第十五話:金髪ツインテールの禁呪使い
「あ~、うるさいですね。静かにしなさいと言っているのですが……」
「もうね、面倒なのよぉぉ。全部殺すのよ、私の天才のプリンセス様の禁呪を喰らわせるのよ」
「あはッ、んじゃ、全員ぶっ殺すかぁ、楽しいな、おい。命を蹂躙するってのは、最高の娯楽だよね」
生徒のパニックの声の中、とんでもない話が聞こえてくる。
「ああん、だめよ、だめなの。皆さん静かにして。ここは大人の女の…… 先生の言うことに従って欲しいの。そうね、そうよ、そこなの、こんなことになったら、机の下に一度隠れるの。ううん、これは安全のためなの。ほら、ちゃんとしないと(ああ、どうしましょう。大人の女として、教師としてきちんと、導いてあげないと、ダメになってしまう…… ああ、でも、私も、こんなにドキドキしているわ。どうしたのから、私…… ああ、おかしくなってしまいそう)」
プルンプルンとその巨大なおっぱいをゆらしながら、池内真央先生は言った。
聞いている方が、おかしくなってしまいそうな池内真央先生の言葉で、多くの生徒は机の下に隠れた。
俺は隠れなかった。確信があったからだ。
こいつは、俺に関係している。
俺は、立ち上がって、後ろを見た。
粉じんが徐々に晴れてきた。声の通り、そこには3人いた。
俺は息を飲んだ。とんでもねー美少女たちだった。
俺の日本での12年間ではお目にかかったことの無いレベルだった。
というか、俺は日本での12年間も女にあまり縁がなかった。
自分ではイケメンだと思っていたが、どうも一般的な女の好みからは微妙にズレているようなのだ。
まず、銀と黒の真っ二つに分かれた髪の毛。目つきも鋭いというよりは悪い。
あまりにも尖がりすぎた容貌をしていた。
前世のように、キモイと虐げられることはなかったが、モテることもなかった。
しかも、俺の女を見る目が肥えてしまった。
異世界に転生して出会った、母親のルサーナ、婚約者で姉のシャラートと比べてしまう。
彼女たちは、こっちの世界の3次元が敵うレベルじゃない。
だから、俺はこっちの世界でも2次元の世界に夢中だった。仲間もいたし。
『アイン授業潰れたよね! 早退して漫喫いかない? 早売りのジ〇〇プが置いてある店!』
『ダメだろ。多分。帰れないだろ』
『あいつら? 私たちなら簡単に殺せるわよ。殺しちゃおうか?』
『やめろって……』
サラームだ。
サラームは12年前、日本に転移したときに、この世界の「魔素」の少なさで消えてしまいそうになった。
今は、俺の体の中に入ることで存在を維持している。一応、上半身くらいは俺の体から出ることができた。
この12年間で、浴びるようにクールジャパンの洗礼を受け、この精霊様は腐りきったヲタと化した。
ただ、おかげで話が合うので、悪くはなかったが。
「私たちの目的は、シュバイン様とアインを連れ戻すことなのです」
長い黒髪の女の人が言った。20代前半くらいの凄まじい美女だ。
メガネをかけていたが、その奥になる切れ長のキレイな目には覚えがあった。
そして、確かに俺とオヤジの名前を口にした。
「シャラート……」
俺はつぶやいた。
無事だったのか。
俺の異母姉にして、婚約者。俺が赤ちゃんのとき、オムツを換えてもらった、メイドであり、そして護衛で家庭教師……。
11歳の時点で、胸はかなり成長していたが、今やそれは2つの凶器になっていた。池内先生に勝るとも劣らないおっぱいだった。
『み…… 峰〇二子ね…… もしくは、「彼女は〇リケート」だわ』
前者はともかく、伝説の超絶異常巨乳漫画の名前まで上げるサラーム。今は絶版だ。
体のラインがくっきりと浮かび上がる服。胸の部分が大きく開いて、谷間が丸見え。
大きく形が抜群のおっぱいがそこにあった。
スカートは短く、スラリとした生脚が伸びている。
シャラートだ。間違いない。俺の脳内に会った彼女の未来予想図から殆どずれていない。
「アイン…… ですね?」
そのとんでもないレベルの美女は俺を見て言った。確実だ。シャラートだ。
彼女は一瞬で、俺の間合いに入ってきた。相変わらずの動きだった。
そして、俺の頬に手を当てた。ヒンヤリとした体温が俺の中に染み込んでくる。
「シャラート……」
「アイン……」
「無事だったんだな」
12年前の邪神巫女の自爆。あれで俺とオヤジは日本に吹き飛ばされた。
シャラートとはその時、別れ別れになった。
一緒にいたときは「痴女」で「暗殺者」な部分にちょっと引いていたが、これだけの美女はやはり得難い。
しかも、こんなに立派に成長して。特におっぱい。
