第八〇話:男を孕ます恐怖のガチホモ

『これからアインの鬼畜攻めだわ アイン×ガチホモ王。鬼畜Sモ-ドになったアインの――』


『うるせーよ! 黙れよ。腐れ精霊!』


 俺の身体の中で、ワクワクしてんじゃねーぞ、サラーム。

 なんで、俺が男の出した「父乳」にまみれたホモと掛け算されなきゃいけねーんだ!

 俺は、ただコイツをぶちのめして、もっと詳しいことを聞きだすだけだ。


 ヌルヌルした白いミルク見まみれた浅黒い肌。

 そのミルクは、今も射出が続いている。

 触手に絡まれた男たちの乳首から「ぴゅ―ぴゅー」と……

 男の乳首から出てくる、白いミルクのシャワーの中で勝ち誇ったように胸を張るガチホモ王だった。


 パンパンの筋肉で張り裂けそうになっているのが分かる。

 身長は軽く2メートルを超えている。おそらく体重では俺の3倍以上あるだろう。


 だから、なんだ――


 変態?

 ガチホモ?

 関係ない。

 コイツを、ぶちのめして、俺はシャラートを救い出す。


「ふッ、ふッ、ふッ、漲(みなぎ)る―― この男たちの出すミルクが、俺を最強のガチホモにするのだぁぁ!」


 ぐわ、っとぶっとい腕を振り上げ、ガチホモ王・アーヴェが叫ぶ。

 狂気に濁った目が俺を見つめてくる。


 しかし、この触手の男たち――

 もしかして、助けなきゃいけない王族ってのも、この触手に絡まれているのか?

 だとすると、もう助けるの無理じゃねーか?

 俺は、視界の隅で、「父乳」というミルクを「ぴゅ―ぴゅー」と飛ばし続ける男たちを見た。

 全ての者が、乳首の周囲に触手が巻きつき、強制的に搾乳されているような状態だ。


 男が、触手に強制搾乳――


 以前の俺であれば、その光景だけで、精神が折れた。

 しかし、今の俺は折れない。

 もう、一押しでポッキリいくかもしれないけど、踏ん張る。


「ふふ、気なるか―― この『男色孕ませ牧場』がぁぁ!! ははは! ガチ※ホモ王国の魔法科学の粋! 人類を新たなステージに上げる壮大な実験よ!」


「実験だと?」


 くそ、聞きたくもないのに、勢いでつい反応してしまった。俺はちょっと後悔する。


「なぜ、人は男同士で孕めないのか…… 神はなぜ、そのように人類を不完全に作り上げたのか…… 穢れた女という存在……」


 グッと拳を握りしめ、顔を天に向けたガチホモ王。

 そして、胸の内の思いをぶちまけるようなバリトンボイスが響く。

 ガチホモ王の無駄にいい声だった。


「聞きたくもねェ! ブッ倒してやる」


 俺は魔力回路の回転数を上げる。唸りを上げ、魔力が生み出される。それを全身の筋肉組織に流し込んでいく。

 これ以上流すと、筋肉がブチブチと音を立てて切れそうになる限界までだ。

 

「ふふふはははははぁ! いいぞ! その反抗的で強気な目。それを屈服させ、俺が貫き、俺の子を孕んでもらうのだぁぁぁ!!」


「死ね! ぶち殺してやる!」


 俺はグッと拳を固める。

 この尖った頭のキ〇ガイ・ガチホモ野郎はまず一発ぶん殴らなきゃ気がすまねぇぞ。


「ひゃはははは!! オマエこそ、ベッドの上で、『死んじゃう! らめぇ! もっと、ガンガン突き上げて欲しいのぉぉ!』と言わせてやるのだ! この俺の槍で貫き、歓喜の声を上げ、アヘ顔になって、パンパンになって孕むのだぁぁ! トロトロにしてやるのだぁぁぁ~!!」


 ガチホモ王は、ベロベロと異様に長い舌を振り回すように出した。


『なんか…… すごいわ』

 

 サラ-ム。てめぇ、なにワクワクしてんだよ!

 どっちの味方だ!

