第10話尾張再侵攻

『三河・岡崎城』

「本日只今より、俺の四男・井伊義直を副将とする。先のように、俺が直接軍令を届ける事が出来なくなった場合は、義直の命に従え」

「「「「「はっはぁ~」」」」」

 岡崎城に集まった今川衆が全員頭を下げる。

 上座には義元と義直、そして私・直虎が着座している。

「次に義直の後見役だが、今回の救援軍の後見役でもあった、井伊直平とおとわ改め・井伊直虎を任命する。俺が沓掛城に入った後で、白拍子や歩き巫女を使った伝令を、御前達は正しく活用できなかった。もしそれが出来ていたら、俺はもっと早くここにいただろう。同じ過ちを犯さないように、直平と直虎を後見役とする。」

「「「「「はっはぁ~」」」」」

 今川家の譜代衆は勿論一門衆も、不承不承ではあったが、大爺様と私の後見役を認めた。

 今回の一連の失態で、一門衆と譜代衆が不平不満を言えない今が好機だ。

 義直が義元の実子であるのは動かしようがないし、今回の援軍による功名も無かった事には出来ない。

 これからの織田家との戦いのために、今回の敗北を受けて、副将制度の導入と指揮命令系統の改善を言われては、一門衆も譜代衆も反対のしようがない。

 織田家との再決戦に備えて、部隊の再編成を行った。

 義元の救援軍と、一連の戦いで負傷した者を中心に、岡崎城の守備隊が編成された。

 これは非常時の後詰部隊でもあるから、義元が尾張深くまで侵攻した場合は、沓掛城に移動する予定である。

岡崎城:三千兵

    大将:井伊義直

    副将・井伊直虎・井伊直平

    負傷:松井宗信・久野氏忠

    城代:山田景隆

 義元は逃げ集まって来た部隊を再編成して、三千の兵を整えた。

 だがここ岡崎城で、桶狭間と沓掛の戦いで逃げ散った、今川と織田の雑兵を集めて軍勢を整え、五千にまで兵力を増やした。

 白拍子や歩き巫女を使って入念に周辺を探らせ、織田軍の気配が無い事を確かめて、改めて沓掛城に進んだ。

今川軍:五千兵

    大将:今川義元

    武将:松井宗信・蒲原氏徳・庵原之政・庵原忠縁・庵原忠春・富永氏繁

    武将:藤枝氏秋・長谷川元長・由比正信・吉田氏好・一宮宗是

沓掛城:五百兵

    城代:浅井正敏・近藤景春

 再度沓掛城に入った義元は、二之丸・諏訪郭・侍屋敷を修築して防御力の再建を図ると共に、各城砦に伝令を派遣して、侵攻軍先鋒の再構築を図った。

 桶狭間と沓掛の合戦で敗れ、大高城や鳴海城に逃げ込んだ将兵を、先鋒大将・井伊直盛の下で先鋒軍とした。

先鋒軍:一万兵

    大将:井伊直盛

    副将:瀬名氏俊・関口親永

    武将:飯尾乗連・朝比奈親徳・朝比奈秀詮・岡部長定

    井伊家:奥山朝利・中野直由・井伊直元・井伊直成

「直盛殿、中島砦の先鋒は我らに任せて欲しい」

「方々、揃って先方を願い出るとは、どう言うことでござるか?」

「我ら一同は、桶狭間と沓掛の合戦で武士の面目を失ってしまった。まして、直虎様の御知らせを受けているのも関わらず、御隠居様の救援に駆けつけなかった。こ命懸で働く以外に、名誉を挽回する余地がないのだ、何とか先方を賜りたい」

