがために彼の血族をある種の楔として使わなければならなかったが、それは余談だ。

 そうして全員の封印を終えた後。当然ながら女神アリュシーダは間欠的に現れ続けており、それによって進化の因子を持つ者は更に減少していっていた。

 そんな中にあってウェーラは進化の因子を失ったことで再びあの症状に苛まれ始め、しかし同時に、死に物狂いで意思を保って何か作業に没頭していた。


(ウェーラ……)


 症状のせいか作業の意図は断片的にしか答えてくれず、また、質問や気遣いに応答する間も惜しいというような鬼気迫る彼女の様子に心配が募る。

 しかし、有効な案の一つも思いつくことのできない『雄也』には、ウェーラからの指示に黙って従うことしかできなかった。

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