④次なる闘争の始まり

 過剰進化オーバーイヴォルヴした蜥蜴人リザードロープはどこから質量を持ってきたのか、というぐらい肥大化していた。

 いわゆる地竜。ファンタジーに割と登場するモンスターの如き姿。

 四足歩行となった彼は、急激に変じた己の体を持て余すようにその場で暴れ回っている。


(……質量保存則が乱れまくってるな。さすが異世界ってとこか)


 これまでの超越人イヴォルヴァー達の優に二倍を超える割合での巨大化。

 真超越人ハイイヴォルヴァー過剰進化オーバーイヴォルヴ並に大きくなっている。

 強さも近いところにあると思っておいた方がいいかもしれない。


「アイリス。皆を連れて下がれ」


 僅かに視線だけを彼女に向けて告げる。と、すぐに頷きが返ってきたので、雄也は再び敵超越人イヴォルヴァーへと目線を戻した。

 それまで歪んだ肉体に大きく振り回されていた蜥蜴人リザードロープだったが、そこでようやく変異を完全に終えたのか虚ろな視線をこちらに向けてきた。


「グギャアアオオオオオオッ!!」


 空虚な敵意を滲ませて咆哮する蜥蜴人リザードロープ

 すると、その口の辺りに魔力が集まり――。


「って、ブレスとかじゃないのかよ」


 次の瞬間そこから魔法で生成されたと思しき無数の岩石が撃ち出された。一発一発が成人男性が丸まったぐらいの大きさを持っている。

 一見した限り、軌道は直線的で回避は容易だ。しかし――。


(……これ以上街を傷つけるのもまずいよな)


 先程は人の命がかかっていたため、雑貨屋には涙を呑んで貰うことにした。が、既に人質は解放したのだから、これ以降は街への影響も考えるべきだろう。


(恐らく相手は土属性。けど、攻撃パターンが全て明らかになってない以上、風属性はリスクが高い。だったら、ここは――)


《Change Drakthrope》《Sledgehammer Assault》


 雄也は刹那の内に無難な策を選択し、龍人ドラクトロープ形態になると共に武装を巨大なハンマーに変更した。ただし、扱える上限の大きさではなく、動作に支障をきたさない通常サイズだ。


「せいやあああああっ!!」


 そして飛来する岩石を上から叩く。

 ワニを潰すゲームの要領だ。的もハンマーも比べものにならないぐらい大きいが。


(意外と軽く撃墜できるな。いや、龍人ドラクトロープ形態のおかげだろうけど)


 しかし、余程硬い素材なのか、互いの攻撃が交錯する度に甲高い音が連続して場に響く。

 鼓膜を攻め立てるような馬鹿でかい音に反して岩石が砕ける気配は全くないが、それはむしろ望むところだ。

 破片となって飛散してしまっては、逆に周囲に被害が出る可能性がある。もっとも、強制的に墜落させているだけなので、結局のところ広場の石畳は破損してしまうのだが。

 それだけは必要な犠牲ということにしておいて欲しい。後は公共事業の出番だ。


「はっ! だあっ! せいっ!」


 続けて弾丸の如き速度で向かってくるそれを余すことなく迎撃していく。


(……って、いつ終わるんだ、これ)


 蜥蜴人リザードロープは馬鹿の一つ覚えのように岩石を射出し続けていた。

 直下の石畳がますます残念なことになっていっている。


(時間をかければ自壊するって分かって…………ないんだろうな)


「ギャギャアアアアアアアッ!!」


 身体にかかる負荷に対し、単純な生理的な反応として悲鳴の如き叫び声を上げ続ける蜥蜴人リザードロープ。しかし、そこに感情はない。

 その元となる人格が崩壊しているのだから当然だ。

 にもかかわらず、悲痛な心の表れに聞こえるのは錯覚に過ぎない。


(このまま防ぎ続ければ、その内勝手に死に至るはず。だけど――)


 いくら錯覚に過ぎずとも、このような状態を長引かせるのは忍びない。


(早く、解放してあげないと余りにも……)


 そもそも自壊までの平均時間も全く分からないのだ。

 仮に以前のデータがあったとしても、相手は毎回毎回強化されていく超越人イヴォルヴァーだ。ハッキリ言って当てにならない。

 真超越人ハイイヴォルヴァー過剰進化オーバーイヴォルヴのように、既に自壊しない段階にある可能性もゼロではない。

 やはり早々に倒すべきだろう。


(《Maximize Potential》を使う余裕を作り出せるか怪しいところだな。となると風属性で一気に……いや、まずいか?)


