あったかいふたりぼっち。

雨上かない

1日目 最後の1ヶ月と出会い(1)

煩わしいことしかない世界なんて終わればいいのに。思春期真っ只中の僕が夢見た空想は大人になっていとも簡単に叶ってしまった。テレビ番組はどこも速報ニュースばかり、震えるアナウンサーの声と頭を下げる総理大臣の映像、如何にこの地球が崩壊していくかを詳細に説明する研究者達。番組を変えれば変えるほど増していく音量が嫌になり、テレビの電源を切ると僕の耳には何の音も入って来なくなった。何故かは分からないけれど吐き気がした。あれほど求めた地球破滅が僕は嫌なのか。いや、そんなことはない。僕は人間が苦手で生きるのに向いていないのだから。

「ゆき」

僕がそう呼ぶと白くやわらかな毛を持つ猫は僕の足首に体を擦り付けた。僕が手を近づけるとそのざらざらとした舌で1度だけ手の甲を舐めた。

「今日は行くべきだろうか」

僕の今の仕事は路上ライブだ。毎週水曜日と日曜日に場所の許可を取り、人通りが少ない場所で行っている。路上ライブは僕のリハビリも兼ねているのけれども、世界は1ヶ月で壊れるのだ。行く必要を感じない。

「やめよう、行くの」

微かに呟くとゆきが僕の手に噛み付いた。

「痛…何!?」

視線をゆきに向けると早く行けと言わんばかりに僕のギターケースの上に移動した。低く鳴き声を出すと今度はギターケースから降りて、僕の足元で座った。猫の行動は分からない。知能は人に換算すると2、3歳くらいと聞いたことがあるが他の猫もこんなことするのだろうか。

「じゃあ、行ってくるよ」

じっと見つめてくるゆきの威圧感に負け、僕はギターケースを持った。路上ライブついでに地球が終わる事を知った人達の反応でも見てこよう。この部屋には鳥の声すら聞こえないから。





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