「髪は相変わらずですね」
細くやわらかな指が俺の髪の毛を触った。
「ああ」
「背が伸びましたね」
「まあ、そうだね」
12年前は俺の倍ぐらい大きく感じていたシャラートだったが、今は俺の方が少しだけ背が高い。
「ほらぁ! いたのよ! 息子はいたのよ! 父親もいるのよぉぉ! もうね、私の魔法は完ぺきなのよ!」
「うっせーな! んじゃ、父親はどこにいるか探せよ。殺すぞ?」
俺は声のする方を見た。
これまた、2人の超絶級の美少女だった。
「ライサ、アンタ、誰に喧嘩売ってんのよ? 私は、天才にして超絶禁呪使いのプリンセス様なのよ!」
声の主の金髪ツインテールが揺れた。まるで、金色の光を折りこんで作った絹のような髪の毛。
サラサラと揺蕩っている。
勝気な瞳は、吸い込まれそうなほど深い碧だった。
その瞳に影が出来るほどの長いまつ毛。これも金色だ。
ツンと筋が通り、尖った鼻。
北欧美少女のサンプルというか、それ以上。
年齢は少女というより、幼女に近い感じがした。
「あはッ! 潰れかけ王国のクソがいうねぇ…… てめぇが、そのつもりなら、ここでぶっ殺してやろうか? ああ? クソ姫、エロリィさんよ……」
凶悪なセリフであったが、声自体は「またお前か!」というレベルで深夜アニメのヒロイン級だった。
これまた、現実離れした美少女だった。
背が高い。すらりと伸びた手足が長く、体のラインも芸術的な水準。
左右非対称の長い髪の毛だった。緋色の髪だ。
やや釣り目気味の大きな瞳。その瞳もルビーのような色をしている。
歳はおそらく俺と同じくらいか。
とにかく3人とも3次元の水準を超えていた。
グー〇ル先生で「美少女」と検索して出てくる画像の中にも絶対に勝てる画像が無いレベル。
間違いない。この3人は異世界から来たんだ。
俺が転生した異世界からやってきたんだ。
「おい、アインザム一郎」
「俺をのその名で呼ぶな」
「では、天成」
声の主は、俺の後ろの席の奴だった。
千葉次郎というやつだ。俺と同じ漫画創作研究部所属の男だ。
ヒョロヒョロしたオタクだった。
「テロリストが知り合いか?」
「テロリスト?」
「学校を占拠して、政府と交渉を開始する気だ…… 終わった。 俺の閉塞したに日常は今ここに終了したのだ。ああ、俺は選ばれたのかもしれない…… 繰り返される閉塞した日常。逃げ場のない日常という檻が崩壊したのだ。 これは、革命だな。なあ、天成」
「『なあ、天成』じゃねーよ」
説明するのが面倒なので俺は無視する。
今起こっている現実は、コイツの妄想の斜め45度上なのだ。
俺の婚約者で異母姉とその仲間らしき美少女が異世界から来ましたとか、言えるわけがない。
ああ、コイツは言ったら信じそうだけど。余計に始末が悪いか。
「お父様は?」
「ああ、無事といえば、無事だ…… まあ、生きてはいる」
バガァーーーン
今度はベランダのガラス窓だった。
窓が粉砕され、飛び込んできた黒い影。
男だ。
その男は、教室にすっと立った。
ジャージ姿だった。
「会長だ! 会長が来た!」
生徒が騒ぎだした。
俺のオヤジだ。
国民的英雄となった俺のオヤジ。
今はなにを、やっているかというと高校生だ。
学年は俺の1つ下。1年生である。
見た目、明らかに30歳半ばであるが、現役の高校生になっていた。
異世界の救世主であり、こちらの世界でも国民的英雄となった俺のオヤジであったが、今やグダグダである。
俺の後を追って、高校に入学。
今や、1年生にして、学校を牛耳る生徒会長となっていた。
「池内真央先生―― この私が来たからもう安心です」
「ああん、天成君」
「緊急を要すると思ったので、ベランダから入らせていただきました」
雷鳴の勇者、俺のオヤジのシュバイン・ダートリンク。
日本の戸籍上の名前は天成・シュバイン・宗一郎である。
今は日本の高校1年生になっていた。30超えて。
こいつが、高校に入ったのは池内先生が原因である。
コイツはおっぱいが大好きだった。
考えてみれば、俺の母親であるルサーナも大きな胸をしていたと思う。
俺は、スケベな目で、ルサーナのおっぱいを見たことが無いので、意識していなかったがかなりの巨乳だった。
そして、シャラートだ。今のシャラートの巨乳を見れば、彼女の母親も巨乳だったのだろうと想像がつく。
でもって、コイツの目の前に現れたのは、人外といっていいレベルの巨乳の池内真央先生だ。
俺が高校に入学して、入学式で池内真央先生に会ってからだ。
「俺も、この世界で生きるため、学問をやろうと思う――」そう言って、俺の後を追って、この高校に入って来たのだ。
