第十七話:ダンジョン冒険とか一般人には無理じゃね?
俺たちは、クラスまるごとダンジョンに転移した。
全員が、この教室まるごと異世界に転移したことを理解するまで結構時間がかかった。
この説明のため、俺が異世界出身であることは明らかにせざるを得なかった。
別に、もうどうもいいといえば、どうもでも良かった。
まずは、ここから生きて出られるかどうかが問題だ。
教室には俺を含めた生徒が41人。
魔族と融合してしまった池内先生。
そして、異世界から俺とオヤジを探しに来た4人。
母親のルサーナ、異母姉で婚約者のシャラート、それに金髪ツインテールのエロリィと緋色の長髪美少女ライサだった。
あとは、俺のオヤジのシュバインだ。
天井に突き刺さっていた俺のオヤジは下ろされた後、凄まじい折檻を喰らった。
無慈悲の拳と蹴りが唸りを上げて、ダース単位でシュバインの体に突き刺さった。
ルサーナの打撃は、鉈の重さと剃刀の切れ味を持っていた。
俺の母親には、武器なんかいらないじゃないか? と、俺は思った。
「さすがお義母様です」とか、シャラートは言っていたし。
そこで、血まみれになっているのは、キミにとっても実の父だよね?
そして、異世界からやってきた2人の美少女。一人は、幼女といった方がいいような気もする。
地面すれすれまである長い金髪ツインテールの超絶美形の幼女だった。
ちょっと現実離れした可憐さをもった存在だった。
すべすべの白い肌に、深い碧の瞳。沈み込むたびに憂いのある影が出来る長いまつ毛。それも金色。
ニート時代の俺だったら、ガン見で記憶に焼き付け、色々な妄想に活用するレベルだ。
いや、今でもやろうと思えばやるけど。
彼女は、神聖ロリコーン王国の王女だった。エロリィ・ロリコーンだ。
この国では、代々古代魔法文明の「禁呪」を研究しており、王家秘伝の魔法があるらしい。
それは、精霊の力を使わずに魔法を起動させとのこと。
しかも、時空間転移魔法まで技術体系に組み込まれているという。
彼女の転移魔法で、俺たちを探しに来た。
で、戻るときにサラームが戻りたくないと、妨害を仕掛けた。
結果、ダンジョンに転移してしまったという訳だ。
もう一人の美少女もナグール王国という、パンゲア王国の衛星王国の王女だった。
炎のような緋色の髪。左右非対称の髪型で、短い方は肩のラインでスッパリ。長い方は腰の下まで伸びている。
これまた、とんでもない美少女だった。同年代だと思われるクラスの女子ですら、ボーーッとなるくらいの美貌。
シャラートが「静」というなら、「動」という感じのタイプ。ブルーに対するレッドというかそんな感じだ。
小麦色の肌に、笑うと牙のような八重歯が見える。
釣り目気味の大きな瞳もルビーのような色をしていた。
「で、お母様」
「ダメよ、アイン、ママって呼んで」
ツンと俺のおでこを突くルサーナ。
「はい、ママ」
正座して背筋を伸ばして答える俺。
クラスの奴らの視線が痛いことは痛いが、耐えられない程ではない。
普通であれば、吊し上げでリンチされる。
吊し上げを喰らわないのは、このメンバーの戦闘力を目の当たりにしているからだ。
特に、俺を溺愛しているルサーナの存在がでかい。
1年で生徒会長を務めていた俺のオヤジがぼろ屑のようになったのを目撃している。
俺のオヤジの身体能力の異常さは国民的な常識だ。
そのオヤジを蹂躙する俺のママは恐怖の対象だった。
とにかく、俺を害することは、イコール死を意味していることをクラスの奴らは理解していた。
すげぇ、親の七光りだ。
で、なんか人間以外の別の生命体になってしまった池内真央先生。
どうやら、転移魔法がバグった衝撃で、このダンジョンに棲む魔族と融合してしまったらしい。
栗毛色の髪の毛は、キンキンの金髪に変化してウェイブを描いている。
側頭部からうねるように角が生えて、切っ先を正面に向けている。
服は黒のエナメルっぽいボンテージになっている。
巨大なおっぱいは健在。そして、先っちょが隠れているだけ。へそからなにから丸出しである。
しかも、顔と腕と足には複雑な紋様が刻まれている。
で、背中には小さな羽が生えている。コウモリみたいなの。
パタパタ動いているし。完全に人間やめてらっしゃいます。俺のせいじゃねーけどね。
「あらあら、どうしたらいいのかしら? 私ったら、こんなはしたない格好になって、ダメよ、私は教師なのに(ああん、若い男の子の視線が突き刺さってくるの、いいの? だって、私はアナタたちの先生なのよ。ああダメ、私は淫らな女だわ、こうやって女は堕ちていくのね)」