 半端な威力の武装では怪しいが、グレネードランチャーもどきを使えば属性の相性も相まって岩の弾丸を粉微塵に破壊できるだろう。だが、連射が効かないのがネックだ。

 絶え間なく飛び来る徹甲弾染みた岩石を前にしては、対処が追いつかなくなりかねない。


(だったら!)


《Convergence》


 魔力の収束を開始すると共に、前方へと駆け出す。それと同時に――。


《Twinsledgehammer Assault》


 雄也は同形のハンマーをもう一本作り出した。

 これまでの感覚から片手で振るっても撃墜させることはできるはず。

 短期間ならば両手持ちでも武装に振り回されず対処可能だろう。

 そう判断して単位時間当たりに処理可能な数を底上げしたのだ。


「はあああああああっ!!」


 ハンマーに気合いを乗せて乱射される岩石を叩き、雄也はさらに前へと突っ込んだ。

 しかし、距離が縮まれば、当然軌道を把握するまでの時間が狭まっていく。

 無理矢理処理能力を向上させていても、いずれは限界が来るだろう。

 事実、徐々に岩石を正確に叩けなくなってきてしまっていた。


(くっ)


 そして一発。軌道の変更が甘く、勢いがほとんど落ちないまま水切りのような角度で石畳に落ちる。浅く跳ねて転がった岩石は、危うく奥の建物に直撃するところだった。


(これ以上距離を詰めたら、対処を誤りかねない。一旦下がるか? いや――)


「すぐに……解放して上げます!」


 残り数メートルのところで一つの岩石を叩いた直後、片方のハンマーから手を離す。

 そのまま次の攻撃が迫る前にもう一方のハンマーを両手で握り、雄也は野球のスイングのように振るって新たに飛来した岩石を叩いた。

 金属バットでボールを打ったかのようないい音が響く。


「グガアッ!?」


 真っ直ぐに弾き返されて加速した岩石は次弾と真っ向から交錯し、若干減速しつつも次弾を巻き込んで蜥蜴人リザードロープに直撃した。

 それによって敵は一瞬怯み、僅かな時間だけ弾雨がやむ。

 雄也はその隙に相手の懐に入り込んだ。


「そこだっ!」

《Final Sledgehammer Assault》

「ぜりゃああああっ!」


 全力でハンマーを振り上げて相手の腹を叩き、その巨躯を空中に打ち上げる。

《Convergence》による一撃。この時点で決まるかと一瞬思った。

 が、生命力と魔力は確かに真超越人ハイイヴォルヴァー並だったらしい。

 大きく傷つきながらも命を繋いでいる。

 しかし、土と闇の二属性だった真超越人ハイイヴォルヴァーとは異なり、土属性単体の蜥蜴人リザードロープは比較的自然治癒能力が低い。

 それ故ダメージは見た目にも大きく残ったままだった。

 加えて、まだ肥大化した体に完全に馴染んでいないせいというのもあるだろう。

 彼は宙に浮かされた状態で体勢を立て直せず、なす術もなくもがくばかりだった。


《Change Phtheranthrope》《Launcher Assault》《Convergence》


 そんな蜥蜴人リザードロープを前に、雄也は翼人プテラントロープ形態に移行しつつ再度魔力を収束させた。と同時に、新たに手にしたグレネードランチャー風の武装の銃口を直上に向けて構え、二度、三度と追撃を放つ。