「相分かった。中島砦は貴公らに任せよう」

 随分と兵力は減ってしまったが、勝ち続けると自然と雑兵が集まってくる。

 最初に丸根砦から鳴海城救援に出陣したように見せかけて、手前の中島砦を攻撃し、守将の梶川高秀と梶川一秀兄弟を討ち取り占領した。

 桶狭間と沓掛の合戦で、義元の前で武士の面目を失った者達は、汚名を返上する事が出来た。

 中島砦は岡部長定を主将に任命し、兵五百を残して次に向かった。

 続いて扇川を渡って善照寺砦を攻撃したが、今回も汚名返上組が猛攻を仕掛けた事で、わずか一で砦を落とす事が出来た。

 織田方の佐久間信盛と佐久間信辰は、籠城に失敗して敗走した。

 守備兵五百の大半は、討ち死にするか降伏した。

 そこで飯尾乗連に五百兵を付けて、占領した善照寺砦を守らせた。

 続いて丹下砦攻撃しようとしたが、水野信光は丹下砦を放棄して、守備兵五百と共に槍の名手・岡田直教が守る星崎城に合流して、今川軍に対抗しようとした。

 丹下砦は、朝比奈秀詮に五百兵を付けて守らせる事になった。

 ここで井伊直盛は軍勢を戻す決断をしたが、それは兵力の再編成を行い、織田家に決戦を挑む為だ。

 砦を奪って守備の兵を入れた事で、直卒軍が八千五百兵にまで減っていた。

 そこで安全圏になった城砦から多すぎる守備兵を合流させ、攻撃力を元に戻すのだ。

「直盛殿、この度は先鋒軍の大将を拝命されたと御聞きしている、真におめでとうござる」

「いやいや、御隠居様の大事に、命惜しさに逃げ隠れする者が多くてな。指揮系統を刷新される事になったのだ」

「なに。俺が命惜しさに逃げ隠れしたと言うのか」

「それは、俺に言うことではないな。御隠居様に直接言うべきだろう。俺は、御隠居様から先鋒の指揮を任されている。泰朝殿には、兵二千五百を率いて、我が配下に入って頂く。残りの五百兵は親徳殿に指揮してもらい、鷲津砦を守って頂くが、それで宜しいな」

 史実での朝比奈泰朝は、今川氏真の命で井伊直親(井伊直政の実父・井伊直虎の元許婚)を殺している。

 井伊家とは不倶戴天の敵なのだ。

「俺に御前の部下になれと言うのか。そんな事は死んでも嫌じゃ」

「ならば直接御隠居様に申すのだな。だが兵は置いて行って貰う。兵と共に退くと言うのなら、主命に逆らい、怯懦によって敵前逃亡したとみなす」

「俺が臆病者と重ねて言うのか」

「何度も言わすな。御隠居様の危急にもかかわらず、沓掛城に駆けつけなかった。先鋒軍としての参陣も、砦に籠って出てこようとしない。これを臆病と言わず何を臆病と言うのだ」

「この鷲津砦を攻め落としたのは俺だ」

「実際戦ったのは、松平勢の本多殿と聞いている。泰朝殿は後方で見ていただけと言う事だが」

「そこまで言われては。もはや黙っておれん。織田など俺音人で攻め滅ぼしてくれるわ」

「誰が織田を攻めると言った。これから水野を攻めるのだ。鳴海と大高を最前線として、それより東を今川家の完全支配下に置く。ここは水野を攻める」

「どこでの誰でも構わん。我が武勇を証明してくれる」

 直盛は泰朝を怒らす事で、朝比奈泰朝と二千五百兵を先鋒には加える事に成功した。

「直盛殿、先鋒大将就任おめでとうございます」

「有難う、元康殿。これも元康殿が沓掛で協力してくれたおかげだ」

「何を申されます。我が妻・瀬名は、直盛殿の従妹ではありませんか。それにおとわ様、いや直虎様には、駿河で毎日お助けいただいておりました。親戚として助け合うのは当然の事でございます」

「そう言って頂けると心強い。これからも共に手を携えて、今川家の為に働こうぞ」

「はい」

 鳴海城 :三千兵:岡部元信

 中島砦 :五百兵:岡部長定

 善照寺砦:五百兵:飯尾乗連

 丹下砦 :五百兵:朝比奈秀詮

 大高城 :三千兵:鵜殿長照

 鷲津砦 :五百兵:朝比奈泰朝・朝比奈親徳

 丸根砦 :五百兵:本多忠勝・本多忠真

 尾張の織田軍に対する備えは十分に行った。

 その上で知多半島に攻め込んだ。   

 先鋒軍:八千五百兵:大将:井伊直盛

           副将:瀬名氏俊・関口親永

           井伊家:奥山朝利・中野直由・井伊直元・井伊直成

二千五百兵:松平元康・石川家成・酒井忠次

     二千五百兵:朝比奈泰朝

井伊直盛を憎み、名誉回復に燃える朝比奈泰朝は、自身の手勢だけで、名和城と平島城を攻め落とした。

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