第四八話:俺の異世界ハーレムの婚約者と先生が修羅場過ぎる

 先生は俺の頭を白く艶めかしい腕で抱え込んでいた。

 俺の口には大量の魔素だか、魔力だか、分けの分からない物が先生から流れ込んできている。

 意識が遠のく。エロリィともシャラートともライサとも違う。

 圧倒的な力の奔流が背骨を突き抜ける感じだ。

 

 まあ、味と臭いが最悪なのは変わらなかったが。


『アイン! 魔力回路が7個になったわ。なにこれ?』


『俺に聞かれても分からん!』


 俺の体の奥底、尾てい骨の更に奥深い位置から重低音の振動が響いてくるようだった。

 凄まじいエネルギーを生み出すパワーユニットが俺の体の中でフル稼働しているような感覚がある。


『あはははは!! 凄いわ! アイン、魔力がすっごい』


『そうか! サラーム、この状況なんとかできるか?』


『殺すのね? この淫売殺せばいいわ。そうすればこの「ヤリ部屋」から出られるけど――』


 精霊というよりもはやその言葉は鬼畜。言葉だけでなく、本当にやってしまうから本当に最悪。

 

『いや、殺さず穏便に済ます方法を! 殺すのはダメだ!』


『なに? 殺さないでハメるの? ヤルの? 殺してからでもハメられるわよ?』


 もはやドンビキ以外のなにもないセリフを吐く精霊様。


『そんなこと言ってねーよ! どんだけ鬼畜だよ! とにかく、ここから出るんだ!』


『いいけど、本当にいいの?』


『早くしろ!』


『はーい』


「パーン」と風船が弾けるような音が耳を打った。


 一瞬で視界が切り替わる。

 無限に広がる大宇宙だ。星がきらめき、美しい青い星が浮かんでいる。

 俺は、物理結果につつまれ宇宙に浮かぶパンゲア城まで戻ったようだ。


(ああん~ 天成君ってキスが上手なのね。やっぱり、あの娘たちと練習してるからかしら、うふ)


『ちょぉぉぉ!! 先生がチュウしたまんまなんだけどぉぉ! しかも、素っ裸なんだけどぉぉぉ!!』


 俺は女教師と真っ裸でパンゲア城に戻ってきたようだ……

 俺の口はねっとりとした年上の女教師に塞がれていた。

 もう、魔素とか諸々は流れ込んでいなかったが、ベロが侵入してきて俺のベロに絡みつく。

 人外の大きさと柔らかさをもつマシュマロのようなおっぱいが俺の胸に密着。

 先生は俺の首に手を回してしなだれかかっている。


 俺は、眼球だけを横にゆっくりと動かした。

 いたよ……

 やばいよぉぉ……

 

 メガネで黒髪のクールビューティのお姉様が、呆然とこっちを見ていらっしゃるんだけど。

 緋色の髪の超絶美少女様が、釣り目気味の真紅の瞳をこっちに向けて固まっていらっしゃいますよ。

 金髪ツインテールの北欧の妖精がプルプル震えながら、碧い瞳をロックオンしているですけどぉ。


「チュポーン」と音を立てて、俺は先生の唇から離れた。さらに体も離れる。


「アイン…… おま…… なにやらかしてんだ?」

 

 エメラルドグリーンの長髪を揺らしながら、エルフの美少女が言った。

 俺の心の友であり、今は婚約者の1人である千葉次郎(仮)だった。

 

「違うんだ! 千葉! これは違う! いいか! 聞け! 聞いてくれ!」


「アイン様は婚約者様を全部切り捨て、この女性を選んだということですな。ななかなか、やりますな」


 セバスチャンが無表情のまま、鉄槌のような言葉を吐きだす。 

 

「アホウか! 違うんだ! いいかこれはだな……」


 ダメだぁぁぁああああああああ!!

 うかばねぇ! 言いわけがうかばねぇ!

 人外となった担任の女教師と裸で密着してチュウしている現場を婚約者に見られた場合の言いわけなど思いつかーん!