 ようやく蜥蜴人リザードロープが地面に落下した時には、彼は既に無力化されていた。


「これで終わりです。どうか安らかに」


 そして魔力収束を開始してから十秒後。

 雄也は、人格を奪われた憐れな犠牲者へと新緑に輝く極大の光弾を解き放った。

 それは何に遮られることなく蜥蜴人リザードロープに直撃し――。


「ギ、ギャアア、アアァァ、ァ……」


 断末魔の叫びの中で、彼の命を根こそぎ刈り取ったのだった。

 過剰進化オーバーイヴォルヴによる負荷で限界を超えていた蜥蜴人リザードロープの肉体は、そのまま砂の如く脆くも崩れ去っていく。

 雄也はその様子を最後まで見守り、それから一つ大きく息を吐いた。


(結果から見れば、外見だけだったな)


 だが、街への被害を考慮したが故に、セルフ縛りプレイ状態で少々苦労してしまった。

 色々と無視すれば現在の雄也の敵ではなかったはずだが。その辺を気にしてしまうのは甘さと言うべきか、あるいは単なる小市民的な思考と言うべきか。

 どちらにせよ、生命力や魔力が桁違いに高くとも、それを十全と発揮できる力量と意思がなければ何にもならない。それを改めて教えてくれたように思う。


(正に以前の俺だな)


 いや、正確には「今も」だろうけれども。


「〈ワイドエアリアルサーチ〉」


 周囲に探知をかけ、最も近い位置にいるのがアイリス達であることを確認する。


《Change Anthrope》《Armor Release》


 そうして雄也は装甲を排除し、彼女達のもとへと向かった。


【ユウヤ、大丈夫?】


 真っ先に傍に来て問うてきたのはアイリス。

 並べた文字とは裏腹に、表情に心配の色はない。

 そんな彼女の後ろ。微妙な距離にイクティナとプルトナはいた。


「皆は大丈夫か?」

【問題ない】


 アイリスは簡潔に字を作り、奥の二人はぎこちなく頷いた。


「そっか。よかった。……けど――」


 安堵しつつも申し訳なさで胸が締めつけられ、雄也は二人に頭を下げた。


「ごめん。巻き込んで」

「そ、そんな、ユウヤさんが、謝ることじゃ……」


 否定しつつも、その複雑な感情を示すように視線を左右に揺らすイクティナ。


「ユウヤのせいではありませんわ。遅かれ早かれ、ワタクシは自分から首を突っ込んでいたでしょうから」


 対照的にプルトナは平然とそう告げた。

 随分と肝が据わっている。その辺はさすがは王族と言うべきか。

 思い返せばアイリスもこんな感じだった気がする。


「ユウヤ」


 プルトナが真剣な様子で名を呼んでくる。と共に、彼女はこちらに近づいてきた。

 一人取り残される形となったイクティナは、その場でオドオドと二の足を踏んでいる。


「ワタクシの目的、分かっていますわよね?」


 未だ動揺しているイクティナを余所に、プルトナは真っ直ぐな視線と問いを投げかけてくる。それから、ビシッと効果音が出そうな勢いで人差し指をこちらに向け――。


「オルタネイト改めユウヤ・ロクマ! 結婚を前提に交際を申し込みますわ!」


 彼女は決闘を挑むが如く過剰なまでに気合を入れて告げた。

 広場に反響した音が消え去った後、時が止まったように沈黙が満ちる。


(え、えーっと、今言うことか?)