 叩きだして、アンビリカルケーブル叩き斬ってやるぞ。


「誰がてめぇの子を孕むか! 狂ったこと言ってんじゃねーよ!」


「男同士でも孕む――」


「黙れクソが!」


 このド外道の変態野郎がぁぁ。

 しかし、この圧力。ただの変態ガチホモってだけじゃない。

 その戦闘力は、ガチホモ四天王なんかよりはるかに上だ。

 魔力回路が回転している俺にはそれが分かった。


「まずは、我が力を見せてやろう。惚れてもいいぞ――」


 そう言うとガチホモは、パチンと股間を隠していた革バンドのホックをはずす。

 はじけ飛ぶ革バンド。

 そして、眩い光が走った。

 

「我が力! 見よ! 『魔槍! ゲイ・エレクティオン!!』」

 

 ビリビリとしたバリトンボイスが閃光と同時に響いた。

 

「ぬおッ! なんだ、てめぇ!!」

 

 俺は顔をガードして、間合いを空けた。

 なにかの攻撃か――


 徐々に光が弱くなる。周囲が元の薄暗い空間となっていく。

 確かに、薄暗い――

 しかし、その悪夢のような超絶ド変態を見るには十分だった。

 ド変態の特盛。

 悪夢を煮詰めて、結晶化したかのような存在がそこに出現していた。


「てめぇも! ガチホモリングを……」


「量産品ではない。俺の特注品よ……」


 それは巨大な槍だ。

 このガチ※ホモ王国の奴らは、ブロンズ、シルバー、ゴールドと股間に槍を装備している。

 それは、ガチホモリングという魔道具によって生成される槍だ。

 俺たちの倒したゴールドリングのガチホモで、2メートルの槍を作る。

 奴らは槍で合体して攻撃してきたのだ。


 しかし、このガチホモ王、アヴェーの槍は桁が違っていた。

 2メートルを超えるコイツの身長の軽く倍以上ある槍だ。

 4メートルを超える。

 しかも、太さが電信柱だった。


「どうした? 精霊マスター・アイン、顔色が悪いではないか? んん~?」


 穂先が鋭く尖っている。

 黒光りした凶悪で、濡れたようにヌメヌメ、テラテラした槍だ。

 

「この槍で、貫く。オマエを貫くのだ――」


「てめぇ……」


「安心しろ。殺さぬ。この『魔槍! ゲイ・エレクティオン』は殺さず、相手を貫ける。そして相手を孕ませるのだ――」


 狂っていると思っていたが。マジであり得ないレベルで狂ってやがる。

 やはり、コイツはここで殺すべきか。

 俺の中で、恐怖と殺意がまぜこぜになった感情が発生する。

  

「この『ゲイ・エレクティオン』と、『男色孕ませ牧場』――

 それにより、我らは神を超えた。古き人類の軛を打ち破ったのだよ。アインよ~」


「男色孕ませ牧場」という名の、触手に絡まれている大量の男たち。

 飛ばしていたミルクの勢いが、いつの間にかかなり衰えていた。

 もはや、乳首からダラダラとその肌の上に垂れ流しのように出ているだけだった。

 噴き出している者はいなかった。


 ガチホモ王は、一歩前に進み出た。

 床に溜まった、ヌルヌルとしたミルクがぬちゃ、っとした音を立てる。

 寒気のする音だった。


 コイツを攻撃するには、この「父乳」で濡れた床を踏まねばらなぬという現実に気が付いた俺。

 これは、滑るのか…… つーか、気持ち悪い…… すげぇ、気持ち悪い。

 床は広い範囲でべちょべちょになっている。


「がはははあああああああ!!! ああああああ!!!!」


 突然の悲鳴だった。

 触手に捕えられた、男の1人が甲高い悲鳴を上げた。

 

「なんだッ! あれ……」


『なにあれ? お腹が大きくなってるわ――』

 

 サラームも不思議そうな声を俺の中であげた。


「おお!! 運がいいぞ。精霊マスター・アイン。人類の新たなステージの目撃者となるのだ。いいか! これが我らの到達した、新人類の新たなステージなのだ!」


 ガチホモ王がビシッと『男色孕ませ牧場』を指さす。

 絶叫していた男の腹が異常に膨れ上がっていた。

 まさに、妊婦のような状態だ。


 陸の上にあげられた魚のようにビクンビクンと体を痙攣させている。

 しかし、両手足ががっちりと触手に絡まれ、それ以上動くことができくなっていた。


 更なる悪夢は唐突にやってきた。


 弾ける様な音とともに、パンパンになっていた男の腹が爆ぜた。

 血まみれの肉と内臓が飛び散る。

 びちゃびちゃと湿った音をたて、床にたまった白い沼のようなミルクの中に落下する血と肉と臓物。


「な、なんだ…… これはッ!」


「ほう―― 可愛い我が子の誕生か……」


 ガチホモ王がつぶやく。


「キィィィィィーーー!!」

 