池内真央先生は、外見は変わっても中身はそのままだった。
この姿になったせいで、ファンクラブの人数が増加したのが不幸中の幸いなのかもしれない。
「で、オヤジの転移魔法は使えないのか?」
「無理だな。12年間使ってないので、魔力回路が動かなくなった。ガタガタ」
日本生活12でオヤジは完全に魔力を無くしていた。
雷鳴の勇者は錆まくりだった。
リハビリすれば戻ると言っているが、今使えなきゃ意味がない。
「エロリィちゃんの魔法は?」
「ガキ扱いするんじゃないわよぉぉ! 殺すわよ! もうね、この場所の座標情報なしに、どうやって飛ぶのよ? アホウなの?」
金髪ツインテールの狂犬だった。
見た目は可憐で可愛い「北欧の妖精」という感じだが、毒舌と態度の悪さは凄まじいものがあった。本当に王女なのか?
魔法を使うにも、ここの正確な場所が分からないのである。全盛期のオヤジならそれでも飛べたらしいが、今は無理。
ただ、シャラートが調べた範囲で、使用されている文字や紋様から、パンゲア大陸内であろということは推測できていた。
あと、俺の転移はできない。というか、サラームは絶対に俺に協力しない。
『今日は「どう考えても俺の妹が陸軍軍医中将なのは変だ! 第2期」の放送があるのにぃぃぃ!!』
『そんなの見るのはお前くらいだ。サラーム』
『デスる気なの! 私の妹軍医中将様をデスるのね!』
精霊様は、アニメの新番組が見れなくなたことで激オコだった。
サラームは日本に帰りたくて仕方ないのだ。
というわけで、協力は現状無理だった。
逆に自力で日本に帰ろうともしないところからみて、転移魔法はあまり得意ではないのだろう。
問題は山積みなのは分かっていた。だけど、俺にはなにもできない。
「本日、1直目の行動予定表です。1班が脱出経路の探索。6班が食料確保に出ます。残りは教室で待機です」
シャラートが言った。
いつの間にか、このクラスのメンバーを仕切っているのは彼女になっていた。
形がよく大きなおっぱい。そして、クールな外見でファンを信者を増やしつつあった。意外に女生徒に人気があった。
俺たちはダンジョンを脱出するため、手分けして動くこことになった。1日を3つに分割。
順番に、食糧の確保と脱出経路の探索を行っている。
安全のため、異世界メンバーは各班最低1人は配置されている。
1班にシャラート、2班にシュバイン、3班がルサーナ、4班がライサ、5班がエロリィ、6班が俺だった。
俺と一緒の班になりたいと、ルサーナが駄々をこねたが何とか説得した。
俺と同じ班には、ヲタク仲間の千葉次郎、文芸部の市川、園芸部の松戸、生物部の九十九の男子4人、剣道部の船橋、陸上部の津田沼、帰宅部の市原の女子3人がメンバーだ。
はっきり言って、最弱の班だ。
まず、俺が戦力にならん。だってサラームがへそ曲げて動いてくれないから。
はっきり言って、この体の身体能力は結構高い。さすがに超Sクラスの遺伝子をもらっただけのことはあった。
でも、俺は戦った経験がゼロだ。特に、接近戦闘などできるわけがない。
男子はヲタの千葉を筆頭に、全員文化部。
「ザ・いじめられっ子」というチーム名をつけたいくらいだ。まあ、ウチの高校ではいじめはなかったが。
女子はよく分からない。船橋奈津美という女子が剣道部であるが、強いという話は聞いたことはない。
あとは、帰宅部と陸上部だ。
班のメンバーは、一応武装している。
教室にあった机の脚。軟鉄のパイプを加工したものだ。
それを引きちぎって、槍のようにして、武装している。
ライサが軽々と引きちぎってくれた。
そんなもので、モンスターが倒せるのか? 食料が確保できるのか、さっぱり分からん。
人間なら十分殺せそうだ。むしろ、俺はこんなものを他人が持っている方が怖かった。
俺の人間不信はまだ完治していない。
「天成、食料ってなにがいるんだよ?」
ヲタクの千葉が訊いてきた。
俺のダンジョンの経験は5歳のとき1回だけ。
しかも、シャラートの後をトコトコついていっただけなのだ。
正直言ってよく分からん。
知っていることで答えるしかない。
「コボルトみたいなのとか、オークみたいなのだな。あとキノコみたいなの」
「食えるのか」
「まずいが食えないことはないな」
「そうかぁ」
なんか、コイツ、うきうきしてるんじゃね?