父親が下級生という状況だ。
「会長! テロリストです!」
生徒の1人が叫んだ。
「テロリスト?」
オヤジはゆっくりと首を回して3人の美少女達を見た。
「お父様……」
「あれ? もしかして……」
「はい、シャラートです」
顔色が真っ青になってくる。シュバインだった。
ギギギギと軋むような感じで首を俺の方に向けた。
「来たの?」
「そうみたいだな」
「お母さんは?」
プルプルと細かく震えながら、シュバインは言った。
周囲を警戒する。
目が泳いでいる。
「ここです―― アナタ――」
絶対零度を思わせる声がした。
教室内の温度が一気に下がった気がした。
教室の後ろ、粉砕されたがれきの山からゆらりと姿を現した。
サラサラと揺れる銀髪。
白磁のような白い肌。
まるで、時間が止まったかのように全然変わらぬ姿。
俺の母親にして「銀髪の竜槍姫」の二つ名を持つシュバインの嫁。俺の母だ。
その周囲の空間が「ぐにゃぁ」と歪んでいた。異世界最強の嫁だ。
「あああああ…… これは…… なあ、ルサーナ、これには……」
ガクガクと震えながら、俺にすがるように俺に視線を向ける。
俺はただ、首を左右に振るだけだった。
「ヒュン」と一陣の風のように間合いを詰めたルサーナ。
一瞬で、シュバインの懐に入り込む。
そして身を鎮めた。
全てが流れるような一挙動だった。
全身をばねを使った渾身のアッパーがシュバインのあごを貫いた。
垂直に吹っ飛ぶシュバイン。
そのまま教室の天井に突き刺さり、ぶら下がった。
ぷらーんぷらーんと、完全に脱力した足が揺れている。
「続きは、帰ってからです」
振りぬいた拳を構えながら、ルサーナは言った。
「お母さん……」
「アイン、アイン、アイン、あああ、ママってよんで! ママ! ああ、会えた! 私の可愛いいアインに! ああ、変わらないわ。いいえ、ずっと可愛くなったわ! 愛してる! 大好きなのよ、アイン」
ルサーナは俺に抱き着いてきた。12年で俺の身長はルサーナを抜いていた。
柔らかい体。良い匂い。確かに俺の母親のルサーナだった。
彼女は12年間の間時間を止めたように、ほとんど変わってなかった。
「ほらぁぁぁ!! もうね、やっぱり私の魔法が正解なのよぉぉ! 見つかったのよ!」
「あー、分かったよ。んじゃ、用事も済んだんだろ。なあ、シャラート」
「そうですね。では帰りましょう。エロリィ姫、転移をお願いします」
「きゃはははは!! もうね、天才の私が今から転移させるのよぉぉ、禁呪使いの私にしかできないのよぉぉ」
バーンと胸を張って、エロリィと呼ばれた少女は言い放った。
「禁呪?」
「禁呪なのよぉ! もうね、神聖ロリコーン王国に伝承されし、禁呪なのよ」
この世界では魔法は使えないはずだ。
俺は知っている。
転移魔法の使い手のシュバインも全く魔法が使えなくなっている。
それは、この世界に精霊がいないこと。
そして「魔素」とよばれる、魔力の元となる粒子のような物が希薄だからだ。
人間は「魔素」を吸収して、それを「魔力回路」で魔力に変換する。それ使い精霊を使うのだ。
この世界では入り口と出口が、まったく機能しない環境にある。
エロリィはスッと両手を広げた。そして呪文の詠唱を開始した。
「らめぇ、もっと濃い魔素が欲しいのぉぉ、私の魔力回路をパンパンにするくらいの魔素をドピュドピュ出して欲しいのぉぉ~ ほらぁ、もっとよぉぉ、もっといっぱい流し込んで欲しいのぉ、魔力回路の奥をコンコンしてほしいのぉぉ、グチャグチャにかき混ぜてほしいのよぉォ~ ああああ、らめぇ、らめっていってるのぉぉ」
なんだこの呪文……
これが禁呪か……
しかし、エロリィの広げた両腕の周囲に青白い魔法陣が形成されていく。その数が増える。まるで、光の腕輪をしているような感じだった。
『ダメよ! なんで、帰るのよ! アニメが! 漫画が! ゲームが! あっちに帰るのやだぁぁぁ』
『サラーム!』
俺の脳内でサラームが叫んだ。
「アイン! なにを? なにをしているの!」
シャラートが言った。
俺の全身が青く輝いていた。
『サラーム! やめろ! なにしている!』
『行かせない! あっちの世界には行かせないわよ!』
「あああああ! 行くのよぉぉ! あああん、行くのぉぉ―――! いっちゃうぉぉ」
『行かせないわよ!」
瞬間、俺の視界が青い光に包まれた。
ぐらりと、空間全体が歪んだような気がした。
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