第195話蟻穴
1574年11月:マニラ近郊ジャングル:武田信春視点
武田信実:義信叔父・マニラ攻略軍副大将
武田信友:義信叔父・マニラ攻略軍副大将
武田勝虎:義信叔父・マニラ攻略軍副大将
武田信春:義信弟 ・マニラ攻略軍副大将
何故だ。
何故俺が、このような密林を行軍せねばならない。
俺とあいつらの何が違うと言うのだ。
確かに太郎兄者は、今の武田諸王家に多大な貢献をされた。
だがそれは、父上あっての事ではないか。
太郎兄者の嫡男や、嫡流の甥達と差を付けられるのは仕方がない。
だがあいつらは、俺と同じ妾腹ではないか。
同じ妾腹の庶子なのに、あいつらは疫病に罹らないように艦上に残され、俺と叔父上達は密林を行軍させられる。
このように差を付けられる謂れなどない。
いや、俺の母上は同じ武田一族の名門油川の出だ。
それに比べてあいつらの母は、どこの産まれとも分からない浮民の出だ。
俺や叔父上達こそ艦上に残り、あいつらが密林を歩かねばならないはずだ。
このようは不正義は、諸王国家の為にも正さねばならない。
太郎兄者は、合戦の才能はあるが、一族を束ねる才能がないのかもしれない。
諸王家の為には、俺が立たねばならないのではないか。
俺と同じように、太郎兄者の政に疑問を持っている一門がいるはずだ。
そんな同志を募って、名門武田家を正すべきだ。
太郎兄者の母は、所詮公家の出だから、武家の本当の願いが分からないのだ。
その点俺の母上は、武田の一族でも名門の油川の出だから、持って生まれた才能が違うのだ。
矢張り俺が立つべきだろう。
俺が立たねば、武田が公家や浮民の血で汚されてしまう。
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