 腹が裂け、血と内臓をぶら下げている死体。

 手足だけが触手に絡め取られている。


 その死体に、そいつがいた。

 

「キヒャァァァァ!!!!」


「ふふ、頼もしい産声よ……」


「なんだと…… なんだよ、あれは……」


 触手の上をまるで、クモの巣の上を移動するクモのようにカサカサと動く小さな物体。

 

 尖った頭。

 小さいが股間に映えた槍。

 狂気に満ちた光りの双眸。

 そして血まみれ。

 

 それは、異形――

 いや、ガチホモ王を三頭身にしたかのような生き物。

 そいつが、触手の上を自由自在に動き回っていた。


「ギャハハァァァ!!」


 禍々しい獣のような声を上げる。

 自力で、へその緒を引きちぎった。

 そして、血まみれとなった死体の乳首に吸い付く、クリチャー。

 精神に異常のきたした人間の悪夢のような光景。

 真っ赤な舌を伸ばし、自分を生み落とし、命を落とした男の乳を吸い続けている。


 気が付くと、触手の隙間から、ワサワサと同じようなクリチャーたちが湧きだしてきた。何匹いるんだ……


「ぎゃぁぁぁ!! 乳を、乳を吸われるぅぅ!!」


 触手に絡まっている男の中で、まだ声を出せる自我の残っている者がいたようだ。

 悲鳴が聞こえた。

 しかし、ほとんどの男たちは、どんよりした目で、クリチャーたちに乳を吸われていた。


「見たか! これが、人類の新たなるステージ…… 虚弱な男は、俺の子を孕むと1回の出産で死ぬ――」


 狂ったバリトンボイスが響く。

 そして、ウネウネと動く触手と、クリチャーたちの乳の吸う音が静かに響いている。

 その空間にあるのは、まさに純粋なまじりっけなしの悪夢だった。


「精霊マスターのアインよ。オマエなら、何度でも俺の子を孕んで、生める! さぁぁ! 孕ませてやる! 孕ませて、触手に絡めるのだぁぁ!」


 バリトンの絶叫。

 そして、爆発するように俺に突っ込んでくるガチホモ。

 巨大な槍の切っ先が俺の方を向いていた。

 

「どこでもいい! この槍をぶち込んだ男は、俺の子を孕むのだ! そして、孕んだ後は、触手だ! 『男色孕ませ牧場』で出産準備をするのだぁぁ!!」


 ベロを振り回し、涎を垂れ流しなら吹っ飛ぶように突撃をかますガチホモ王。

 生臭い匂いを残し、俺の顔スレスレを巨大な槍が突き抜けていく。


 俺は、かわした。

 この狂った突撃と槍をかわしていた。

 思い切り踏み込む俺。

 魔力回路で生み出された魔力が、筋肉に流れ込み、弾けそうになる。


 前傾姿勢となっているガチホモの顔は殴るのに都合のいい位置にある。

 そのまま、全力だ。全力で右拳を突き出す。

 拳に空気が粘ってくるような感覚だ。

 時間の経過が妙にゆっくりしている気がした。


 思えば、俺が本気で人をぶん殴ったのは、これが最初なのかもしれない。


 めきゃッ


 鈍く湿った音がした。

 拳に重みと衝撃を感じる。

 そして、電撃が頭に突き抜けるような衝撃が拳からやってくる。

 構わなかった。いっきに振りぬく。


「ぬごぉぉぉ!!」


 のけ反るようにして、ガチホモ王が吹っ飛んで行った。

 反対側の壁に激突して、凄まじい音を立てる。

 砲弾がコンクリートをぶち抜いた時の音みたいだ。

 

 薄闇の中を、粉じんが舞いあがったのが分かった。

 