【プルトナ、空気読んで】

「う、いえ、その」


 アイリスの冷たいジト目がプルトナを射抜き、彼女を怯ませる。

 襲撃と正体バレからのシリアスな空気など彼方に吹き飛んでしまった。

 こんな状況では、一人消沈しているイクティナのフォローなどできようはずがない。

 結果、イクティナに声をかけるのを躊躇っている内にその日はそこで解散となり、彼女達への事情説明は後回しになってしまったのだった。


「では、また明日、ですわ」


 そんなこんなでプルトナが俯き加減のイクティナを連れて寮へと歩き出す。

 しかし、彼女は一度だけ立ち止まると振り返って口を開いたのだった。


「ユウヤ! ワタクシとの交際、考えておいて下さいまし!」


 まだ言うか。


    ***


 古の魔動器によって光が遮られた大地。そこには闇属性の魔力が人工的に留められており、魔人サタナントロープにとって最適な環境となっていた。

 七星ヘプタステリ王国の遥か西にある魔星サタナステリ王国。

 一年中薄暗く(昼間は曇りのレベル)、気温は年間を通して全く変動がない。これもまた千年以上前の文明の利器によって調整された結果である。

 いわゆる冷温暗所。照明があるとは言え、人間一般に適しているかは少々疑問だ。

 実際、魔人サタナントロープ以外が住もうとすると体調を崩しがちになるのだ。

 一応、日光浴場があり、国民は日々のサイクルに日光浴を組み込んでいるため、太陽光を浴びないことによる弊害という訳ではない。闇属性魔力による身体活性で日々オーバーワーク気味になり、逆に疲れ易くなるという説が一般的だ。

 元から闇属性魔力に特化した魔人サタナントロープや生命力が極めて高い者ならば問題ないのだが。

 そんな魔星サタナステリ王国の王都メサニュクタ。その中央には目に見えて暗く、闇色の衣を纏ったかのような巨大な城がある。


「モルモットには過ぎた代物だな」


 眼下に広がるその光景を前に、ドクター・ワイルドは吐き捨てるように言った。

 人前で見せるマッドサイエンティストの如き口調ではなく、本来の彼の話し方で。


「〈エアリアルライド〉」


 小さく告げて滞空から飛翔に移行する。音もなく、魔力の気配も欺瞞して。


「〈ワイドエアリアルサーチ〉〈オーバーテレポート〉」


 王の居場所を魔法で探知し、その場所へと空間を跳躍する。

 王の私室。そこに突如発生した魔力を察知してか、魔人王テュシウス・オネイロン・サタナンは警戒したように闇色に染まる大剣を構えていた。

 次の瞬間、ワイルドが調度品のテーブルのど真ん中に現れたがために、空間が押し出されてテーブルが破裂する。その破片をテュシウスは剣で払った。

 空間跳躍を行った存在は、発生地点のあらゆるものを押し退けて発生する。融合する訳ではない。そう思っている者がいるとすれば、それは勘違いだ。

 この力は恐ろしく強く、Sクラスの人間であろうとも跳躍地点に重なれば死は免れない。

 とは言え、攻撃に利用することは不可能だ。魔力で発生地点が丸分かりだからだ。


「ワイルド・エクステンド。貴様、ここが王の寝所と知っての狼藉か?」


 硬い口調で問うテュシウス。突然の侵入者であるから、というだけではないだろう。

 当然のことだが、王の寝所ともあれば〈テレポート〉を阻害する結界が張ってある。にもかかわらず、それを容易く突破され、侵入を許してしまった。

 ワイルドが警備の想定を軽く上回る実力者であると状況が告げている訳だ。

 警戒しない理由は皆無だろう。


「フゥウーハハハハハッ!! モルモット無勢に狼藉も糞もあるまい! 魔人王を名乗る愚者テュシウス・オネイロン・サタナンよ。我が実験体になって貰うぞ」


 ワイルドは言いながら嘲笑を作った。限りなく相手の心を乱すように。


「無礼者が! 我が手ずから裁いてくれよう!」


 果たして彼は激昂し、しかし、さすがは掟を以って強さを維持してきた者と言うべきか凄まじい技の冴えと共に大剣を振り下ろしてきた。


「貴様に言い渡す判決は死だ!」

「ふん……吠えるな! モルモットが!!」

《Sword Assault》


 一閃。

 驚愕に目を開くテュシウスを見るに、全く目で追えなかったのだろう。

 だが、ワイルドにとっては軽く薙いだだけの一撃でしかない。


(如何に強者と交配を繰り返そうと、進化の因子がなければこの程度だ。どれ程技量を高めようとも、生命力や魔力の格が違えばどうしようもない)


