第八四話:ハードプレイ

 チュポンと音をたて、オヤジの身体から頭を出すサラーム。


「熱いわ。暑苦しい。魔力回路1個しかないけど。なに? なんなの? この出力、アンタのオヤジも相当な化け物だわ」

 

 精霊サラームが言った。精霊に化け物扱いされる俺のオヤジ。


 サラームは、アンビリカルケーブルで俺と繋がったままパタパタ飛んでいる。

 そのまま俺の胸に「トン」と着地し、ヌルヌルと中に入っていく。

 コイツは魔素の薄い地球生活で俺の身体の中に引きこもっていたせいで、今でも基本引きこもり体質なのだ。


「いいねぇ…… 最高だ…… 最高の日だ」


 オヤジが絞り出すように言った。 

 全身から溢れ出そうな歓喜を押さえ、背中がピクピクと笑っている。

 その身体から吹きだす余剰魔力の大きさは人外。

 俺のオヤジは本当に「勇者」だったんだなと実感する。


「アイン」


「なんだ、オヤジ?」


 俺は右拳と右ひざはだいぶ痛みが無くなってきた。

 見た目は治った感じになってる。まだ100パーセントではないが、動かすことはできた。

 回復の水が効いてきている。


「何をやったか分からんが、感謝するぜ――」


 背中越しに俺を振り返り獰猛な笑みを浮かべている。

 今まで見たことないような表情。

 これが、本気のオヤジなのか……


「ほう…… 『雷鳴の勇者』よ、その力を取り戻したか」


 バリトンの無駄にいい声。ガチホモ王が油断なくオヤジを見やる。

 部下の四天王と合体し、完全に見た目は人外だ。

 両手、両足に四天王が突き刺さっているという合体。

 

「ふふふふ、完全状態の勇者に、この槍を挿入し、屈服させる…… 『ああああ、ガチホモ王の槍がぁ、槍が、槍が奥まで入ってくる。内臓を突き上げてくるぅぅ~』と言わせるもの一興かよ」


 狂った眼差しで俺のオヤジを見つめるガチホモ王。

 股間からは漆黒の巨大な槍が生えている。

 しかもだ……


「お、オヤジ、気を付けろ、先っちょから……」


 極太の槍の先かから半透明な液体が垂れている。

 それが滴となって、ポタポタと床に落ちている。

 それだけじゃない。その体液は「ジューーッ」という音を立て、床を溶かしているのだ。

 強酸性の我慢汁かよ……

 ますます人類じゃない。


「ああ、分かってる」


 そう言うと、オヤジは右手を上げた。


「覇王神剣ドラゴンザバッシュ! わが手に帰還せよ!」


 叫ぶオヤジ。空間が歪み、無が揺らぎを見せる。フォトンか量子が集積され形を成していく。


「ほう…… 量子転換かよ」

 

 変態のバリトンボイス。


 空間が硬質で重厚な存在に転移する。

 俺のオヤジの愛剣「覇王神剣ドラゴンザバッシュ」だ。

 オヤジの身長は遥かに超える長さに、鉄塊を削り出して作ったような分厚い刀身。

 そいつを片手に握る俺のオヤジだ。「雷鳴の勇者」シュバイン・ダートリンク。


「さあ―― 勝負を……」


 大剣を軽々と構えた俺のオヤジの言葉が途切れる。

 絶叫。ガチホモが叫んで突っ込んできた。


「ぎひひひひひぃぃぃいぃぃぃ!!!!! 種付けぇぇぇ!!!! 親子丼で種付けパンパンだぁぁぁ!! 我が槍を受け入れるのだぁぁ!!」


 狂った叫びを上げる合体人外ガチホ王。

 鋭い槍の先を向け、突撃してきた。

 足に突き刺さったガチホモ四天王は血まみれになっている。


「ぬおぉぉ!!」


 辛うじてオヤジが槍を叩き落す。覇王神剣ドラゴンザバッシュが穢れてしまいそうだが仕方がない。

 

「ああああああ~!! 勇者の剣と擦れて、気持ちいいぉぉぉ~、俺の槍が、俺の槍があぁぁ、ヘブン状態になってくるぅぅ!!」


 漆黒の巨大な槍がビクンビクンと波打つように脈動する。

 そして、更に太さを増していく。

 先端からは、透明な強酸性の体液垂れ流しだ。


「アイン! いまだ! 俺が動きを止めてる間に!」


 叫ぶおオヤジ。そうだ! 何をボーっと見ている俺は! クソ!