まあ、俺も最初、転生したときはウキウキしたし、気持ちは分からないでもないけどね。
異世界、そんな甘いもんじゃないから。
俺から言わせてもらうけど。
「あ~ 結構でかいから油断できないぞ」
「でかいのか?」
「ああ、だいたい、人間と同じくらいかなぁ……」
話をしていて、逆にこっちが食われるんじゃないかという気もしてきた。
赤ちゃんのときは母乳を吸ってればお腹いっぱいになったのに、今は面倒だ。
ああ、ルサーナはもう、母乳でないのかな……
池内先生から母乳が出たらいいのに……
「天成君――」
「なに?」
帰宅部の市原恵津子という女子だ。いつも隅っこからじっと見張っているような雰囲気のある地味な女の子だった。
真っ青な顔で、こっちを顔を覗くように見つめている。
「私たち帰れるの?」
「しらん」
市原がピタッと足を止めた。
そして座り込んだ。
「わあああああああああああああああああああああああん!! お母---さん!!」
いきなり泣き出した。
座り込んで大泣きだ。
「い、い、い、あああああああああ!!!」
「ああああああああああああああああああ」
残りの女子二人も泣きだした。座り込んでしまった。
つーか、まだ教室から100メートルも進んでないと思うが。
「なあ…… 天成、帰ろうぜ」
生物部の九十九正也が言った。
神経質そうな顔をした奴だ。同じクラスにいたが、ほとんど話をしたことがない。
「帰ってどすーんだよ? 食料は?」
「無理だよ。こんな棒で勝てるわけがない」
「そうか?」
「いいか、訓練もされてない人間が野生の動物に勝てるわけがない」
「ほう」
「人の戦闘力は子猫にも劣るんだ」
「生物学者の主張か?」
「某空手家が言っていた」
『飛鳥拳?』
『いや、本体の方だろ』
サラートが話題にいきなり食いついてきた。
12年間の日本生活で守備範囲が全盛期のマリーンズの小坂並みになっている。
サラーム・ゾーンだ。
「クソどもが! 帰れ! この日常という軛に縛られた精神の奴隷どもが! 己の惰弱な常識に縛られ、日常という檻の中で、自分を家畜としいる凡俗がぁぁ!! この状況に、萌えない奴は死ね。死んでしまえ!」
絶叫する千葉だった。
口から唾を飛ばし、ブンブンと鉄パイプ状の武器を振り回し熱弁をふるう。
「いいか! ここは異世界なんだ! 俺たちは選ばれたのだ! このような幸運があるか? ああ? クソのような閉塞された日常からの飛翔! このダンジョンの試練を超えた先に、虹の橋があるのだぁぁ!!」
『それはト〇トンか?』
『サラーム、突っ込みはいらん』
「んじゃ、俺ら帰るよ――」
九十九が言った。
泣いている女子を支えて、教室に向かって歩き出した。
それを2人きりで見つめる、俺と千葉のヲタクツートップ。
後姿がだんだん小さくなっていく。
どーすんだよこれ?
おい、2人でどーすんの?
俺が5歳のときも、確かに2人だったけどさ。
あのときは、シャラートが超絶的に強かったわけだしね。
今はダメだよ?
俺大したことないよ。マジで。
「よし! 行くぞ! 天成!」
クイッとメガネを持ち上げ、千葉次郎は言った。
どこから、その自信がでてくる?
俺も、一緒に帰ってもいいかな? 本当にそう言いたいよ。
テンションあがりまくりのヲタクの後をトボトボとついて行く俺だった。
ダンジョンはどこまでも薄暗く、ジメジメしていた。
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