 殺される。殺される。殺される……

 俺の脳裏に、母のルサーナにぼろ屑のようにされたシュバインの映像が蘇る。

 いやもう、あれ以上の惨劇だよ。だってこっちは3人分だよ――


「アイン―― これは…… 嘘ですよね? 私を捨てるのですか?」


 ゆらりと音も立てずシャラートが俺に近づく。

 長い黒髪が宇宙空間を背景に揺れる。

 切れ長の綺麗な瞳が真っ直ぐに俺を見つめている――


「ああああ、シャラート! 違うんだ。これは! これは。これは……」


 ダメだ! 頭が回転しねーよ。どーすんだよぉぉ!

 ガクガクと震えながら俺は言った。


「アイン、もう私はいらないの? ダメなの? 私が嫌い?」


 ルビーの瞳がすがりつくように俺を見た。いつものはち切れそうなオーラ-が全くない。

 あのライサが不安で瞳をいっぱいにして、俺を見つめていた。


「もうね、もうね、もうね! アインのバカ! バカ! バカ!」

 

 碧い瞳には今にもあふれ出しそうな涙が溜まっていた。

 エロリィは、プルプルと細く小さい体を震わせていた。


「あぎゃーす!! あああああああああああああーーん!! アインがぁぁ! アインが捨てたのよ! 私をゴミのように捨てたのぉぉ! 年増の阿婆擦(あばず)れの人外のパンスケが好きなのよぉぉ!」


 エロリィがその場に崩れ落ちて、大泣きを始めた。


「ああああ! エロリィ! 泣くな! 違うんだこれは……」


「アイン―― 私じゃダメなんだ…… そうなんだ…… あはッ……」


 どんよりとした言葉を吐くライサ。力なく弛緩した笑み。

 太陽のような輝きをもった超絶美少女がどんよりとした表情で俺を見ている。

 瞳の輝きが完全に消失。焦点もあってない。

 その瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。一筋――

 ツーーと頬を伝わり流れる涙。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁ…… あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 私が嫌いなんだぁぁぁ! アインは私がぁぁぁ! 振られたぁぁぁ! 強いアインのお嫁さんになりたかったのにぃぃぃ! あああああああああーーん!!」


 まるで、決壊したかのようにライサが号泣した。ビリビリと空気が震える。

 音響兵器のような哭き声で鼓膜が破壊されそうだった。三半規管までダメージを受けそうだった。


「殺します―― その商売女を殺します。皆殺しです―― 全部殺します――」


 血の底、深淵の闇から響くような声音だった。シャラートだ。

 両手にチャクラムを持った腕をダラーンと前に垂らしている。

 ふらふらと酔ったような歩みで、俺に近づいてきている。


 血だ――

 その黒い瞳の目からは、血涙を流していた。

 血の涙を流しながら、超一級の暗殺者が皆殺しを決意していた。


「あがぁぁぁ!! 違うんだ! シャラート! これは誤解なんだ! あれだ! なんだ! 魔法だ! 魔法の儀式的ななにか! そうそれ! ね! だから―― ほら、俺、天才だからぁぁぁ!」


「アインが私を捨てても、私はアインを諦めません。皆殺しです」


「あああ、シャラート……」


「その商売女を殺して、皆殺しです。世界には私とアインしか必要ないです。それでも――」


 ブツブツと呪詛のような言葉を吐きながら、シャラートは歩を進める。

 もはやその黒い瞳は別次元に焦点が合っていた。


「それでも?」


「それでも、アインが手に入らぬなら、アインを殺して、私も死にます―― 」


 重すぎるぅぅぅぅ!!


 やべぇぇぇぇ、痴女で暗殺者だと思っていたけど、サイコだぁぁ! ちょっとそうかなぁと思っていたけど!


 俺はシャラートの精神性のヤバさを再認識した。


 もはやどんな言葉も通用しそうになかった。視線も意識も完全に別次元に吹っ飛んでいる。

 

『なにこのメガネ? 殺す気でくるなら、殺してやるわ―― 当方に迎撃の準備あり!』


『アホウか! てめぇ! 羽虫! なんとかしろ!』


『この精霊王を羽虫とか……、言うわねアイン! この場で全員皆殺しにするわ。 命ある物の脆さを教えてあげるわ! 知った時は死んでるけど! ひゃはははは!』


 どす黒い精神性を持った俺の中の引きこもり精霊が迎撃準備を完了させる。


 シャラートはそんな状況など関係なく、ゆらゆらとこっちに向かって進んでいる。

 

 ダメだ! シャラートこっちにくるな!