 コイツを倒して、シャラートを助ける。


「潰せ! 叩き潰せ!」


 サラームの配下の土の精霊が一気に、塔の石壁を変質させる。

 巨大な石のハンマー。

 左右からだ。

 轟音を上げ、俺の作った石のハンマーがサンドイッチ状態でガチホモ王を襲う。


「ぬう!! 攻めか! 親子同時の鬼畜攻め! これもまた、よかろう!」

 

 クソ野郎が、ゲロが出そうな気色悪いことを言い放った。

 しかし、俺の巨石のハンマーが左右から奴を叩き潰す。

 鼓膜を突き抜け、頭の芯が震える轟音。同時に巨石でサンドイッチになるガチホモ王。


「ざまあぁぁ!! このまま、潰してミンチだぁぁぁ」


 俺の魔力回路が回転数を上げる。あまり上げ過ぎると、塔すら破壊しかねないので注意だ。

 それでも、少しづつ気分がハイになってくる。


 早くシャラートを助けて、俺の正式な嫁にして、そうだ、ライサとエロリィも嫁だ。この際、千葉もかまわん。嫁だ。

 先生は、ちょっと考える。でもって、俺は宇宙超絶大皇帝となり、この世の全てを支配する。ああ、俺はそういう存在だぁぁ。

 夢が、夢が広がるぅぅ!!


『アイン、魔力回路の回転上げすぎだわ。ここが持たなくなるわ』


 サラームの声で冷静になる俺。回転数を少し抑える。気もちも狂躁状態から回復。

 しかし、この力は強すぎて、使うのが難しすぎる。


「ぬがぁぁぁ!!!!」


 俺の石のハンマーの間から声が聞こえてくる。

 ビシビシとハンマーにヒビが入ってきた。

 

「なんだ、こいつ!!」


 バガァァァ!!


 石が粉々に吹っ飛んだ。

 バラバラと飛ぶ瓦礫と粉じん。

 その中で狂気に満ちた双眸だけを光らせ、こちらを見つめるガチホモ。


「んん~? こういうプレイか? 親子で俺をいじめてプレイかぁぁ? このドS親子がぁぁ~」


 両腕に挿入したガチホモ四天王が血まみれ。

 たらーんと内臓が外にはみ出てぶら下がっている。

 衝撃全てを四天王が吸収したのか……


「てめぇ…… あれで無傷かよ」


 覇王神剣ドラゴンザバッシュを構えながら俺のオヤジが言い放つ。


「ぎひひひぃぃ!! ああ、こんどはこっちの攻めの番だな。ああ、俺の攻めはキツイぞぉぉ~」


 ブンブンとメトロノームのように槍が振れていく。

 風切音がヤバい。


「ひぎぎぎぎぎぎぃぃぃ~、俺の槍で貫かれるのはどっちが先かなぁ。安心していいぞ、1本で2人とも貫く。1人目が口まで貫通するがな…… けへぇぇっぇぇ!!」


 その巨体が狂った愉悦で震えていた。

 ガチホモ四天王と合体した、変態ガチホモ王が、一歩、一歩前に進む。

 巨体の歩みに床が軋み音を上げている。


「勇者の剣と俺の槍、硬さ比べをするかぁ~、それも男の嗜みよ…… ききききぃぃ」


 バリトンの狂った声が響く。重低音の悪夢の声。


「くたばれ!! ド変態やろうがぁ!!」


 俺は叫んだ。こんな変態野郎に構っている暇はねーんだよ!

 炎だ。炎を使って焼き殺してやる。

 炎の精霊が俺の魔力の供給を受け、魔法の炎を作り出す。

 地獄の業火より、数倍強烈な奴だ。

 骨も残さない。


「あはぁぁぁ!! 熱いぞぉぉぉ!!! あがががあああああああああああああ!!


 俺の意思とほとんどタイムラグがなく発生する強烈な火炎の渦。

 その中で、絶叫する変態のガチホモ王。

 ブスブスと肉が焦げていく匂いがする。


「どぴゅぅぅぅ! どぴゅぅぅぅ! どぴゅぅぅぅ! どぴゅぅぅぅ!」


 炎の巻き起こす音の中になにか淫猥な音が混じって聞こえてくる。

 嫌な予感しかしない。


 限界だ。使役していた精霊たちが炎の生成を止めた。

 

「ぐ…… なんだ、この匂い」


 俺は顔をそむける。思いっきり記憶にある匂いだが、それよりも100倍は濃厚な奴だ。


「魔素か…… やるな魔素を噴出し、炎から体を守ったか」


 オヤジが絞り出すように言った。

 

「ぶはぁぁぁ~ 熱いのは嫌いではないぞぉ、俺もお前たちを体の中から熱くしてやりたいのだぁぁ!!」


 ドロドロの白濁液を全身に被ったガチホモ。ところどころ皮膚が焼け焦げているが、致命傷には程遠い。

 

「俺は魔素を体のどこからでも噴出できる。それは技術だ。このガチ※ホモ王国に連綿と伝わる技術――」


 そう言うと、ガチホモ王は尖った頭の天辺から「ぴゅ――ッ」っと白濁した液体を噴出させた。

 もはや、言葉が出ない。

 

「この頭をお前たちに突き立て、体の中を俺の魔素でパンパンにすることもできる。頭を突き立て、内臓をペロペロしてやってもいいぞぉぉぉ~」


 見た目だけではない。このド変態はその発想そのものが、人外の超絶変態野郎だ。

 