『サラーム!! やるぞ!』

『いいわ! アイン!』


 俺は一気に魔力をサラームに流し込む。

 空間すら切断し捻じ曲げるコイツの魔法威力。

 それを人間に叩きこんでやる。


「極大閃風斬!! 死ねぇ!」


 もう、話しなんて聞きたくもねぇ。

 シャラートの居場所らしき情報は得た。もう、殺す。

 コイツを殺して、この狂った場所から、早く出るんだ。

 そして、シャラートを救う。

 それしかない。


 粉じんの中、俺の魔法が着弾した。

 同時に、目を開けておくのが不可能な閃光が空間を支配する。

 続いて、衝撃波のような空気の塊が俺の身体にぶち当たる。


 何もかも、吹き飛ばす。

 この魔法が着弾すれば、もはや空間そのものが消し飛ぶ。

 ガチホモなど、細胞はおろか、分子も原子も残らん。


 部屋が明るくなっていた。

 壁が吹き飛んで外の光が入って来たからだ。

 石やレンガの融解している独特の匂いと熱気が風に乗って流れてきた。

 

「くそが、戻るか――」


 俺はその言葉を口にしていた。

 もはや戦いは終わっていたと思っていた。

 いつもそうだったからだ。


「どこへ行くのだぁぁぁ~ んん~、俺の槍で体の中をパンパンにして孕ませてないではないか? これから孕ませるのだぁぁ~ ひゃはいひひおぎぃひぃひひひひひぃぃぃ~!!」


 歪んだ精神の生み出す笑い声が響いた。

 俺は振り向く。

 ブチ抜かれた壁から差し込む逆光の中、その巨体がシルエットで見えた。


「ぶはぁぁぁ~」


 ガチホモ王は、口から大量の煙を吐いた。

 ブスブスとその身は焦げているように見える。

 しかし、そこに立っている。

 

「不死身か…… オマエも……」


 俺の口からその言葉が漏れた。


『アイン――』


 サラームが真剣な声で俺に話かけてきた。


『なんだ?』


『本気でやらないとヤバい相手かもしれないわ』


『分かってるが……』


 今の攻撃は俺の全力じゃない。

 確かにそうだ。

 しかし、この場所で使えるとすれば、限界に近い攻撃を行ったはずだ。

 それだけの魔力は注ぎ込んだはずだ。


 もし、ここで俺の魔力を100%解放して、今以上の攻撃をしたら、この城が持たない。

 いや、パンゲア城のときのような大参事なってしまう。

 サラーム言う「本気」を出した場合、下の階にいるライサ、エロリィ、千葉、そして母親のルサーナまで巻き込む。

 俺の力は、こういう場所で使うには強すぎるんだ。


 どうする……

 俺は、一歩後ろに下がった。

 無意識に、下がっていた。

 歯を食いしばる。下がるなと自分に言い聞かせる。


『あの赤毛の女と同じ戦い方をするしかないわ』

『そうか……』


 サラームの言ったことは俺も考えていた。

 直接、俺の筋肉に魔力を流し込み、その力を奴に叩きこむ。

 ライサの戦い方を真似た方法だ。

 最初に、奴をぶん殴った方法だ。


 しかし……


「こいよ、何度でもぶん殴ってやる」


 俺はシルエットになっているガチホモ王に言った。


「ほう―― その手でか?」


 俺の右手は指がねじ曲がり、バラバラの方向を向いていた。

 拳が、衝撃に耐えられなかった。

 骨が飛び出ている指もあった。

 

『回復の水を』

『いらん』


 サラームの言葉を俺は止める。

 回復の水はどんな傷でも回復させる。

 腕が叩き斬られてもくっつけることができる。

 しかし、それは時間がかかるんだ。

 闘いの中で、使って即回復できるものじゃない。

 今までの戦いのときだってそうだ。

 これで回復している間は戦闘不能といっていい。

 少なくとも、右腕は使えない。


『流れ込む、魔力のせいか、痛みはない。このまま行く』

『分かったわ』


 ようやく、逆光に目が慣れてきた。

 ガチホモ王は俺をジッと見つめていた。

 そして、その口が不意に動く。


「四天王よ!! 決戦だ! 行くぞ! 五身合体ガチホモ?(ふぁいぶ)だぁぁ!!」


 バリトンボイスが最終決戦の場に響いた。

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