 これ以上接近すると、俺の中の凶悪な何かが、オマエを殺しにやってくる。こいつを解放してしまったら、俺にはどうにもできん!


「ああん、天成君たら、婚約者さんたちを泣かせて、なんて悪い生徒さんなのかしら…… 男の子は、女の子には優しくしなきゃダメなのよ。もっと、女の子のについて、教えてあげないとだめかしら? うふふ」


 俺の婚約者を泣かせた元凶がなんか言った――


 先生はいつの間にか、ボンテージ姿に戻っていた。

 あ、俺もだ。俺も服が再生されていた。


 しかし、先生は裸とあんまり変わらん。

 異常に露出が多く、下手すると裸以上に淫猥だよその服。


 で、先生は、その核兵器レベルの凶悪ボディをクネクネさせなから、この状況を見ているだけ。 


「チバぁぁぁ! 作戦会議だぁぁ! なんとか! なんとかしてくれぇぇ!」


 最後の頼りは心の友千葉だった。

 異世界に来て、エルフに転生し、俺の第4の婚約者となった千葉だ。出席番号18番の男子生徒。生粋の濃厚ヲタだが頼りになるのだ。


「アイン……」


「千葉……」


 千葉は俺の手をギュッと握った。柔らかく繊細な手だ。


「死ぬときは一緒だ。心の友よ――」


 諦め早いぃぃ!


 シャラートはそんなことは関係なくゆらゆらと蛇行しながら、間合いをつめてくる。


 あれ?

 ちょっと待て……


 千葉の手をとった俺は何かを思い出しそうだった。


 そうだ。この千葉がダンジョンの中でエルフとなったときのことだ。

 あのとき、千葉を連れ帰った俺を見て、この3人は泣き崩れた。

 そうだよ。似たような状況になったんだ……


 しかしだ――


 今、千葉と手をつないでも、おっぱい揉んでも、コイツラは別に怒らない。

 いや、むしろ下手したら、俺よりも千葉を信頼してるくらい千葉を受け入れている――


 なんだ?

 まてよ――


 俺は生還できるほっそい糸を掴んだような気がした。

 もうこれしかないのではないかと思った。


「何事なのですか! シャラート」

 

 そのとき、凛とした声が響いた。

 俺は声の方を振り向いた。


 銀色の長い髪がゆらゆらと揺れている。

 俺の母親のルサーナだった。

 オヤジのシュバインも一緒だった。


 ルサーナはドレスというか、銀色のプレートが着いている戦装束のような物を身に着けていた。

 そして、凄まじく穂先の大きな槍を持っていた。

 俺の記憶にその姿があった。一度夢でみたルサーナの姿だった。


「お義母様――」

 

 シャラートが血涙を流しながら、ルサーナを見た。

 彼女の尋常じゃない雰囲気に、一瞬ビクンと反応するルサーナ。


「義母様ぁぁぁ!! ああああああああああああああああ!! アインが浮気したのよぉぉぉ! もしかしたら、浮気じゃなくて本気なのよぉぉ!」


 ビシッと俺を指さし、怒涛の勢いで泣き叫び、歪んだ情報を伝えるエロリィ。


「義母様! 私が嫌いだって! アインがぁ! アインが言ったぁぁ! 嫌いだからいらないって言ったぁぁ! その売女と赤ちゃん作るってぇぇ!! あああああああああああああーーん」


 泣き叫びながら脳内でデタラメな物語を作っているライサ。俺そんなこと言ってねーよ。


「義母様―― 殺します。全員殺して、アインと2人になります。そうすれば、アインは私を選ぶしかないのです。それで選ばなければ、アインを殺して私も死ぬのです――」


 ドロドロと病んだ言葉を吐き続けるシャラート。


「あらあら、天成君の婚約者さんたちは、天成君のことが本当に好きなのね。でも、先生も負けないの、うふ。大人の女の良さを教えてあげる。ううん、私が若い男の子から―― いいえ、天成君から離れなくなてしまうかも…… ああん、罪な生徒だわ。教師の私を牝にして――」


 更に狂ったセリフを垂れ流す池内先生。


 修羅場だった。

 この修羅場に、最強無双の俺の母親である「銀髪の竜槍姫」ルサーナの参戦であった。


「アイン―― これは、いったいなんなのかしら?」


 ルサーナは静かに俺にそう言ったのであった。

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