「ちぃぃ!!」


 跳んだ! 俺のオヤジ、シュバインが跳弾のように爆ぜた。

 一気に天井まで飛ぶ。大剣を持ったままだ。

 大質量の大剣を振り下ろしながらの直上からの攻撃だった。


「ぬぉぉぉ!!」


 頭の天辺から白濁液を噴出させながら、吼えるガチホモ王。

 覇王神剣ドラゴンザバッシュと槍が激突した。

 大気がビリビリと振動する。


「あああ! ヤバいぞ! オヤジ!! 床がぁぁ!!」


 叫ぶ俺。今の直上からの攻撃。そして、このド変態ガチホモ王の体重。諸々の今までの戦い。

 この階の床がが脆くなっていたのだ。

 バキバキと音を立て、ひび割れ崩れていく床。

 

 2人は剣と槍を激突させたたまま、下の階に落ちて行こうとしていた。


「くそぉぉぉ!! オヤジ!!」


 俺は叫ぶ。そしてガチホモ王の突き立てている槍に体当たりした。

 ちょっと嫌だった。


 その一撃で拮抗していたバランスが崩れる。倒れるガチホモ王、そして崩れる床。

 俺とオヤジと、超絶ド変態ガチホモ王は階下に落下していった。


        ◇◇◇◇◇◇


「堕ちていくぅぅ!!! ああ、3人で堕ちるのだぁぁ!!」

 

 落下しながらもくそのような変態バリトンボイスで叫ぶガチホモ王。

 サラームの作った風の結界で俺はゆっくりと降り立つ。

 瓦礫と巻き上がった粉じんで、視界がきかない。


 しかし、勇者のオヤジもこれくらいでは、どうということもないだろう。

 当然、あのド変態野郎がこれくらいでくたばるなら苦労はしない。


 ゆっくりと粉じんが晴れてくる。


「「「「アイン!!」」」」


 一斉に俺の名を呼ぶ声。

 俺は振り返る。

 金色の光の粒子を身にまとったような美しき存在。

 その碧い瞳が俺を見つめていた。

 エロリィ・ロリコーンだ。禁呪使いのプリンセス。

 黄金の長いツインテールが、たなびくように揺れている。


 緋色の、灼熱の炎のような髪の色をした超絶美少女もいた。

 ライサ・ナグール。彼女も同盟国の王女だ。

 無類の戦闘力を誇る、美少女殺戮マシーン。

 普段は強気な、やや釣り目気味のルビー色の瞳が、心配そうに俺を見つめている。


「無事だったか…… アインよ」


 エメラルドグリーンの髪に同じ色をした瞳。

 元男子高校生のエルフの千葉だった。

 

 3人とも俺の許嫁。大事な存在だ。

 エロリィ、ライサはともかく、千葉は戦闘力皆無。まずいな……


「あああ!! ワタシの可愛いアインちゃん! 無事だったのね! やっぱり天才で、最強なの! 私のアインちゃんは最高なの!」


 俺の母親のルサーナだ。年齢不詳。外見は10代ではないかというくらいの美女。

 俺を溺愛しまくるママだ。


「ルサーナ! はしゃぐな!」

 

 ビシッとした一喝だ。信じられん。

 オヤジが、あの最強のママを一喝した。


「分かっています。でも、久しぶりにアナタの当身、体の芯に響きました」


 うっとりとした目で、オヤジを見つめるママ。

「銀髪の竜槍姫」の異名を持ち、俺がちいさいころから、オヤジをぼろ屑のようにしていたママがだ――


「なにがあった千葉?」


 戦いは途中であったが、聞かずにはいられない。

 なんだ、俺のオヤジとママの間に何があったのだ?


「いや、義父様がやってきてだな。上に行くと言ってきかないお義母様に当て身を喰らわせ、気絶させたのだ」


「マジか?」


「ああ、マジだ」


 オヤジ……

 俺は改めて、この大剣を持ったオヤジを見つめた。

 やるときはやる男。

 俺は、マジでこの世界に生まれ、この男の息子であるということが誇らしくなった。


 くそ……

 俺も、俺もやる。


 粉じんが徐々に晴れてきた。

 いた。

 ガチホモ王がいた。

 壁にもたれかかり、頭から血を流していたようだ。血の跡がある。

 しかし、その傷は、頭の天辺から吹きだされているヌルヌルした白濁液で塞がれていた。

 黄ばんでパリパリの状態になり、頭に残滓となって残っている。


 下に向けていた顔を徐々に上げていくガチホモ王。

 ねめつけるような凶器の光を放つ双眸は健在だった。


「ハードなプレイだぁぁ~ ああ? 親子でハードプレイかぁぁ? んん? いいぞぉぉ、俺は、それでもかまわんのだぁぁ、ひぎぎぎぎぎ……」


 不死身だ。奴はやはり不死身だ。

 背中を壁にあずけながらズルズルと立ち上がる。


 そして狂気の視線で周囲を見やった。


「パンゲアのゴミクズの牝ブタもいるのか。牝ブタは処分して、男は俺の子を孕ませる。予定調和であるな」


 どす黒い狂気のオーラをまとった存在が、バリトンの響きを持った声を放っていた。

 それは、まるで地獄よりも深い深淵の底から聞こえてくる声のようであった。

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