 容易く圧し折られ、宙を舞うテュシウスの剣を視界の端に捉えながら、ワイルドはフンと鼻を鳴らした。そうしながら手にした剣を放り捨て、間合いを詰める。

 そして、テュシウスの喉を鷲掴みにし、そのまま壁に叩きつけた。


「かはっ」


 背中を強打し、強制的に肺の中の空気を全て吐き出させられるテュシウス。その音に重なるように――。


「〈ソードバインド〉」


 ワイルドは魔法を発動し、魔力で四本の剣を作り出して彼の四肢に突き刺した。


「ぐがあああああっ!?」


 両手両足を貫かれた上、壁に縫いつけたテュシウスは痛みを吐き出すように絶叫する。

 それでも尚、彼はワイルドに対して強い敵意のこもった目を向けてきていた。


「紛いものの意思を己のものであるかのように……全く、見れば見る程に忌々しい。貴様も我が操り人形にしてくれるわ」


 眉をひそめながら見下す。そんな視線を前に、テュシウスは全身に走っているだろう激痛に顔を歪めながらも口の端を吊り上げた。


「何がおかしい」

「闇属性魔力に長けた魔人サタナントロープ。その中でも歴代最強の王たるこの我に〈ブレインクラッシュ〉が効くと思っているのか? たとえ超越人イヴォルヴァーにされたとしても、その力を以って逆に貴様を殺してくれるわ」

「ふむ。確かに貴様の言い分は正しい。〈ブレインクラッシュ〉貴様には効かんだろう」


 神妙に頷く振りをしながら、ワイルドは言葉の一部にアクセントをつけた。


「だが……アサルトオン」


 そして、勘違いした男の滑稽な姿に込み上げてくる笑いを押し殺しながら告げる。


《Evolve High-Anthrope》


 直後、電子音が鳴り響き、ワイルドの体を六色の光が包み込んだ。次いで同じ輝きを持つラインの走った黄金の装甲が全身を覆い隠す。


「な、貴様、その姿は――」

「〈オーバーブレインクラッシュ〉」


 口を開いたテュシウスの頭を掴み、ワイルドは有無を言わさず極大化した魔力を一気に流し込んだ。並の人間であれば耐え切れず破裂しかねない密度と量で。


「ああああああああああああっ!!」


 意思どころか存在を呑み込みかねない程の莫大な力の奔流を前に、断末魔の如き絶叫が寝室に響き渡る。それ程まで苦しまざるを得ないのは、生半可に力を持つが故だ。

 そうでなければ、痛みも感じぬままに肉体そのものが世界から消失していただろう。

 勿論そのような半端者に使用するような魔法ではないが。


「う、あ、あああ、ああ……」


 やがてテュシウスは絶叫する程の意思すらも失い――。


「消え……我の……全…………」


 虚ろな呟きを最後に、その目から理性の輝きが消え失せる。


「堕ちたか。口程にもない」


 人格を砕かれ、焦点の合わない視線をどこかに向けている魔人王だったもの。

 ワイルドはそれにゆっくりと近づき、その首に魔動器をはめ込んだ。


「さあ、目覚めよ。新たなる真超越人ハイイヴォルヴァー吸血鬼ヴァンパイアントロープよ!!」

《Change Vampirenthrope》


 ワイルドの声に従って電子音が鳴り響き、魔人王だった肉体は蝙蝠の如き特徴を持ったものへと変質する。しかし、それは以前オルタネイトと戦った蝙蝠人バットロープとは明らかに異なる姿であり、格上の存在であることが外見の威容から分かる。

 実際、今回はユウヤの世界における架空の怪物たる吸血鬼をモチーフとしている。実在の動物で言うなれば、吸血蝙蝠が一番近いだろうか。

 そのように黒く歪んだ全身テュシウスの抜け殻を、闇色に染まった装甲が覆い隠す。

 闇を纏ったが如き歪でおぞましいその姿は、正に物語に登場するような――。


「さあ、第二ステージと行こうか。オルタネイト。この俺が用意してやった魔王だ。精々楽しんでくれよ? く、くく、くはははははははっ!!」


 ワイルドは素の口調で、しかし、抑え切れずに高笑いをした。

 そして、その日。その時を以って魔星サタナステリ王国は滅びへの道を歩み始めたのだった。


    ***

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